第20話 違和感1

 しろがねの村までは、午前8時と午後6時にしかバスの本数はない。いろいろ調べた結果、自宅を出るのは午前5時ということになった。累計移動時間は4時間から5時間といったところか。

 うっすらと明るくなった空を見上げながら玄関を出る。親にはそれぞれの家庭にあった嘘で2泊3日を獲得することとなったので、僕は勉強合宿という名目を嘘とした。とにかく苦労したのは交通費だ。結局僕の本棚はほぼすっからかんである。

 とりあえずみんなと合流するのは、市内から少し辺鄙な場所にある、銀の村行のバス停の前ということになった。

 まもなく市内というところで、偶然にも眼鏡と合流した。まぁ、限られたバスの本数で一緒になるのは致し方ないのかもしれない。しかし、前回市内の図書館に行った際に乗ってきた秋葉の姿はそこにはなかった。

「ふわぁ~、久遠おはよう。てか、秋葉さんがいないな。」

眼鏡もそのことに気付いたらしく、早朝のバスの中を一目した。

「昨日電話したんだが体調壊しているみたいだね。最悪3人で調査かな。」

僕がそう答えると、

「彼女不在とか寂しい調査だな。」

と、眼鏡が嫌味を言いながら僕の隣に座ると、眼鏡をはずしてアイマスクを装着した。

 その後すぐ、僕と眼鏡は早朝だったせいか終着の市内まで、自然と眠りについた。お互い、前日に金銭をかき集めることに苦労したのだ。まったく、学生という身分は何かと自由度が低い。

 それから僕と眼鏡は終点の市内でバスを降り、コンビニで朝食を購入したあと、歩くこと約30分。合流地点のバス停に到着した。

 そこには須崎さんが先に到着していて、向かってきている僕たちに気付いて駆け寄ってきた。

「おはようございます。」

「「おはよー。」」

僕と眼鏡は缶コーヒーをすすりながら、挨拶を返す。現在の時刻は午前7時40分。やはり、秋葉は体調不良で来れないのだろう。僕が腕時計を見てそう思ったとき、目の前にタクシーが止まり、そこから秋葉が降りてきた。

「ごめん。ちょっと、準備に手こずっちゃって。」

その瞬間に蝉の鳴き声が、フル回転する僕の思考から排除された。僕は理解したのだ。これは違う何かであると。その違和感は、言葉で表現するのは難しい。強いて言うなら、姿形は間違いなく秋葉そのもので存在自体も間違いではない。完璧なはずのそれに僕の第6感が告げる違和感。

 僕は理由のない確信とともにドッペルとの闘いを覚悟した瞬間だった。

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