第11話 兄妹と兄妹と姉
次の日曜日、それはアタシが初めて和真くんとお出掛けをする日(ただし二人っきりではない)。
和真くんとのお出掛け、すごい楽しみだなぁ〜(ただし二人っきりではない)。
どんな服を着ていこうか(ただし二人っきりではない)。
張り切ってお弁当も作っちゃおうかな(ただし二人っきりではない)。
金曜日の夜、和真くんからチャットアプリに連絡が来た。
告白の返事が保留になったあと、保留になった理由である『ユキちゃんのことをよく知らないから』という今の状況を好転させるために、アタシは和真くんとチャットアプリの友達登録をした。
『いつでも連絡してね〜』と言ってあったんだけど、登録してすぐに【宜しくお願いします】というメッセージが来ただけで、会話は全くないまま終わっていた。
和真【ユキちゃん、こんばんは】
【夜分遅くにすみません】
ユキ【こんばんは和真くん】
【まだ九時だから大丈夫だよ〜】
【どうしたの?】
ちょうどベッドでスマホを弄っていたアタシは、すぐにチャットアプリを開いて返信した。
和真【二日後の日曜日なんですけど、空いてたりしますか?】
【どこか遊びに行けたらなと思いまして】
遊びに………これってデート、だよね!
返事は勿論オッケー。こっちからも誘おうとしてたところだったからちょうど良かった。アタシは心拍数が一気に上がっていくのを感じながら和真くんに返信した。
ユキ【勿論オッケー!】
【アタシも誘おうと思ってたからちょうど良かった】
年上のアタシが誘うべきか、男の子の和真くんに誘われるのを待つべきかで悩みまくって、結果的に先に誘われてしまったというのは和真くんにはナイショにしておこう。言ってしまったら恥ずかしさで軽く五回は気絶しそうだから。
和真【そうだったんですね、男としては先に誘えて良かったです】
アタシはその言葉に不覚にもドキッとした。
また更に心臓の鼓動が早くなる。
不意に出た和真くんの男の子らしさにキュンと来てベッドをゴロゴロと転がって身悶えた。
和真【日曜日に遊びに行くのは決まりとして、ユキちゃんはどこか行きたいところありますか?】
チャットアプリで、和真くんと二人でやり取りをしながらデートの場所を決める。
あぁ、なんかこの感じ良いなぁ。
友達と遊びに行く予定を立てるのとは気持ちの高鳴り方が全然違う。
しかし、年上として和真くんより浮かれているアタシの姿を彼には感じさせたくない。なんか負けた気がするし、何より恥ずかしいからから。
だけどどうしたって浮かれてしまう。
だってデートなんて初めてだし……。
アタシは和真くんと遊びに行けるだけで楽しいし最高。だから和真くんが楽しめそうな場所を提案した。
ユキ【ボーリングとかどうかな?】
【あ、カラオケも良いかも!】
あ、でもいきなり狭い部屋に二人っきりはちょっと、ううん、だいぶ緊張しそう!
初デートでカラオケはダメだったかな!?
和真【じゃあどっちも行きましょう、俺も行きたかったのでちょうど良かったです!】
そんなことを考えていたが、どうやらアタシの心配は杞憂だったらしい。
和真くんがオッケーなら勿論アタシもオッケー。行きたいところが被ったのも凄い嬉しい。カラオケの方は、最初は緊張すると思うけど、まあなんとかなるでしょ。
その後も他愛のない雑談を交わしながら予定を立てていった。
和真【じゃあ、あとは待ち合わせの時間ぐらいですかね】
【ユキちゃんは午前中からでも大丈夫ですか?】
ユキ【うん、大丈夫だよ】
和真【じゃあ十時ぐらいに駅前で待ち合わせしましょうか】
ユキ【は〜い】
【十時に駅前ね、了解】
【楽しみにしてるね♪】
あ、ウキウキとした気持ちがついつい表に出ちゃって音符マークとかつけちゃった!うぅ、恥ずかしい…!しかも、確かこの前読んだ本に、『楽しみにしてる』は男の子がプレッシャーを感じる言葉だから言わない方が関係が上手くいくって書いてあった気がする!ごめんね和真くん!
そんなやらかしもあって、アタシの内心はヒヤヒヤだった。和真くんが気にした感じはなかったから良かったけど。
初デートは十時に駅前で待ち合わせ。その後ボーリングに行ってお昼ご飯を挟んで、午後はカラオケ。五時頃には解散という流れになった。
時間にして一時間半ほどの彼とのやり取り。だけど、それがアタシの体感では五分にも満たないんだから恋って凄い。
きっとデートをしている時は時間の経過がもっと速く感じるんだろうなぁ。
そんなことを考えながら、和真くんとのやり取りが終わったスマホを持ってリビングへ行く。弟のヒョウに報告するためだ。
リビングへ行くとヒョウはソファーに寝っ転がってスマホゲームをしていた。
「ヒョウ、アタシ日曜日にデート行くことになった」
「へー、良かったね。そんなこと一々報告しなくて良いよ」
「アタシとヒョウのカケはまだ続いてるんだから、一応言っとこうと思ってさ」
「そっか、まああれだね、頑張って」
「うん、頑張る」
「うん」
やっぱり報告しない方が良かったのかもしれない。
ヒョウは振られたばっかり。まだ立ち直れてるわけがない。そんなヒョウに自分だけデート行ってくる、しかもヒョウを振った女の子のお兄さんと、なんて報告はヒョウをさらに傷つけてしまったかもしれない。
「姉貴、心配しすぎ。顔に出てるから。せっかくデート行けるんだから弟のことなんて気にしてないで楽しんできなよ」
ヒョウはそう言いながらゲームを中断してスマホをテーブルに置いた。ヒョウの言葉に嘘はない。もしヒョウが嘘をついていたら、きっとスマホゲームに集中してるフリをしてただろうから。
振られたショックからまだ完全には立ち直ってないと思うけど、ヒョウも自分なりに気持ちの折り合いをつけたみたい。
「分かった、楽しんでくるね」
アタシがそう言うと、不意にアタシのスマホから通知音が鳴った。チャットアプリのものだ。
「誰だろ……って、和真くんだ」
メッセージの通知は和真くんからのものだった。
アタシは素早くスマホのロックを解除してメッセージを確認する。
和真【あ、言い忘れてたんですけど】
【日曜日は妹と岩谷兄妹も来ますんで】
【予定が合えばヒョウくんも誘ってください】
【それじゃあ、おやすみなさい】
…………。
………………。
………………………。
「………ヒョウ………デートじゃなかったみたい」
「どういうこと?」
「日曜日、星華ちゃんと岩谷兄妹も来るって。で、ヒョウも誘ってって言われたんだけど…………来る?」
「……………行くかよバカ」
「だよね………」
どうやらアタシの初デートは………『勘違い』だったらしい……………。
「どうして二人っきりでデートじゃないの〜〜!!!」
「姉貴………………、どんまい」
「ヒョウムカつく!」
まあ、デートじゃなくても行くけどね!!
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