第2話 川

 渦。テトラポットの水音。明治の頃、西洋の治水学の権威が日本に招かれ、日本の川を見て「これは滝だ」と言ったという。

 その水面を魚たちが跳ねる。

 鮎の釣り人がいる。釣り人は動かない。

 向こう岸にテトラポットはない。草と土。

 日差しと川の渦。波波波波波ナミナミナミナミなみなみなみなーみなみ。

 僕は水の中を流されていく。川底の小石たちは綺麗だ。小さな魚たちは川上を向いている。僕の体がくるくる回っているのが見える。目は開いている。口も開いている。

 テトラポットの下には小魚が群れている。小鮒がいる。僕は鮒が好きだ。父親とも子供たちとも釣りに行った。鮒は針にかかるとぶるぶると心地よい振動が伝わってくる。あの頃は楽しかった。今となっては。

 僕の体はゆっくり回転しながら流れていく。

 足裏がスクリューのように回転している。それはしばらく見えていたが、小さくなっていって、水だけになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る