第15話  悪夢1

 始まりは夕闇に包まれた見慣れた校舎の中から始まった。人気ひとけのない校舎は静まり返っていて、湿った空気と生暖かい空気が充満している。階段の付近に僕がいることは理解できた。しかし、どうしてこんなにも鼓動が脈打つスピードが速いのか。心臓に手を当ててみて、気付く。僕の手は血塗れだ。

「どうして?」

背後から声がした。その声は、悲哀に満ちている。聞いたことのあるその声の主を僕は知っている。でも、僕はそれにとどめを刺したはずだった。振り返る勇気は持ち合わせていない。一目散に目の前の階段を駆け上がる。3階の階段の折り返しで声の主を確認した。

 そう、殺したんだ。それは真っ赤な海に横たわる首なしの肉塊だ。

 ふと、我に返る。どうしてこのようなことをしたのだろう。いったい何のために。

「どうして?」

上から声がした。赤いものがしたたり落ちてきたから、それが上にいることは容易に理解できた。逃げなくては。でも、足が動かない。

 気付けば、首なしのそれは僕の足をつかんでいた。ものすごい力だ。足元から視線を上げると、それは目前にあった。血塗れで血涙を流す、泣きぼくろが特徴的な彼女は、首だけで僕に問うてきた。

「どうして?」


「生贄がいる。」

暗転した、別の空間で身動きの取れない僕は、知らない男の声が聞こえて気付く。縛られているのか。手首と足首が痛い。

「山神様の怒りを鎮めるのだ。」

僕は持ち上げられてどこかへ運ばれているようだ。

 そうして、投げ落とされた。腰から激しく打ち付けられて、激痛が走った。その拍子に、視界が戻る。頭にかぶせられていたものが取れたようだ。そこは大きな穴だった。見上げると、男たちが囲んでいる。月の光がまぶしくて顔が見えない、男たちのシルエットは僕に何かをかけてきた。

 それは土だった。僕は藻掻いた。声を上げたかった。口が縛られていて、それも叶わない。

 闇に包まれて。苦しい。憎い。どうして___。


「地蔵が嗤っていたんだ。」

目の前にいる、少年はそう答えた。いったい何なんだ。これは夢なのか。徐々に自分の状況と理解不能な断片的な物語に僕の意識は平静を取り戻す。僕は今、警察官のようだ。

「それは、あの三差路で見たのか?」

僕はそう質問していた。

「だから何度もそう言っているでしょ。」

少年はすでに憔悴しているようで、目に光が無い。虚空を見つめている。まるで僕の背後の深淵を見るようだ。僕はその視線の先が気になって、振り返る。

「どうして?」

___それがそこにいた。

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