第12話 花火大会3

 花火が打ち上げられるのは午後7時から9時までで、現在の時刻は午後5時である。そして、花火を観るのは僕の家の屋上のベランダで決定した。そこでおおむね2時間の時間ができたわけである。姉さんは、「夕花特性の手料理を振舞ってあげよう!」と僕の高校のジャージ姿でキッチンに向かっていった。

 僕の部屋は、僕と神崎(元・眼鏡)と秋葉と須崎さんになった訳だ。そこで、話し合った結果、花火大会の会場は僕の家から徒歩5分とかからない。ということで、屋台を回ろうということになった。僕は、人混みが嫌いなのもあって面倒くさいと思ったのが正直なところだったが、

「せっかく浴衣着てきたし、回りたいな。」

と、秋葉が言ったので、

「おう、いってら。」

と答えたところ、

「久遠と一緒に行きたいの。」

と、腕をつかみながらの涙目かつ上目遣いというプロの技に撃沈したのだ。ほんと、これって卑怯だと思う。

「私は神崎さんと回るので、秋葉さんも頑張ってください。」

須崎さんは神崎の腕をつかむや、僕の部屋から出ていく。どこか、すごく楽しそうに見えたのは気のせいだろうか。てか、須崎さんは神崎のことどう思ってるんだろう。確かに、眼鏡をつけているとオタクっぽいけど、外すとイケメンだし。いや、そんなわけないか。神崎は、

「須崎さん、俺は眼鏡がないと視界がすごく不安定で怖いんだけど!」

と、言いながらもまんざらではないようだ。

「大丈夫です。私が介護してあげます。」

須崎さんもなんとなくだが秋葉の感じが移ってきているように思える。なんかこう強引というか、主導権を取ってくるというか。

「さて、僕らも行くか。」

僕が秋葉にそう言うと、秋葉がそっと手の平を向けてきた。僕は、いったい何のことやらと困惑していると、

「手。」

と、か細い声で言うので、

「はいはい。」

僕は秋葉の柔らかく華奢な手を握るのだった。なんとなくだが、守ってあげたいとすら思う手だなと感じた。その為にも、やはり不安の種であるオカルトは解決したいと改めて思った瞬間だった。

「秋葉は僕が守る。」

いつの間にか語源化してしまったのは、自分でもわからないが、これは1学期にも言ったような気がする。いや、わからないけども。

「約束だからね!」

秋葉のその返事に、実際あるかどうかもわからない噂話をどうしたものかと逡巡しているうちに、手を引かれた僕は、祭りの喧騒へと飲み込まれるのだった。

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