第9話 兄妹の敵はまた姉弟③

「私、昨日未咲くんに告白されました……。未咲先輩は、──────未咲くんとのカケのためにお兄ちゃんに告白してるんじゃないですか──────」



私の口から飛び出たそんな言葉に、校舎裏に集まっていた私以外の全員の顔に困惑の表情が浮かべられた。

全員、つまりユキちゃんも他のみんなと同じ顔をしていた。

みんなと同じリアクションをして、未咲先輩は何がしたいんだろう。

今更隠すこともできない、うやむやにすることも出来ないというのに………。

何故なら、私は昨日、全てを未咲くんから聞いたのだから………。

私はお兄ちゃんの心を傷付けた未咲先輩を問いただす為に、昨日未咲くんから聞いたことを話しだした。



「私は昨日の昼休みに未咲くんから告白されました。未咲くんとは何の接点もないですし、私はその告白を断りました」



未咲くんとはクラスも違うし、一度も話したことがない。

ただ、それでも告白をしてきたということは、未咲くんには何かしら私を好きになった理由があったんだと思う。

けれど私はお兄ちゃんが好きだ。

お兄ちゃんだけが好きだ。

お兄ちゃん以外の人と付き合うつもりは全くない。

変に考える素振りを見せると未咲くんに期待させてしまうと思い、だから私は未咲くんからの告白をきっぱりと断った。きっぱりと。



「そのあと未咲くんは、『やっぱり駄目か。新戸さんには振られるし、姉貴とのカケにも勝てないし、今日はついてないな……。でもまあ良いや、どうせ姉貴も振られんだろうから、カケは引き分けだろ』って言ったんです」



その言葉で私は思った。この人はカケのために好きでもない私に告白をしてきたんじゃないか、と。

未咲くんの言葉に私はすごくムカついた。腹がたった。

人を賭け事に巻き込むなと説教してあげたい気分だった。

そして今日の朝、お兄ちゃんの下駄箱に手紙が入っていた。まさかね、と思った。

そしてその手紙を見た私の頭には四つの考えが浮かんでいた。

一つ目は、果し状である可能性。

二つ目は、ラブレターで差出人が女の子である可能性。

三つ目は、ラブレターで差出人が未咲くんのお姉さんである可能性。

そして四つ目は、ただのいたずらである可能性だ。

私はそれら全ての可能性を考えた上で校舎裏を影から覗くことにした。

そして差出人が未咲くんのお姉さんであるならば、その時は万が一にもお兄ちゃんが告白を受け入れるという選択をしないように待機した。

お兄ちゃんには、私の大好きな人には嘘の告白なんてされてほしくなかった。

そして何より、嘘の告白を受け入れてほしくなかったのだ。



「未咲先輩、未咲くんとのカケのためにお兄ちゃんを傷付けるのはやめてください」



私は怒鳴ってしまいそうな気持ちを抑えて冷静に、しかし確かな圧を言葉に込めて言い放った。

すると、黙って私の話を聞いていた未咲先輩が焦った様子で口を開く。



「星華ちゃん、違うの!確かにアタシはヒョウにカケを持ち掛けたよ。でもそれは、告白をするための口実作りっていうか……。アタシら姉弟は、好きになっても告白する勇気が出ないから………。だから、アタシとヒョウの告白に嘘は無いっていうか………って、そんなことするぐらいなら告白すんなって話だよね……ごめんなさい」



私はてっきり、『先に恋人をつくった方に何か一つ奢る』みたいなカケで、二人とも好きでもない人に告白をしたのかと思ったが、どうやらそうではないみたいだ。

未咲先輩の言葉をまとめると、未咲先輩と未咲くんにはそれぞれ好きな人─────未咲先輩はお兄ちゃん、未咲くんは私─────がいて、二人ともが告白をする口実を作るための策をうった………。

あれ?それじゃあ、案外何も悪いことはしてない……?


「星華の勘違い……みたいだな」



私の中で出た結論は、告白をされている本人であるお兄ちゃんの口から溜め息混じりに発せられた。

それを聞いた私は一気に冷や汗が噴き出したのを自覚する。

やばい………。私は人の真剣な告白を勝手に絶ち切ってしまったのだ。思い込みで勝手に。



「あ、あの!ごめんなさい!勘違いでした!」



私は過去最速の動作で頭を下げて謝った。

流石にこれはひどすぎる。私が勘違いで告白を勝手に断られたら………多分すごく怒る。



「星華ちゃん、星華ちゃんは何も悪くないよ。ラブレターのこともそうだけど、アタシら姉弟が星華ちゃんを振り回しちゃったみたいだね。ホントにごめんね……」



しかし、私に向けられたのはそんな優しい言葉。

私はそんな言葉に安堵し、ゆっくりと上体をおこした。



「あの、そろそろ一旦終わりにしませんか?昼飯も食べたいですし」



私と未咲先輩の話が終わるのを見計らってか、お兄ちゃんがそう切り出した。



「そうだね、長くなっちゃってごめんねっ」



「いえいえ。それより、俺はまだユキちゃんのことをよく知りません。なので告白の返事はひとまず保留、ということで良いですか?」



「え、考えてくれるの?」



お兄ちゃんがすぐに断ると思ったのか、未咲先輩、いや、ユキちゃんは予想外といったような反応をした。



「俺は妹みたいにその場で断れるほどモテないので」



お兄ちゃんは冗談めかした口調で笑って答えた。



「ガルルルル!!」



私は謝りモードから瞬時に応戦モードに切り替えて初めての恋敵であるユキちゃんにひっそりと威嚇した。

こうして兄妹二人が姉弟二人に告白されるというまさかの出来事を経て、私には恋のライバルが出来たのだった。

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