第1章

目を覚ますといつもと変わらぬ天井と、江川えがわの低く心地いい声が聞こえた。体を起こそうとすると体が鉛のように重くて、返事をするのがおっくうになる。

「ん……」

と返事とは言えない返事をするとゆっくりと扉が開き、江川が入ってくる。

「おはようございます。本日は天気がよろしくないようですが、朝食は召し上がれそうですか?」

声に出すのもしんどくて、フルフルと首を横に振った。

「そうですか。しかし、薬を飲まなくてはいけないので一口だけでも食べて下さい」

差し出されたスプーンを渋々握ってヨーグルトに手をつける。病気になりかけのせいか味がよく分からなかったということもあり、本当に一口しか食べなかった。すると江川は急に腕を私の方へ伸ばし、

「熱が少しあるようですね。体温計を持って来るので少々お待ち……」

「行かないで……」

言い切られる前に江川の服の裾を掴んで放った今日の第一声は私が思っていた以上に弱々しくて、消えてしまうかのようだった。そんな私に対して江川は

「すぐ戻ってきますので」

と抑揚なくピシャリと言って私の腕を引き剥がし、そそくさと部屋を出て行ってしまった。すぐってどのくらい? 本当に戻ってくるの? 本当はもう愛想がつきて私をおいていってしまったんじゃないの? きっとそうだ。江川もあの人達と同じだったんだ。私のこと一人ぼっちにしちゃうんだ。『また近いうちに来る』って言った優兄ゆうにぃも全然来てくれないもの。今死んだら、病死、餓死、孤独死、一体どれになるのだろうか。というか、死んだところで誰が葬式を行うと言うのか。学校に通えず、ここで看病されるだけの誰からも必要とされていない邪魔者な私が死んだら、みんなむしろ喜ぶのではないだろうか。あぁ、薬の作用か瞼が……重く……。起き……た……ら……天国? いや、……地……ごく……か。

「雨の日なんて、大嫌いだ」

薄れゆく意識の中、遺言となるかもしれないこの独り言は誰かの耳に届いただろうか……。

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