見えるか否か
冥土の土産に持っていけ。
そう残しつ苦無を心の臓に刺した。
霧の中、霧忍のみが見えていた。
生きる意味を見い出せず、此処まで引きずった阿呆は絶った。
情も無い。
血の香り、水の香り、さてどちらが自然か。
戦に興味は無いが、その有無に意味は無い。
最初から、その全てに意味は要らぬもの。
生きる価値、意味、理由。
阿呆の言うことは、いつでもそれだ。
特に、戦場ではそれらは何の役にも立たん。
寧ろ、妨害にさえなった。
それを他に問うて如何にする?
お前のそれはお前が始末すること。
すがりつく故が、あまりにもしようもない。
如何に退けても次がある。
生きるのに必要か?
それが用意できぬか。
であれば、死せばよいものを。
戦場でなら容易かろう。
死にたくなければ死なぬようもがいておればよい。
生きたくなければ首を差し出しさえすれば、この手で掻き斬って落とすまで。
その相手を、まだせねばらなんのは何故か。
飽きもせず、あれはこうだと無駄を踏む。
戦場にまでそれをやって、どうしたいのか。
答えはあったか?
無い。
あるわけが無い。
阿呆め。
無駄死にする方に意味を見ろ。
お前の命は無駄か?
戦は、死すのが前提にある。
殺すに死す、損ねれば生きる。
ただ単純な視界。
霧がいよいよ濃くなった。
嗚呼、何を見ようも無い。
何を見たかったのか。
霧を晴らせば見えるものか。
目のない奴に何を見せる?
霧忍の溜め息、戦場に命無し。
極楽浄土か、地獄か。
三途の川を渡る前には見出してみろ。
そこに存在する意味、理由。
価値は置いていけ。
お前には、いつまで経っても要らぬもの。
価値というのは、あまりにも曖昧過ぎる。
いつでも、無価値と有価値をひっくり返すことができる。
意味、理由。
人はそれを求め過ぎた。
己が一つ無意味を言うのを棚に上げ、無意味に意味を問う。
見えるものか。
霧を歩む。
そこに在るを殴り倒し、蹴り上げ、踏み付けた。
生きていたやもしれん。
それらに意味はあると思うか?
無いものよな。
無理に意味理由を付けずともよい。
それこそ、正当化の手綱を握るに同じ。
殺傷を、戦場で正しきと言うてみよ。
さて、意味理由が用意できたか。
盲目になった気分はどうだ。
霧忍は僅か笑うた。
何も見えておらぬくせに、と。
阿呆は、遠吠えを繰り返す。
山犬よ、戦場に走れ。
餌がお前の口に自ら飛ぶぞ。
戦場 影宮 @yagami_kagemiya
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます