第8話 兄妹の敵もまた姉弟②
校舎裏に向かい合う俺と蒼馬。そして、俺の後ろからひょっこりと顔を出して蒼馬を呼び止める赤髪ツーサイドアップ赤目美少女。更に、校舎の隅から俺たちを覗き見ている星華と瑠依花ちゃん。
五人が集まった校舎裏はいつも通り静かだった──────って違う違う、何だこの状況!
そんな中、沈黙を破ったのはやはり蒼馬だった。
「あの、やっぱり僕はお邪魔ではないですか?あそこから覗いている二人も連れて退散しますが──────」
「いや、その必要はないよ、むしろ居てくれた方が緊張しなくて良いから。お〜い、そっちの君たちもおいで〜!」
蒼馬の提案を断った赤髪ツーサイドアップ赤目美少女は校舎裏から覗いている二人を何故か呼んだ。
うーん、分からない……。蒼馬は最初から俺と一緒に居たからそのまま居させるのもまだ分かる。
しかし、星華と瑠依花ちゃんは、この場では俺たちを覗き見しているただの野次馬だ。こちらに呼ぶ理由が分からない。
「ごめんなさい!覗くつもりはなかったんですけど……いえ、覗きに来たのは事実なんですけど、これには色々と事情がありまして……」
俺たちのもとに来た星華は、朝に下駄箱の前で俺と一緒に手紙を見て、もしかしたらヤンキーからの果し状なのではないかと心配で覗きに来た、と、手紙を渡してきた相手に対して何とも失礼な言い訳をした。
あれ?星華はラブレターだと判断していたような………まあいいか。
「あ〜、気にしないで良いよ、勘違いされるような手紙を渡しちゃったのはアタシだし。ところで、君は新戸くんの妹ちゃんだよね?アタシは三年の未咲ゆき、ユキちゃんって呼んでね。宜しく♪」
『未咲ゆき』と名乗った美少女は何故か星華のことを知っていた。
そういえば、会ったことないはずなのにどうして俺の名字も分かったんだろ。調べたんだろうか………。
それに、なんで星華が俺の妹だって知ってるんだ?
宜しくってことは、星華と知り合いってわけでもないみたいだし………。
俺の中に次々と謎がたまっていく──────って、三年てことは先輩じゃん、念の為に敬語使ってて良かったぁ。
「あ、はい、宜しくお願いします………?」
星華が何やら小さな声で『未咲………』と呟いていたが、他に同じ名字の子でもいたのだろうか。
「うん、宜しく♪そっちの瑠依花ちゃんも宜しくね♪」
星華だけじゃなく瑠依花ちゃんのことも知ってるのか………。
そこで俺は未咲先輩に色々と聞いてみることにする。
「あの、未咲先輩は──────」
「ユキちゃんって呼んでねっ♪」
「………未咲──────」
「ユキちゃんだってば!」
「………分かりました」
俺は一度目を受け流して話を続けようとしたが、未咲先輩、ユキちゃんはどうしても名前にちゃん付けで呼んでほしいらしいので素直に従うことにした。
「ユキちゃんはどうして俺や星華、瑠依花ちゃんのことを知ってるんですか?」
うーん、ちゃん付けに敬語ってなんか新鮮だなぁ……って、どうして星華は頬を膨らませて拗ねてるんだ?
早急に理由を知りたいが、今はユキちゃんの件が先だ。
「どうして、か〜………。それはちょっと事情があって今はまだ言えないの、ごめんねっ!」
ユキちゃんはそう言って可愛くウインクした。
その仕草はなんと言うか、ちょっとあざとく見えた。
「そんなことより、アタシはそろそろ本題に入りたいんだけど………良いかな?」
俺も急いで知りたいという訳ではないため従うことにした。
そして、人気のない校舎裏にわざわざ呼び出しての『本題』ともなれば、どんな要件かは流石に分かるわけで、
「新戸くん、アタシと付き合ってくれる?」
そう、それは直球な告白だった。
校舎裏での告白、それは男女問わず憧れるシチュエーションだろう。
ただ、それはその場に第三者がいなければの話だと思う。
そしてこの場には第三者どころか第五者までいる。
つまり、何が言いたいかというと………。告白の返事がしづらい。
蒼馬は俺を気遣って見ないようにしてくれているが、星華と瑠依花ちゃんは俺がどう返事をするのか興味津々といった感じで、とくに星華は俺をガン見している。
俺はまだユキちゃんのことをほとんど何も知らない。だからはっきりとした告白の返事はまだ出来ない。
そこで俺は、告白されたからには誰もが知りたいだろう当然な質問をすることにした──────のだが………。
「丁重にお断り致します」
不意にそんな言葉が聞こえて来た。
驚いた俺はその声の方に顔を向けると、そこには焦ったような顔をした星華がいた。
俺は軽いパニックに陥った。告白をされたのは俺のはずなのだが、どうして星華が……?
「ほよ、まさか妹ちゃんの星華ちゃんに告白を断られるとは思わなかったなぁ〜、あはは……ははは……はは………」
「星華ちゃん、今のはちょっとまずいんじゃ………」
ユキちゃんの反応を見た瑠依花ちゃんが慌てて星華に訂正するように諭す。
しかし星華はそれに従わず黙って首を振った。
「星華、どうして星華が断るんだ?」
普通なら意味が分からない。しかし、星華が無意味にこんなことをするとは俺には考えられなかったのだ。
「お兄ちゃん、ユキちゃんには悪いけど、私はお兄ちゃんにユキちゃんとは付き合ってほしくないの……」
星華は何か嫌なことを思い出すように、そしてそれとユキちゃんが関係しているかのように不安げな顔をしている。
「星華、理由を教えてくれないか?」
俺は今尚不安げな表情で俺を見ている星華に努めて優しく促す。
「ユキちゃん……いえ、美咲先輩。あなたは『未咲ひょう』くんのお姉さんですよね?」
確信を持ったような口ぶりだが、まさか自分の知り合いの姉だから付き合わないでほしいと言っているのだろうか。
「うん、ヒョウはアタシの弟だよ」
どうやら本当なようで、ユキちゃんは星華が口にした人物が自分の弟だと認めた。
しかし、その未咲くんがユキちゃんの弟だとしても、それは告白を断ってほしい理由に直結はしないと思う。
そんなことが理由なら、俺は今ここで断るなんてことはしない。
しかしその直後、それが揺るぐほどに驚く情報が星華の口から告げられた。
「私、昨日未咲くんに告白されました……。未咲先輩は、──────未咲くんとのカケのためにお兄ちゃんに告白してるんじゃないですか──────」
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