第12話 兄と妹と姉、そして兄妹①

日曜日、ユキちゃんを知る目的と、日々学業で酷使している頭のリフレッシュを目的とした外出。

天気も良くて、四月の後半に差し掛かったあたりにしては気温も高めで半袖でも過ごせる。絶好のお出かけ日和。

そんな気持ちの良い日の朝だというのに、新戸家はドタバタと騒がしかった。新戸家、というよりは………星華が。



「星華、準備できたか?」



「もうちょっと!」



「了解」



階段を昇ったり降りたりして忙しない星華を俺はスマホで時間を確認しながら玄関で待つ。

それにしても、星華はいったいさっきから何に時間を取られているのだろうか。練習メニューの階段ダッシュを頑張っている野球部みたいに昇ったり降りたりしているのに、何も持って昇らないし何も持って降りない。

昇り降りの際に変わっていることとすれば………なるほど、服選びに時間が掛かってるのか。階段を昇り降りする光景を長々と見続けている俺からは、野球部が階段ダッシュで汗をかいたからアンダーシャツを替える、みたいな感じに見えている。どんなに汗かきの野球部でもダッシュ一本ごとに着替えたりはしないか、うん、絶対しないな。



「お待たせ、お兄ちゃん!行こっか♪」



そんなありもしないへんてこな野球部の行動を考察している間に星華の準備は整ったみたいだ。





家を出た俺と星華は話しながら駅へ向かっている。この時間なら少し余裕を持って到着できるだろう。



「星華、小さい頃に一度だけばあちゃんたちとボーリング行ったことあったよな。覚えてるか?」



「うん、覚えてるよ♪小学生の頃に私たちが金銭面に気を使って全然どこかに遊びに行こうとしないから、たまにはお金を使うような遊び場にも行けるようにって言って、行き方とか遊び方を教えるために一回だけ一緒に来てくれたんだよね〜」



最初はお金を使って遊びをするなんて損じゃないか、なんて思ってたけど、初めての遊びでワクワクしながらもボーリングを楽しんだことを今でも憶えている。



「そうそう、じいちゃんが上手すぎてビックリしたよな。最終ゲームの最後のターキーは本当に驚いた」



「私たちがハイタッチしようとしておじいちゃんが屈んだ時に腰痛めちゃったのは凄い焦ったよね〜」



俺たちがこれからいつでも行けるよう、家からボーリング場の往復を歩いて道を教えてくれたのだ。今にして思えば、高齢のじいちゃんとばあちゃんには相当な負担だったと思う。俺たちのテンションに合わせるのだけでも大変だっただろうから申し訳ない。

だからボーリング場に連れて行ってくれたことに凄く感謝している。



「今度二人の家に帰ったら、また一緒にボーリングに行こうか。勿論バスを使って」



「そうだね、また一緒に行きたい!」



「どこに一緒に行きたいの?」



俺と星華が思い出話に花を咲かせていたところに後ろから女の子の声が会話に混ざってきた。



「おはよ〜和真くん、星華ちゃんもね」



「あ、ユキちゃん!?おはようございま……す……」



会話に混ざってきた女の子はユキちゃんだった。

俺はユキちゃんの姿を見た瞬間固まってしまった。

それほどまでにユキちゃんの私服姿に見惚れてしまったのだ。



「ほよ、どうしたの和真くん?あ、もしかしてアタシの私服姿にドキッとしちゃった?いつもは制服だからね〜」



普段の制服から一転、上は白のフリル付きのオフショルで下は水色のフレアスカート。いつもはツーサイドアップの赤髪も今日はポニーテールでまとめていた。

清楚な着こなしと髪色のギャップが妙に刺さる。

なんというか、『綺麗』という言葉が凄くしっくり来た。



「いや、その……はい………すみません」



「ウソっ………ホントに?」



俺がつい見惚れていたことを正直に認めるとユキちゃんが驚いたあと、やがて不安げな表情を浮かべて聞いてくる。心なしかユキちゃんの顔が赤いような気がするのは気のせいだろうか。



「ええ、ホント……です」



俺がそうこたえるとユキちゃんの表情が次第に明るくなって、ついには満面の笑顔になった。



「良かったぁ〜!早起きして頑張って選んだ甲斐があったよ!自分で選んでもちょっと不安だったからヒョウに見せて合わせてみたけど、バッチリだよヒョウ‼」



ユキちゃんが小声でボソボソと何か言っているが、ユキちゃんを見ながら停止してしまったことには怒っていないみたいで良かった。



「む〜〜、私だって頑張って選んだのに〜‼」



ユキちゃんだけでなく星華も何か言っているが、こっちも俺には聞こえない声量だった。



「あ、それで、アタシが合流する時、『一緒に行きたい』みたいなこと言ってたけど二人はなんの話してたの?」



「あぁ、前に一度だけ祖父母と四人でボーリングに行ったことがあって、次に祖父母の家に帰った時はまた行きたいなって話をしてたんですよ」



「へ〜、二人はおじいちゃんとおばあちゃんが大好きなんだね〜。どんな人?」



ユキちゃんにはまだ俺と星華のことや俺と星華のそれぞれの両親のこと、そして俺たちが祖父母に育てられたことなどを話せていない。

しかし今話すのは違う気がする。ユキちゃんが重く受け止めてしまったら今日のお出掛けを楽しめなくなってしまうかもしれないからだ。

だから俺はそれらを伏せて聞かれたことに答えることにした。

ユキちゃんにはいずれ話さなくてはいけないとは思う、でもそれは今ではない。



「シンプルに言えば凄く優しくて面倒見の良い人たちです。俺も星華もたくさん世話してもらいました」



「そっか♪アタシもよくおじいちゃんおばあちゃんと──────」



それから俺たちは星華も会話に加わって、新戸家と未咲家のお互いの家の祖父母の話をしながら駅まで向かった。

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高校生だけど妹なら二人暮らししても何の問題も無いよな!? 進川つくり @shinsaku

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