第14話 花火大会5
わずか2時間足らずだというのに、異常に疲れたという感想しかないかもしれない。秋葉と朝霞に振り回されつつ、屋上での花火を観るときの食料の調達を視野に、かつ、両方の機嫌を取らなくてはいけない。では、楽しくなかったのかと問われると、そうでもないかもしれない。しかし、疲れの方が全てにおいて上回っていたということは言える。
「疲れた。」
僕は、屋上のテーブルに焼きそばやらたこ焼きやらを並べながらため息をつく。
「兄さん、あの変態眼鏡はなんで今日は眼鏡してないの?」
朝霞が紙コップやらを並べながら聞いてくる。
「あー、それはですね、自業自得というか、天罰で壊れたからです。」
横から須崎さんが現れたかと思うと、何も言うなという視線を送ってきた。なので、そうした。
「朝霞ちゃんの声はするけど見えないというのは寂し、ぐほっ!あぁぁぁ!」
朝霞の肩に、後方から忍び寄る神崎の手が触れた刹那、朝霞の肘打ちと、須崎さんのアイアンクローが炸裂した。なんか、僕の周りの女性陣は基本的に物理に走る傾向があると判断基準に付け加える必要があるようだ。
「じゃーん!夕花特性のパエリアとピザだよー!」
殺伐とした現状を打破するかのように、出来立てなのだろう、ジュワジュワと音を立てる美味しそうなものを姉さんが持ってきた。ヤンキーみたいなのに、見た目とか料理技術は一級品という、もう、訳の分からない姉であるのは考えないようにしたのはいつだったか。
「主人公ってすごい!」
秋葉が姉の料理を見て、そう言うと、
「やはりそう思うか。同志よ。」
と、神崎が秋葉に近づくと、握手を求めたようだ。秋葉は無言で焼き立てピザをその手の上にそっと置き、
「
と回答していた。
「そっか。チーズが熱くて手を火傷したようだ。でも、美味い!」
神崎は、ピザを口に放り込むと、クーラーボックスの氷の中に手を突っ込んだ。そして、口内も火傷したようだ。続いてお茶を一気飲みしている。忙しいやつだ。
姉さんと朝霞は秋葉に色々質問を始めたようだ。須崎さんは、神崎に追撃と言わんばかりに熱々のパエリアを食べさせようとしている。
僕の両親は父が警察官で母が外科医と、両者ともに泊まり勤務があるからなかなか家にいないことが多い。だからだろうか、こういった賑やかさは仄かに心を温められるような感じがした。
一人しんみりしていると、秋葉が隣にやってきて、
「楽しいね。」
と、ラムネを差し出してきた。
「そうだなー。」
僕はそう答えて、ビー玉を押し込む。そしてそれは爆発した。後ろで、須崎さんと神崎が爆笑している。隣の秋葉を見ると、アッカンベーのポーズである。憎めない可愛いもので、どうしようもない気持ちになった。
「炭酸足りないな、これ。」
平然を装って飲むことにした。手と顔をしたたるラムネそのままに。
___ヒュウゥゥゥー。バン、バン、バン。バララララ・・・。
そうして、花火が上がる。みんな一斉に顔を上げ、花火に視線が移動した。
___前言撤回。楽しい。
僕はそう思って、花火を見上げるのだった。
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