第13話 花火大会4

 河川敷の花火大会は意外にも大きな花火大会で、忘れていたが、カップルも多く存在するし、逆にそうでなくても、男女それぞれグループで楽しみに来る者達も大勢いる。そのことを完全に失念していたというか、僕はそもそもこのように人が多いところに好んでいくタイプではない。つまり、この花火大会に正式に参加するというのは今回が初といったところだろう。

 そこで、客観的に今の状況を見てみるととんでもない状態であることに気付いた。学年の男子のあこがれの秋葉が、浴衣を着て、僕と手をつなぎ、祭りに参加しているのである。僕自身、奇跡と思う光景であるのだが、1学期のある事件・・をきっかけで、確かに秋葉との接点は多くなって、下手したら学校ではよく一緒にいたような気もしないでもない。しかし、これまずい。学校の他の生徒に目撃されたりでもしたら、2学期はもしかしたら1学期以上に大変な目に遭いそうだ。

「あー!私との約束では行かないって言ってたのに。誰よ、この女!」

実に聞きなれた声。忘れていた。気付けば、空いていた左手はこいつに握られている。こいつとは、まさしく妹の朝霞あさかである。朝霞は2つ下の妹だが、ちょっとブラコンの癖があって、正直困る存在でしかない。

「朝霞。でも、ついさっきまで行く予定はなかったんだ。」

僕は朝霞を兄離れさせるためにも最近は少し冷たい態度で通している。ため息交じりにそっけない対応に徹するとしよう。

「下の名で呼び捨て?仲がいいのね。誰、この。」

朝霞に気を取られていると、右手の方からいつもの声とは1オクターブ低い声が聞こえた。笑顔がとても綺麗なのに、目が笑っていないってなんでこんなにゾクリとするんだろう。

 目立たないようにしようとしていた矢先にこれである。確かに、今年のお御籤みくじでは女難の相が出ていたな。そんなことを微かに思い出しつつ、周囲の視線に見知ったものが多々存在することを理解した。そして、絶望感と虚無感に苛まれつつ、朝霞に効果的な言葉を厳選して言い放った。まさに、大魔法と言える。

「朝霞も浴衣着てたんだな。いつものツインテールも可愛いのに、髪を上げても可愛いな。せっかく可愛いのに、兄さんはそんな朝霞の怒った顔は見たくないな。」

「なっ、兄さん。私、実の妹なんだよ。そんなセリフ人前で言うなんて___。」

よし、効果は抜群だ。だが、いつもこうして甘やかしているのがいけないのでないかとの疑念がよぎったが、秋葉の機嫌を最優先に回復する手段としては、最適解だと判断し、合理的に解釈することとした。

「兄さんってことは、、、妹さん?」

秋葉が朝霞をじっくり観察している。そして、

「眼鏡の言っていた主人公・・・とはあながち間違いではないわね。」

と、悔しそうに呟くと、

「久遠、りんご飴食べたい!」

と、僕の右腕を引っぱった。

「兄さん、わたあめ買って~。」

と、左腕が朝霞に引っ張られた。

 ここで、客観的に自分の置かれた状況を考えると___、以下略。逆に、主観的に見れば地獄なんだけど、世間はこれを許してはくれないのだ。

 結局、客観的に見れば両手に花のような状態で、花火を観るときの食べ物を適当に屋台で購入し、帰宅することになった。

 僕はやっぱりこういった祭りは向いていない。そう、改めて強く思った。

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