Chapter1 運命の日までのカウントダウン
Quest 1 「MMORPG『パンゲア紀行』」 -30days
さて、俺は今、MMORPG「パンゲア紀行」のゲーム世界に囚われている。どうしてこんなことが起きちまったのか、その発端をこれから振り返っていこうと思う。
事の発端……よりも、まずは俺がこのゲームを始めたいきさつから話したほうが良いな。ちょっと長い話になるが、しばしお付き合いいただこう。
話は1ヶ月ほど前に遡る。
◆
大学進学に伴って親元を離れ、一人暮らしを始めて2年が過ぎた。
授業は単位を落とさない程度に頑張りつつ、友達もある程度できた。どうにかぼっち回避に成功した形だ。
その友達の中に、祐天寺ナオトがいた。俺をあのネトゲに引き込んだ張本人だ。
地元からの進学組で、大学のある街に慣れない俺に色々と案内してくれたのを覚えてる。安いスーパーとか、コンパでよく行く飲み屋とか、学食に飽きたときの外食スポットとかを教えてもらったことで、この街で学生生活を送る上では困ることがなかった。
今の友達付き合いも、こいつの交友関係に拠るところが大きい。本当に良い奴だよ。見た目は不良上がりのヤンキーだが。オールバックにした髪に金のメッシュが入っててピアスも完備、切れ長の目つきは初見だと確実に敬遠されると思う。俺も最初そうだったし。
ただ、向こうは向こうで俺のことをインテリヤ●ザ呼ばわりしてくる。なんでも俺の第一印象が、
「ハーフリムのメガネかけてて三白眼だし、いっつも黒いジャケットに原色のカジュアルシャツで、言葉遣い荒いから筋の人が大学通ってんのかと思ったわ。特に赤いの着てる日とか、もう目合わせられねぇもん、埋められそうで」
だそうだ。失敬な。
いや確かに、いつだったか祐天寺と2人で大学の中庭歩いてたら友達から「え、何、若頭と鉄砲玉?」みたいなこと言われたけどさぁ。
単にこれは地元を出る時に服屋で気に入ったデザインのものを見繕って買っていったらこうなっただけのことで。俺自身は普通の格好だと思ってたんだけど。
俺のセンスっておかしい?
◆
閑話休題。
その日、俺は大学の食堂で飯を食ってた。
きつねそば定食に舌鼓を打っていたら、祐天寺の奴が牛丼のトレーを持ってやってきたんだ。しかも特盛。
こいつ、結構痩せてる癖によく食うよな、と思う。そんだけ食うと午後の授業確実に眠いだろうに。しかも今のこいつの格好はポロシャツにスキニージーンズだ。そんだけ食って腹が膨れるとキツくならないんだろうか。ズボンの腹回り的に。
「お、神田じゃん。相席いいか?」
「おぉ、祐天寺」
祐天寺の奴と飯を食いながら、ここ最近の近況を話し合う。漫画の新刊が出たとか、教授の無茶な課題の愚痴とか、他愛もない話だった。
最近遊んでるゲームに話が及んだ時、俺はそのゲームの名前を祐天寺の口から聞くことになった。
「最近だとやっぱ『パンゲア』だな。『パンゲア紀行』。ネトゲだけど」
「ネトゲか……あいにくあんまり手を出したこと無くてな」
ネトゲと言っても、最近の家庭用ゲームやPCゲームはだいたいオンライン機能がついていて、協力プレイや対戦プレイはもう当たり前になった。今じゃ敢えて「ネトゲ」という言葉を使う場合、もっぱらMMORPGを指すことが多いと思う。
MMORPGは、多人数の同時接続を前提としたRPGだ。プレイヤーはNPCや自ら作ったキャラではなく、他のプレイヤーとパーティを組んで冒険する。
俺が生まれたくらいの時期、1997年にサービスが始まった「ウルティマオンライン」が現代におけるMMORPGの始祖とされている。自由度の高さと完成されたシステムが特徴で、この2つを実現させたMMORPGはウルティマオンライン以降未だに現れていないと今でも言われているほどだ。
ソーシャルゲーム全盛期の昨今だが、MMORPGは今でも根強い人気を誇っていて、プレイヤー人口もなかなか多い。ネトゲを題材にした小説や、近未来を舞台にしたVRMMOものなんてジャンルも隆盛するほどだ。もっとも、現実ではVRはまだまだ黎明期で、家庭用だとゴツいVRゴーグルをつけるだけで、コントローラの呪縛からはまだ解き放たれきっていないわけだが。
ただ、やはり後発ユーザーは手を出すにあたってちょっと躊躇するのがこの手のゲームの難点だ。そのゲームのプレイヤーがすでに独自の文化を築き上げていて、一見さんお断りな空気がどうにも馴染めなかったりする。
まぁ、そんな客を取り込むために、各ネトゲの運営も色々とキャンペーンを展開したりしているようだが。序盤に手厚いサポートが入ったりとか、ある程度アイテムを貰った状態で始められたりとか。メンター制度と言って、運営が選んだ初心者指導専門のプレイヤーのサポートが受けられるゲームなんてのもあるらしい。
「しかしその『パンゲア』ってネトゲってそんなに面白いのかね」
「最近のネトゲにしてはなかなか自由度が高いんだ。オープンワールドを採用してて、クエストもかなり豊富に用意されてる。定期的にイベントとかも開催されてるし、結構飽きないぞ。あと、キャラの見た目もこだわってたら1日終わってたりするしな」
ネットゲームでオープンワールドとはなかなか珍しいな、と思う。
オープンワールドというのは、最近の欧米のゲームでは定番になりつつある、作中の世界を自由に歩き回ることができるタイプのゲームのことを言う。マップが区切られていないのが最大の特徴で、街を出たら画面が切り替わったりとか、一見行けそうなところが透明な壁で遮られたりとか、そんな制約が取り払われていて、行けるところにはシームレスに行けてしまうのが魅力の一つ。
1人用のゲームであれば、この手のゲームは結構多いんだが……ここ最近のネトゲでオープンワールドってのはなかなか聞かなかった。思い切ったな、とすら思う。
「そうだ、神田もやろうぜ『パンゲア』。なんだったら俺が色々教えるし」
「経験者のサポートがあるならありがたいけど……結構やりこんでんのか?」
俺が聞くと、祐天寺の奴は不敵な笑みを浮かべた。
「何を隠そう、俺はサービスイン以来のプレイヤーだからな。自分がアタマやってるギルドもある」
こいつがアタマって言うと暴走族とかカラーギャング的な集団率いてるように聞こえる。いや実際は健全なんだろうけど。
ただ、古株のプレイヤーが手助けしてくれるのは非常にありがたい。そのゲーム独自の文化が身についていることは確実だし、ギルドを率いてるのであればその交友関係からパーティのメンツ探しにも困らないだろう。
ちなみに、ギルドというのはこの手のゲームでよくある、プレイヤー同士のグループだ。最近だとソシャゲなんかでもギルドシステムを設けているところはあるので俺にも馴染みのあるシステムだが、基本的にプレイスタイルの似通ったプレイヤー同士で集まったり、リアルやネットの知り合い同士で集まったりすることが多い。ギルドには所属するだけで経験値が多く貰えたり、共用倉庫を使えたりするなどの特典もある。
序盤からこうしたサポートを手厚く受けられるのはとても心強い。
「ふーむ……まぁ、たまにはネトゲに手を出すのも悪くはないか。一丁よろしく頼む先生」
「あいよ、任されて」
そんなわけで、俺はその日の大学の授業を終えて自宅に帰ると、パソコンに「パンゲア紀行」のクライアントをインストールする作業に入るのだった。
◆
自宅のパソコンがゲーミングPCで助かったとこれほど思ったことはない。こつこつ稼いだバイト代で先月買ったばかりだが、なかなか高性能だ。
グラフィックも綺麗だし、最近のPCゲームはだいたい動作保証がついていた。その中には「パンゲア」の名前もあって、ベンチマークテストによると快適にプレイできるらしい。
インストールも終わり、アカウントも登録した。サービスインからそれなりに時間が経っていることもあって、これまでに適用されたパッチが雪崩のようにインストールされていく。その間に、俺はスマホを開いてメッセージアプリで祐天寺に連絡をとった。
《今インストールしてる》
祐天寺からの返信は早かった。待ち構えていたらしい。
《おk チュートリアル終わったら最初の街に放り出されるから、『鹿の角』って宿屋で落ち合おう あとキャラ名教えてくれれば助かる》
キャラ名かぁ。あんまり考えてないけどSNSで使ってるハンドルネーム流用するか。通りもいいし。
《一応SNSの垢とおんなじ名前にするつもり》
《MANTA-RAYか 把握》
そんなやりとりをしたり、ソシャゲのデイリークエストをこなしたりしている間に、インストールが終わったらしい。ゲーム機につないでいたコントローラをパソコンにつなぎ替える。最近のゲーム機はUSB接続を採用しているためか、コントローラをそのままパソコン用のゲームパッドに流用できるのだ。いい時代になったもんだと思う。
クライアントを起動すると、開発企業のロゴに続いてタイトル画面が目に飛び込んでくる。ゲーム内世界の世界地図を背景に、『パンゲア紀行』のロゴが大書されている。
このゲーム名の由来と思われる「パンゲア」というのは、2億5000万年前に存在したとされる超大陸の名前だ。地球の陸地は大昔、ひとつにまとまっていた時期があったらしい。その後、地殻変動を経て今の世界地図でよく見る陸地が形成されたというのが現在の定説だが、異世界の名前に持ってきたのは面白い。
実際、背景の世界地図は大陸がひとつにまとまっている様子はなく、3つの大陸と島々で構成されているようだ。ホント、なんで「パンゲア」なんて名前にしたんだろうな。
タイトルロゴの下に「Press Any Key」という文字が点滅している。その表示に従い、俺はコントローラのボタンを押した。
一瞬画面が暗転した後、キャラクタークリエイト画面に遷移する。ここで、このゲーム内における俺自身の姿を決める必要があるということだ。
種族は6種類。現実と同じような人間・ヒューマンに加えて、耳が長く容姿が若々しい妖精族・エルフ、角や尻尾、翼などが生えている魔族・オーガ、身体のどこかに獣の特徴を持つ獣人・セリアンスロープ、見た目はヒューマンとほぼ変わらないが身体のどこかに竜の特徴を持つ竜人・ドラゴニュート、そして古代の錬金術師が作り上げた自動人形・オートマトン。これらの中から自分の種族を選べるようだ。
種族にはそれぞれ固有の技・「レースアーツ」が存在するらしい。ヒューマンであれば1日に1回、短時間の間全潜在能力を解放する「オーバーリミット」、エルフならば短時間姿を消すことができる「ステルス」、といった具合だな。
俺は一定時間の間竜に变化して強力な範囲攻撃を仕掛けたり、飛行能力を獲得できる「チェンジドラゴン」を持つドラゴニュートを自分の種族として選ぶ。竜に変身できるのはなかなか魅力的だ。このゲームはオープンワールドだという事前情報を聞く限りでは、移動に重宝しそうなイメージがある。
いや、徒歩でゲーム内世界をじっくり堪能するのも乙なもんだけどな?
それからしばらくして、容姿パラメータの設定、初期スキルの取得を終えて、ついに俺は「パンゲア紀行」の世界に降り立った。
始まりの街、アトラス大陸の聖都・ロディン。
その神殿の前に、「パンゲア紀行」における俺の姿が立っていた。
シャギーの入った銀髪に、切れ長の目。瞳は金色だが、その瞳孔は爬虫類のように縦に細長い。今は身を護る最低限の防具として、レザーアーマーを装備している。
背にはマスケット銃が装備されている。現在のように、銃の後方・薬室から銃弾を込める元込め式とは異なり、銃口から弾を入れる先込め式の原始的な銃だ。日本人にとって、この方式の銃は火縄銃が馴染み深い。
初期装備の武器はジョブによって変わる。ソーズマンやパラディン、ウィザード、プリーストといったジョブの中で、俺が選んだのはガンナーだった。FPSやTPSの心得はあるし、正面切って戦うよりは遠距離から撃つほうが俺の性に合っているからな。
周りの風景は17世紀~18世紀のヨーロッパを思わせるような、バロック様式の建物が建ち並んでいる。如何にも、王道のファンタジー世界といった趣だ。
そして、行き交う人々。皆プレイヤーキャラクターだ。重厚な鎧を身に着けた騎士や、魔術書や杖を抱えた魔術師たちの姿。ここにいる一人ひとりが、それぞれの冒険を楽しんでいるのか、と感嘆せざるを得ない。
「やっぱり賑わってんだな……まだまだMMORPGも捨てたもんじゃない」
知らず、そんな感想が漏れる。
と、目の前の光景に圧倒されている暇はなかった。先程から画面に「神殿でチュートリアルを受けましょう」という表示が出ている。
何にせよ、まずはゲームの基本を抑えておかなければ。俺は目の前にそびえ立つ神殿に向かった。
神殿に入った俺の目に飛び込んできたのは精巧に作られた女神像だ。この世界で冒険者を導く役割を持つ、女神ロディニア。整った顔立ちに、長い髪。重厚な鎧を身にまとい、背中からは天使のような翼が生えている。
その女神像に近づくと、突如メッセージウィンドウが開いた。
「待っておりましたわよ、新人冒険者さん」
どうやらチュートリアルの案内役はこの女神様と見ていいだろう。案の定、女神像に雷のようなエフェクトが落ち、目の前に女神像と瓜二つの女性が現れた。
「わたくしが冒険者の神、ロディニアですわ。これから冒険を始める貴方に、まずは基本的なことをお教えしますわよ」
しかしお嬢様みたいな喋り方をする女神だな。「てよだわ言葉」ってやつかこれ。
「では、まず戦闘からですわね。街の外は魔物や盗賊が跋扈する危険な環境。ひとたびそこに足を踏み入れたら、戦わざるもの生き残るべからずという世界ですわ」
さらっと過激な発言をする女神様。この人冒険者の神というよりも戦いの神だろきっと。なんでそんなウォーモンガーなセリフが出てくるんだ。
「では、立ち話もなんですし、実地に向かいましょう。こういうものは身体で覚えるのが一番でしてよ」
その女神様の言葉を最後に、俺と女神様の姿は神殿からかき消える。
画面が切り替わり、街の外、草原地帯にやってきた。
「では、これより戦い方を解説します」
女神様の授業が始まった。俺はコントローラを握りしめる。
さて、どういうシステムなのか見せてもらおうか、「パンゲア」。
◆
「なるほど、パーティプレイ前提ってことか……」
女神様のチュートリアルが終わり、俺は神殿に戻ってきた。
戦闘システムはかなりわかりやすかった。いわゆるTPSで、敵も味方も自由に動き回りながら、臨機応変に攻撃や防御を行う必要がある。
できることは、通常攻撃やアイテム使用に加えて、技であるところの「アーツ」がある。
アーツの出し方は簡単で、アーツを出すためのキー入力やコマンドを予め割り当てておくことで、戦闘中にその操作を行うだけでアーツが出せる。キャラ選択の時に説明のあった「レースアーツ」もアーツの一種だ。どれもクールタイムが長かったりするので、ここ一番というときに使う想定なんだろう。
アーツ自体は特殊技といった趣だ。どのジョブでも共通して取得できる共通アーツに、ジョブ固有のアーツもある。今はまだ基本的なものしか使えないようだが、今後色々と覚えていくことで戦術にも幅が広がるはずだ。
さて、そろそろ祐天寺と合流するか。確か「鹿の角」って宿屋だったか。
マップを開き、宿屋「鹿の角」の位置にマーカーをセットする。こうすることで、自動的に目的地までのナビゲーションが行われる仕組みだ。
「そんじゃ、行きますか」
チュートリアルを終えて、俺は「パンゲア紀行」の第一歩を踏み出した。
◆
「ロビーで待ってりゃ良いのかね……」
目的地の宿屋にたどり着くと、俺は所在なさげにロビーに自キャラを立たせていた。
ロビーにはプレイヤーがそこそこ集まっている。俺と同じく待ち合わせだろうか。
中には近くのプレイヤー同士でチャットに興じていたりするプレイヤーもいる。互いの近況やらアニメの感想やら。話す内容はリアルとそう変わらないらしい。
まぁ俺も、これからリアルの知り合いと遊ぶわけだから、人のことはあんまり言えないが。
しばらくして、宿屋に一人のプレイヤーがやってきた。
紫の髪に真っ赤なマント、手には禍々しい杖。背も高く、出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいるグラマラスな美女だ。しかも、身につけた鎧はレオタードのように胸元から腰までを覆っているものの、それ以外は完全に肌が出ている。その鎧の形状は妙に刺々しく、ぱっと見ると特撮番組の女幹部か、と思ってしまいそうになる。
《すまん ちょっと別のクエスト行ってて遅くなっちまった》
俺に個別チャットが飛んでくる。チャットのチャンネルは通常・全体・パーティ・ギルド・個別の5種類があり、今飛んできたのは1対1の個別チャットだ。
「……祐天寺かこれ」
目の前のヴィラン然とした美女、まさかのヤンキー祐天寺。キャラクター名を見ると「魔王団長☆ナオ」とある。女幹部どころか魔王名乗ってやがった。
《いま来たとこだから大丈夫》
《おk とりあえずパーティ組むか》
文章チャットもそこそこに、パーティ申請の文字が出る。俺は受諾した。
パーティリーダーに祐天寺のキャラクター、魔王団長☆ナオの文字が、その下に俺のキャラクター、MANTA-RAYの文字が表示される。
さらに、ボイスチャットの申請も飛んできた。これボイスチャットもできるのか、便利だな。こっちの申請も受けて、パソコンにヘッドセットを接続する。
「あっはっはっはっはっはっはっは……やべぇ腹いてぇ……!」
ボイスチャット開始直後、ヘッドセットから聞こえてきたのは祐天寺の大爆笑だった。
「開口一番に大爆笑する奴があるかお前、どうしたんだよお前」
呆れ声を出す俺に、祐天寺の奴はヒィヒィと笑い声を漏らしながらようやく返事をした。
「いや悪い悪い、キャラ見たらさ、なんか……若頭の眼力がやべぇのなんのって……」
「誰が若頭か」
どうやら俺のキャラの容姿が相当ツボったらしい。いや意味がわからん。俺のセンスは結局どこまでいっても任侠の世界の若頭なのか。
「待って……ちょっと待って、良いこと思いついた」
「良くねぇよこの流れでそのフレーズ良いことの試しがねぇよ」
俺のボヤきも虚しく、祐天寺のキャラは宿屋の奥にあるアイテムボックスに向かっていた。あのアイテムボックスはいわゆるアイテム倉庫で、街の施設に備え付けられたものだ。どのアイテムボックスからも、自分が預けたものを引き出すことができるようになっている。
「えーっと確か……あったあったあったあった」
ダッシュで戻ってくる魔王団長☆ナオ。
そして次の瞬間、俺の目の前に現れたのはトレード申請画面だった。
「は?」
「あ、何も言わずただOKボタン押してくれればいいから」
はぁ。いや、嫌な予感しかしないんだけどね?
次の瞬間、開かれたトレード画面上に、祐天寺のインベントリからどんどんアイテムが追加されていく。ガンナー用の装備として、マスケットよりも額面上高性能な銃・ソードオフショットガン。さらに防具がいくつかと、アウター装備?
このアウター装備というのは、見た目だけのデータを持った装備品で、装備の上から被せることで見た目だけを変えることができる代物だ。
ただ、この装備の名前、「フォーマルスーツ」って書いてあるんだが。
「とりあえず今のアイテム全部装備してみ」
「お、おう」
マスケットを外してソードオフショットガンに切り替え、レザーアーマーからより防御力の高いシェルジャケット、さらに足の装備としてレギンス、腕の装備にナックルガードが装備される。その上から、アウター装備のフォーマルスーツを被せると……。
装備が完了した瞬間、またしても祐天寺の大爆笑が鼓膜を刺激した。
「ぶははははははははは! 組長だ組長……!」
「昇進しちゃったよオイ」
スーツに身を包んだ銀髪の目つきの悪い男+ショットガン。
完全に筋のお方である。ファンタジーどこ行った。
しかも、なお悪いことに、俺はキャラメイクの段階で顔に傷をつけた。ちょっとだけ歴戦の強者感出してもいいよな、と思い目のあたりに切り傷を入れたのだ。
それが仇となり、完全に刀傷沙汰を潜り抜けてきた任侠の人と化している自キャラの現状。出来心から傷をつけたキャラメイク最中の俺を全力で呪い殺したくなった。
その後、その日はナオこと祐天寺から色々と応用的なことを教わったんだが……結局、『パンゲア紀行』最大の思い出は祐天寺の大爆笑と、魔王の手によって闇堕ちならぬ任侠堕ちをさせられた自キャラの姿というしょうもない記憶となるのだった。
先が思いやられる。
運命の日まで、あと30日。
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