第17話 悪夢3
翌朝目覚めるとものすごく頭が痛い。これが俗にいう二日酔いというものだろうか。時刻はもう正午だ。
「兄さん。やっと起きた。今日は夏休みの宿題手伝ってくれる約束だよ!」
朝霞がリビングのソファーから起き上がる僕に言う。
「あぁ、そうだった・・・け?」
そんな約束の記憶は微塵もないが、昨日の夜秋葉から聞いた内容だと、そういうこともあったのかもしれない。
「数学わかんない!」
「そうか。てか、秋葉は帰ったのか?」
昨日見た悪夢の内容と、秋葉と話した内容。どれもが不快でしかないが、無意味とも言い難いのは不思議と予感がするから仕方がない。
「え?花火見た後帰ったよ?あー、酔い潰れてたもんね、兄さんは・・・」
「そっか。帰ってたか。」
そう答えて、ゾクリとした。昨日の深夜、僕は秋葉と会話をしていた。これはいったい___。
「そういえば、酔っ払ってた時の記憶がない。僕は、秋葉とか朝霞に何かしたか?」
ピシッと朝霞が固まる。石化の呪文にかかったみたいだ。
「えー、それはもういろいろと。」
「そこは同意見か。」
「は?」
「いや、何でもない。で、何したの?」
「それは、自分で秋葉さんに聞くことね!バカ!」
朝霞が不機嫌になった。いったい何をしたのだろう。当事者が教えてくれないのは本当に辛い。なにせ、わからない上に不機嫌になるんだから。
「そういえば姉さんは?」
話を変えよう。僕は冷蔵庫に赴いて、コップにお茶を注ぐと朝霞の横に座る。
「あー、彼氏が風邪ひいたとかで、慌てて朝方家を出て行った。」
朝霞は、数学の因数分解と二次方程式が大の苦手のようだ。全然問題が進まない。
「なるほど。ま、この問題はグラフを実際書くと速い。その後、範囲を求めたら、台形になるんでそれを計算したら終わりだ。」
「なるほど。わからん。」
「なんでだよ。」
「愛が足りない。わからせようとする、愛が!」
「はいはい。」
その後も、しょうもない掛け合いをしながら、朝霞の宿題の面倒を見ながら僕は考えた。
昨夜の朝霞はそう言えばどことなく違和感があった気がする。別人ではないが、本人でもない。それでいて、何もかも知っているような___。
しかし、朝霞が言ったようにすぐに帰っていないとなるとどうだ。だが、朝霞は基本的に嘘をつかないことからも間違いないだろう。
では、昨夜の秋葉は何のために存在したというのか。分身でもしたというのか。
同じ人間を別の場所で目撃するというのはいったい何なんだ。そう、考えてみて思い至った。死期が近いと現れるという、オカルトの定番。ドッペルゲンガー。
まさか___、な。僕は朝霞の
「試してみるか。」
「え?」
朝霞がポカンとした顔で聞き返してきた。
「いいや、朝霞はやればできる子だと思ったってこと。」
「えへへー。当然!」
夏の昼下がり。リビングには鬱陶しいくらいのセミの声に紛れて、ヒグラシの声が混ざり始めていた。
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