第7話 つくつく法師

 つくつく法師は素早い。なかなか捕まえられなかった。つくつく法師が好きだった。可愛い形をしている。羽は透きとおっていて、体は緑のところがある。夏の高い青い空に良く似合う。


 僕は一直線に飛んでいる。馬鹿な餓鬼が網を被せようとした。そんなことはお見通しだ。さっと逃げて小便をかけてやった。ははは。馬鹿面が見ものだったぜ。


 つくつく法師が鳴き出すと夏休みは終わりに近づく。つくつく法師は掛け合いのように鳴く。掛け合いではなくてお互い邪魔しているのかな。夏が惜しい惜しいと鳴いていた。


 しまった!やられた!くそっ、こんな餓鬼に捕まるとは。


 やった!捕まえた!指が震えるほど嬉しかった。指先でつくつく法師はびーっと泣いて羽を激しく動かす。指にその振動が伝わる。

 僕は釣糸をつくつく法師の胴に巻き付けた。そして柿の木の枝に結びつけた。こうしとけば、しばらくは家でつくつく法師の鳴き声を聞くことができる。

 

 畜生!餓鬼め!なんてことしやがる、俺様の体をぐるぐる巻きにしやがって!畜生!畜生!この木から離れられない・・・空は広いなあ。俺はどこから飛んで来たんだっけかなぁ。いや、俺は絶対に空に還る。絶対に。あの空に還る。必ず。俺はあそこから来たんだから。


 翌朝早く、夜明けにつくつく法師が鳴いているのを聞いた。やった。思い通りになった。

 朝食を食べて庭に出た。柿の木の枝からつくつく法師がぶら下がっていた。まったく動かず。垂直に。

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