第3章

僕は学校の休み時間を告げるチャイムの音が嫌いだった。何故かって? 友達がいないからである。

「見ろよ。またあいつ一人だぜ」

「名前だけに一匹狼ってか」

それを聞いたやつらが人を馬鹿にしたようにゲラゲラと下品に笑った。

「黙れ」

「うわ、吠えられた」

「逃げろ逃げろー」

良くもまぁ、毎日飽きずに言えるなと逆に感心してしまう。そんな日々が繰り返され、六月には珍しい快晴の日、転校生がやってきた。普通の人なら興味津々なのだろうが、僕にとっては馬鹿にしてくる相手が増えるだけだと思い、名前もそうだが、顔すら見なかった。そして紹介が終わって休み時間になると想像通り例の転校生とやらを連れて僕の席まで何人か来た。そして、

「こいつの名前に狼って入ってんだけど、本当に狼みたいにずっと一人でいるんだぜ」

「しかもよぉ、何か言うとすぐ吠えるみたいに怒るんだよ」

「だから、こいつとはあんまり関わんねぇ方がいいぜ」

と口々に言った。何なんだよ、ほっといてくれと言おうとした時だった。

「月と狼なんて狼男みたいですげぇ格好いいじゃん。なんでからかうんだよ?」

そう言ったのは転校生で、他の奴らは『つまんねーの』と去ってしまい、僕と転校生、二人だけ残った。

「なんで名前分かったんだよ?」

「服についてる名札見た」

「そうか。じゃあ、なんで僕なんか庇ったんだよ。お前友達できなくなるぞ」

こいつは一体何が目的なのだろうか。僕を庇うことにメリットなんてないのに。

「何でって、素直に名前が格好いいと思っただけなんだけど……何が不味かった?」

「へ?」 

予想外すぎて、阿呆みたいな声が出た。

「俺の名前にも生き物入ってるけど、伝説の生き物だからなんかイメージ湧かないっていうか。でも狼って強いの分かるし、あとその前についてる字も優しいって意味でしょ?強くて優しいなんてヒーローみたいじゃん!」

キラキラという効果音が着きそうなほど目を輝かせてそいつはそう答えた。

「えっと……ありがとう? お前さ……」

「あのさぁ、さっきからお前、お前って。もしかして名前聞いてなかったのか?」

図星なのが申し訳なく思い、目を逸らしながら頷いた。

江川龍歩えがわりゅうほ。分かったか?」

もう一度頷くと

「なんだよ急に大人しくなって」 

(ヒーローは僕じゃなくてお前だと思う)

なんて思ってたなんて言えるはずもなく、

「何でもねぇよ。ありがとな龍歩」

「おう。と言っても感謝されるようなことをした覚えねぇけどな。まぁ、これからよろしくな、優狼ゆうろう

と言って熱い握手をかわしたのだった。

(あれから二十年か……。もうすぐ三十路だというのに、お互い独身とか寂しいな、おい)

とか考えながら、僕は今兎美うみに会いに森の中を歩いている。本当は車を使いたいのだが、何せ木が多すぎて道が作れないのである。そんな所にあるから会いに行く時には日用品も持っていくことにしている。そして歩き続けて数時間、やっと家に着いた。玄関の扉を三回叩くと少ししてから偽りの笑みを浮かべた龍歩が出てきた。 



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