第一幕 好奇心に浮かされて
冒険家達の仮宿とでも言うべき『アドベンチャーズ・ユニオン』には、備え付けの酒場がある。
特に、帝国の副都ウエストガルムのアドベンチャーズ・ユニオンの酒場は、酒の味もウェイトレスのレベルも非常に高く評価されており、わざわざ外の町から冒険家の登録にやってくる者もいるほどである。
「なぁ、バスタくん。
あの子いいよなぁ、好きになりそう」
「お前は見た目で女を選びすぎだよ。
外見よりも大事なのは心だぜ、サルカス」
空の酒瓶が並ぶテーブルで、二人の冒険家が語り合っている。
鞘に収まったツーハンデッドソードに寄りかかりながら、ウェイトレスに視線を送っている大柄な男はバスタ。
同じウェイトレスを視ながら、パイプ煙草をふかす小柄な男はサルカス。
二人とも長年組んできた冒険家のコンビである。
冒険家としてそれなりの実績はあるが、仲間内には悪名の方が多く知られている。
「でも、あの子は絶対にいい子だと思うんだよ。
幸薄そうな顔をしているのが、またなんともそそられてなぁ。
あれで処女なら、なおベストだね」
「こんな場所で働いている女が処女って……。
二十歳近くの若い娘に――しかもあんないい女に、男がいないわけねぇって」
「夢がないなぁ、バスタくんは」
「よぉし、そこまで言うなら白黒つけようじゃねぇか!
俺は非処女に500! お前は?」
「もちろん処女に1000!
バスタくんは女を見る目が濁ってるぜ」
酒の席の他愛のない話。
普段なら、この後もくだらない話を繰り広げて終わるのだが、この時は違った。
「さっきから聞いてりゃあ、なんだその賭けは?
どうやって結果を知るんだよ」
隣のテーブルで飲んでいた冒険家と思わしき男が、唐突に会話に割り込んでくる。
テーブルに置かれている酒瓶もなかなかの数で、相当酔っぱらっているようだ。
「どうって……そりゃあ、本人に直接聞く?」
「バスタくん、君が女にモテない理由がわかった」
「冗談だよっ!
でも、じゃあどうやって確認するんだよ。
よっぽど遊んでなけりゃあ、その類の噂だって立たねぇぞ」
「うーん……たしかに」
頭を抱える二人をよそに、隣のテーブルの男は言う。
「ユニコーンだ!
アレに乗せりゃあ、一発で処女かどうかわかるぜ!?」
「あのなぁ、おっさん。
少し西に行きゃあ、砂漠が広がってるような土地だぜ?
ユニコーンなんてのが、そこらへんを走ってるわけねぇだろが」
「お前ら冒険家のくせに知らねぇのかい。
つい先日、北の荒野にユニコーンらしき獣が現れたってハナシ」
「それ、マジかい」
「レンジャーズ・ユニオンの連中が保護に動き出してるらしい。
そのレンジャーどもも、見つけるのに手を焼いているそうだがな」
ユニコーンは霊力を持つ獣であり、その血は病を癒す妙薬に、角やひづめやたてがみは強力な武具に加工できるという。
そんな霊獣ゆえに、ユニコーンは非合法なハンターに常に狙われている。
そういった状況からユニコーンの安全を守ろうと努めるのが、レンジャーズ・ユニオンに属するレンジャー達の仕事である。
「レンジャーより先に、ユニコーンを見つける。
その上、その背中にウェイトレスを乗っけろってか?
無茶だろそんなの」
「そもそもユニコーンてのは、本当に処女しか背中に乗せないのかねぇ。
童話でしか聞いたことがないんだけどさ」
「……そうか。
実際に処女と非処女が乗った時にどんな反応をするのかわからねぇと、セシリアを乗せた時に処女だと判断できねぇかもな」
セシリアとは、二人が話題にしていた酒場のウェイトレスのことである。
彼女は酒場の看板娘であり、冒険家は彼女目当てに酒場に入り浸る者もいる。
「処女だと懐く。非処女なら嫌がる。
普通に考えたら、そういう反応をすると思うんだけどねぇ」
「現実主義の俺としては、ユニコーンがどんな反応を示すか、両方のパターンで検証してからにしてぇな」
「そういう神経質なところは、相棒として頼り甲斐あるんだよね、バスタくんは。
女の子にはそれがウザいんだろうけど」
次第に話は白熱していき、真面目に議論を交わしながら二人はすっかりその気になった。
最初にユニコーンの話をした男は酔いつぶれて眠ってしまっている。
「よぉし、サルカス!
明日からさっそくユニコーンに女を乗っける準備にかかるぞ」
「バスタくん、俺としてはセシリアちゃんをいきなり冒険に連れ出すのは気が進まないんだけど……」
「馬鹿。ユニコーンは生け捕りにするんだよ。
セシリアには、その時にまたがってもらえばいい。
そのためにも、検証はしっかりやっておかないとな」
「検証……って、本当にやるの?」
「100%処女と、100%非処女を、ユニコーンの背中に乗っける!
どっちの女にもアテがある。俺に任せろ!!」
「バスタくん、そんなだから女の子にモテないんだよね」
「うるせぇぞ、サルカス!
俺は好奇心を満たすためなら、手段は選ばねぇ男なだけなんだよ!」
「ま、そんな君に付き合う俺も俺だけどねぇ」
酒場での他愛ない会話から始まったユニコーンへの侮辱的な計画。
自分が原因で始まる計画も知らず、セシリアは店を出る二人の冒険家に頭を垂れて見送るのだった。
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