第7話 兄妹の敵もまた姉弟①
海ノ原の食堂の魚メニューの骨は取ってあると知った次の日、すなわち金曜日。
俺に高校生活で過去最大のイベントが起こっていた。
「新戸くん、アタシと付き合ってくれる?」
「丁重にお断り致します」
俺の高校生活過去最大イベント、終了。
金曜日の朝、俺はいつものように星華と二人で登校した。
そして下駄箱で事件は起こった。
察しの良い人ならもう分かるかもしれないが、そう、俺の下駄箱に──────お年玉袋が入っていたのだ。
え?分かるわけ無い?いやいや、下駄箱に入っている物なんてお年玉袋しか考えられないだろう。
冗談はさておき、お年玉袋が入っていたのは事実だ。それも『ユキちゃん』と名前の書かれた物が………。
「どしたのお兄ちゃん?」
そしてお年玉袋を持って固まっている兄を見て首を傾げる妹。
どんな学校生活を送ればこんな奇妙な絵が出来上がるんだ。
「俺の下駄箱にこのポチ袋が入っててさ、多分誰かが落として、それを他の誰かが適当に入れたんだろ。職員室に寄って行くけど良いか?」
「うん、全然良いけど。な〜んだ、ラブレターかと思って焦るところだったよ。ふぅ、良かったぁ………」
後半部分は何を言ってるのか聞き取れなかったが、とりあえず星華から了承をもらったので職員室へ向かう。
まだ時間も早いし教室にいなくてはいけない時間に遅れることはないだろう。
「あれ、お兄ちゃん、それ裏面にも何か書いてあるよ?」
そう星華に言われて見てみると、確かに裏面に『新戸くん』と書かれていた…………ん?新戸って…………。
「星華、これ星華にみたいだぞ?」
「いやいや、絶対私じゃなくてお兄ちゃんにだから」
ふぅ、やっぱりそうか。
俺は意を決してポチ袋を丁寧にあ………かないぞこれ!?
どんだけ頑丈に貼ってあるんだよって何でボンドで貼ってんの!?
ツッコミが追いつかないとは、まさにこのことである。というか、これ絶対開けさせる気ないだろ。
仕方ないので俺は袋の上の方を破ることにした。
ボンドで貼り付いていて破りづらかったが、勢い良くビリッといくと、中に一枚の紙が入っていた。
「ラブレターをボンドで開かなくするなんてどういう嫌がらせなんだろうね、お兄ちゃん何かしちゃったんじゃない?ヤンキーからの果し状だったりして」
「いや〜、とくに憶えがないけどな………」
「とりあえずなんて書いてあるか確認してみれば?ホントにラブレターかもしれないし」
「いやいや、ラブレターだったとしても蒼馬と間違えてるとかだろ」
まあもしも名前を間違えて呼び出されたのなら、その時は蒼馬と一緒に行けばはっきりするだろうと考えながら、俺はその紙に目を落とした。
『昼休み、校舎裏で待ってる』
文面を見た感じだと明らかに果し状だ。が、しかし、字体は丸文字でなんとも可愛らしい文字だった。………いや、どっち。
「これは〜、多分ラブレター……かな?」
どうやら星華はラブレターと判断したようだ。まあ男子でここまで可愛らしい字体というのもいなくはないだろうが、仮に果し状だとしても、この文字の書き手ではきっと何も果たせないだろう。見るからに弱そうだ。
「となるとラブレターか……。よし、もし俺と蒼馬を間違えていたら困るだろうし、一応蒼馬にも伝えておこう」
「う、うん……そうだね………」
妹よ、兄のモテなさに同情するな………。
星華と別れた俺は、教室に入ると蒼馬といつもの挨拶を交わす。
ちなみに今日は『婚姻届五枚ぐらい出したら一枚ぐらい受理されちゃうんじゃない?どうする?結婚しちゃう?』にした。
『今日の和真はチャラいね、でもごめんなさい』と、シンプルに断られたので、その流れでさっきのラブレターの件を伝えることにした。
「なるほどね………。念の為に僕も行くけど、間違えていない可能性の方が高いと思うな」
「ん、どうしてだ?」
蒼馬は『やれやれ……』といった様子で話を続ける。
「和真は自己評価が低いところがあるよね。頼りになるし優しいし、ルックスも普通以上に格好良いと思うし、和真のこと好きな女子も結構いると思うけどな〜」
「どうする?付き合っちゃう?結婚しちゃう?」
「その話はさっき終わったよね?誤魔化さないっ」
「へいへい、まあ一応二人で行って、蒼馬と間違っているようなら俺は食堂で待ってるよ」
「分かった、僕も逆の場合はそうするね」
そうして話を終えると、タイミングよく教室に先生が入って来て朝のホームルームが始まった。
そして迎えた昼休み………。
俺は少しばかりの、相手がヤンキーだった場合を考えて身震いすると、蒼馬が『待たせちゃうと悪いし行こうか』と言って席を立ったので、俺も一緒に席を立って歩き出す。
いやまあ、ヤンキーならヤンキーで返り討ちにしてやるんだが。
小学生の頃に親がいなかった俺は、それだけでいじめられてしまうのではないかと考え、その結果、護身術を道場で三年ほど学んだ。と言っても、それを使う機会は来なかったのだが……。
ちなみに、さっき身震いしたのは決してヤンキーが怖かったからではない。『あんな可愛らしい文字書いててヤンキー名乗ってるのはちょっとゾッとする』の方だ。
隣を歩く蒼馬はヤンキーが来るとは全く疑っていないようだ。
「着いたね」
そうこうしているうちにもう校舎裏。
海ノ原の校舎裏は全体が日陰で、はっきり言って告白ムードの欠片もない。
恋愛にまつわる噂がある大きな木があるわけでもなければ、海が見える穴場的告白スポットでもない。
この校舎裏で告白する利点といえば、誰も寄り付かないからバレにくいってことくらいだろう。あ〜寒い………。
「なあ蒼馬、今の今まで全く考えてなかったが、誰も来ないってこともあるかもしれないよな?」
「僕はその可能性はゼロだと思うけど……というか、そういうのは失礼だと………」
「どうしてないって言い切れるんだ?」
「だって……今和真の後ろに………」
え、なに?そういう系?心霊系?どういう系?
「あ、どもっ」
「…………ど、どうも」
いや、『あ、どもっ』じゃないよ……。
背後取られたら普通に怖いよ……。
「どうして二人で来たのか、先に説明しないとですね。僕は岩谷蒼馬っていいます。新戸和真くんの友達で、和真くんに、もしかしたら僕と間違えちゃっているのかもしれない、って言われて念の為に来ました。あなたが呼び出した人が和真くんなら僕が帰る、間違っていたようなら和真くんが帰ることになっているので、そこは心配しないでください」
流石は蒼馬、状況を瞬時に理解して変な誤解や怒りをかわないように素早く説明を始めた。
それにしても……、『和真くん』呼び、良いな……。
「それで、単刀直入に聞きますが、あなたが呼び出したのは新戸和真くんで間違いないですよね?」
「うん、間違いないよ。アタシが呼び出したのは新戸和真くんの方」
俺の後ろからひょいっと出てきたその女の子は、髪にニスでも塗ったの?と言いたくなるぐらいツヤツヤな赤髪をツーサイドアップでまとめた赤目の美少女だった。
「そうですか、じゃあ僕はこれで」
「待って!キミもここに居て良い。他にも居るから」
蒼馬が立ち去ろうとすると、赤髪ツーサイドアップ赤目美少女はそれをとめた。ん〜、言いづらいから早く名前を聞こう。
そして赤髪ツーサイドアップ赤目美少女の
視線の先には……って星華と瑠依花ちゃん!?
心配で様子を見に来てくれたのだろうか。
二人の真意は分からないが、僕一人呼び出されたはずが、結局いつもの四人が揃ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます