第16話 ぬいぐるみトモ戦う
トモが最初に挑戦している階からその次の階。
トモの前に立ちふさがるダウメの四天王の1人がいる場所。そこには多くのぬいぐるみがフロア内を動き回っている。とんでもない状況。
ゾンビのように目的があるのかないのかわからない虚ろな目…いや、無機物だから感情がないのは当然だがなんとも可愛らしいモフモフしたぬいぐるみが動き回るのは愛くるしいのか不気味なのか少々反応に困る所だろう。
そして無数にあるぬいぐるみの中にポツンと佇む一体。某有名なキャラを全て避け無難な茶色い犬のぬいぐるみ(二足歩行で立っているがまぁセーフとして)その瞳は虚ろの目ではなく感情の入ったハイライトがキラリと光っていた。
「まだ来ないのかなぁ…」
犬のぬいぐるみがボソッと不満をつぶやいた。ぬいぐるみが喋ったぁぁぁぁ!
「説明しよう僕がこの無数のぬいぐるみを全て操っているダウメ四天王の1人さ!授かった能力アニマルスタッフ&デット。ぬいぐるみを生成、操る能力さ!僕はこうやってぬいぐるみに紛れて身を潜めているんだそれが一番の安全なのさ!まさに木を隠すなら森って感じだね」
ご説明どうもありがとうございます。
「にしても戦いが始まってからずっとスタンバってんのにまだこないのか」
ぬいぐるみ使いはウーンと考えそして。
「あっそっか!きっと一番最初の奴に負けたのか!なっさけないなぁー。四天王の中で最弱の奴に負けたなんて笑える。あーあもう早く帰って神作ライトノベルみーよおっと」
そう言うとノシノシとぬいぐるみの可愛らしい音を立てながら階段の方に歩いて行った。するとボスンと何か柔らかい物とぶつかった。
「うわっと何ご主人様に当たってるんだ。もっとよく見て歩けよ」
自分が上の空で歩いていてぶつかったにも関わらず理不尽な文句を言いながらぬいぐるみ使いはぶつかったぬいぐるみを睨みつけた。
「えっ…」
ぬいぐるみ使いは絶句する。自分が生み出し動かしているのは可愛らしい物や棒キャ…コミカルな空想上の生物や神話の聖獣をモチーフにした愛らしい外見のぬいぐるみ、しかし目の前にいるのはそれらに該当しない…いうならホラー系に出てくる綿があちこちに飛び出し目は狂気を孕み終いには体から内臓のように飛び出ているロープ。
「んぎゃーーーーーー!」
ぬいぐるみ使いは情けない悲鳴を上げて腰を抜かした。すると狂気のぬいぐるみはぶるぶると震え出す。
「ギャーハッハハ!驚いた驚いた!いいリアクションしてくれんねー!」
下品な笑い声をあげながらそのまま開いた口をガバッと開けると我らが主人公トモが顔を出した。
「お前はトモ!なんでお前がぬいぐるみを着てんだよ」
涙目になりながらぬいぐるみ使いは文句を言う。
「おーどうだこれ。下の階の奴にぬいぐるみの話を聞いてな。ぬいぐるみの格好をすればあそこにいるヘンテコな奴に襲われねえって聞いたんだよ。だけど俺が着るにはちょぉっと可愛らしいから少し改造したんだ。どうだビビったろ。ビビったよな!だっせえ」
トモは馬鹿にするように指さしてゲラゲラ笑う。こいついじめっ子
「ここの馬鹿野郎ぉぉぉぉ!」
ぬいぐるみ使いは泣き叫びながら逃げ出した。
「あっおい…行っちまった。なんなんだあいつ」
トモはぬいぐるみ使いのあまりの情けなさに拍子抜けする。
逃げたんだから不戦勝と言いたいところだがどうやらしっかり倒さないと先には進めない。さっきの下の階でそれを聞いていたトモはダルそうな顔をしながらぬいぐるみ使いが逃げた方へ歩いて行く
「おーい隠れてないで出てこい。諦めて俺にぶっ飛ばされろー」
物騒な発言を…少しは主人公の自覚をもって欲しい
周囲のぬいぐるみはトモを見るが着ぐるみを着ているおかげで仲間だと思われているらしくトモを襲わずスルーしていく。
「ははーん、どうやらあいつ俺に対して打つ手なしってかんじだなぁ。こりゃ楽勝だな」
勝ち誇った様子で歩いていると突如角から見るからに人を何人も殺めてそうな熊が現れ!そして
「ぐおおおお!」っと威嚇するようにうめき声を上げた。
「どあああ!」
その迫力やいなや突如現れた恐ろしい猛獣に流石のトモも叫び声をあげ尻もちをついた。その光景に熊は
「クククククアーハッハ!」
勝ち誇ったように笑った。その声は高めで明らか熊のものではない!この熊の正体は!
「僕だ!」
ぬいぐるみ使いが熊の口から顔を出した。狂暴の面の口から出たベイビーフェイス!
「ははは!見たか僕は可愛らしいぬいぐるみを動かしたり作ったりするだけじゃない!こんな精巧な作りのぬいぐるみも作れるんだ!」
「どちらかというと剥製だろそれ!」
「なんだっていいだろ君は驚いて尻もちをついたんだからな!ヤーイヤーイ根性なし!ビビりー」
ぬいぐるみ使いはトモを煽るとぬいぐるみの姿を変貌させて逃げていった。
もちろんそこまでコケにされて黙っているトモではない
「おら!おもしれえ!受けて立ってやる」
完全に目的を忘れてぬいぐるみ使いを追いかけた。
「追いかけてきたな!だけど僕に追いつけるもんか!僕のぬいぐるみで変貌したこの姿は愛らしい!おめめがクリクリふわふわな馬のぬいぐるみだぁ!僕の心はまさに馬!追いつけるもんかぁ!いくぞ飛ばせ逃げ出せヌイグルミオー!」
先ほどの臆病具合と裏腹に気合が入った走り!実に逃げ足だ!ぐんぐんと速度が上がっていく!速度を落とさないまま角を曲がる!
「このまま逃げ切れるか!」
…が!後ろからとんでもない速さで迫る影が!
「待てこらぁ!」
雄叫びと共に現れたトモ…しかしその姿を見てぬいぐるみ使いを驚く
「お、お前!また僕のぬいぐるみ破壊して皮をかぶったな!しかも僕の真似をしてて馬だし芦毛…黒!…いや違う!あれは」
ゼブラ!なんといつの間にかぬいぐるみを捕まえて入り込んでいる!早いね!
「なんでシマウマなんだよ!僕が馬でヌイグルミオーって言ってんだから空気読んで同じ馬にしろよ」
「うるせえ!どっちも同じだろ!」
「全然違うよ!名前は?」
「ああ!シマウマトモハルだよ!」
「くそ!なんか強そう!」
と言い合いしつつぬいぐるみ達が観客席で見守る中走り続ける二人。
「だけど追いつけるもんか。これだけ距離がまだあるんだ。体力を考慮しても追いつけるわけがない」
「クソこのままだと追いつけねえ!こうなったらもう一回」
そう言いながらトモが取り出したのはこれまた小さなシマウマのぬいぐるみ。そのぬいぐるみに穴を開け謎の燃料を入れていく!
「そして!いくぜジェット!」
とぬいぐるみを後ろに投げると同時に火を放った!ボーンとぬいぐるみが爆発!とんでもない爆風がトモの背を押した!
「うおおお!」
なんという加速力!速い速いぞ!一気にぬいぐるみ使いに追いついた!
「おま!僕のぬいぐるみになんてことしてんだよ!」
「うるせえ!勝負は残酷なんだよ!」
などと罵声を浴びせながらも二人は走った。
「うおおお!」
「ぬおおお!」
トモとぬいぐるみ使いは抜いたり抜かれたりとデットヒート!白熱する会場!
二足歩行で走るぬいぐるみ!先にゴールするのはどちらか!
ヌイグルミオーか!シマウマトモハルか!栄冠を掴むのは!
そして勢いのままぬいぐるみ達が広げるゴールテープに二人は突っ切り!
今ゴール!どっちが先についたのか!わからない!ほぼ同着に見えた!
とここでぬいぐるみ審査員によるビデオ判定が始まる。
審議中…
スロー再生で確認。ゴール近くでコマ送りでジッと見つめる!そして…
今判定が出ました!夢の栄冠に輝いたのは
シマウマトモハル!シマウマトモハルです!
二着ヌイグルミオーヌイグルミオー!です!
文字通りぬいぐるみのハナの差!デザインで決まりました!
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