第2話 第一発見者達

 あとで調べることにしよう。脳内のメモにしっかり刻みつけてから、沢松は部下に対して口を開いた。

「これもちゃんと撮るように言っておいて。それから、第一発見者の人達に会いたいな。どこで待たせてるの?」


 通報者の北村海と立花久彦たちばなひさひこは、同ビル内のレストスペースで待たされていた。することがない上に、制服警官が見張る環境ではお喋りもしづらかったろう。だからなのか沢松が姿を現したとき、二人はほっとした表情をした。

 彼らの座るソファの前に、パイプ椅子を持ってきて座ると、沢松は手短に名乗って普段の調子で始める。

「北村さんは?」

 二人を等分に眺めると、向かって右側が肩の高さに手を挙げた。若白髪が目立つが、整った顔立ちをしている。

「お二人と加藤早麻理さんとの関係は?」

「僕は加藤さんとは高校からの知り合いで、立花君とは大学に入ってからコンパで。彼とは同じマンションと分かって、そのまま友達付き合いをしています」

 北村が答え、立花を手で示す。

「僕は調理師専門学校に通ってます。今日はたまたま創立記念日で休みだから」

 真面目な学生だというアピールか、言い訳がましく述べる立花。

「それで僕は加藤さんとは面識なしです」

「なるほど。では北村さん、今日の午前十一時頃でしたか、ここに来た経緯を」

「加藤さんから手紙をもらいました」

「手紙は郵便? それとも手渡しですか」

「置き手紙、かな。金曜の第二外国語は席順が決まってて、机の中に四つ折の紙があると気付いたんです。開いてみるとワープロ文字で、宛名は北村海、差出人は加藤早麻理。内容は、面白い物を見せるから月曜のお昼になる前までに下記の住所に来て。高校の頃に関わる話で興味あるでしょ?ってな感じでした」

「手紙は今どこに」

「処分しました。デートの誘いと思われるのが恥ずかしいから読んだら捨ててと書いてあったので。住所だけ手帳に書き写せば充分だし」

 これが証拠とばかりに、手帳の該当ページを見せた北村。

「ワープロ文字でも本物と信じた?」

「実はおかしいと思いました。彼女、字のうまさを自慢する気があって、ワープロはまず使わない。一年時、情報基礎で学内LANの使い方を習いますが、そのときにワープロとプリンターを少し試した程度で」

「にもかかわらず信じた理由は?」

「その手紙、A4用紙で、学校でプリントアウトした物と分かるんです。右上に、印字した日付と学生IDが記されるので。それが彼女のIDと一緒だったから」

「学生IDがあれば、絶対にその学生本人が印字した証拠になるのかしら」

 沢松が切り込むと、今までほぼ淀みなく答えていた北村にブレーキが掛かった。

「絶対と言われると……学生IDと対応するPWパスワードがあれば、なりすませます。うちの学生じゃなくても」

「PWは本人しか知らないのでは」

「そうとも言えなくて。最初の授業でIDとPWが付与されましたが、初期設定がともに学生番号なんです。そこでPWの変更手順をまず習い、実際に変更します。そのとき重要さが分かっていない人は、元のPWを一つずらしただけにしたり、誕生日にしたりする。特に女子に多い。だから別人が試して当てることは割と容易いかも」

「それでもなお、信じたのは何故かしら」

「確かめようと加藤さんに何度か電話したけどつながらなくて。事前に接触すると驚きがなくなるんだなと解釈しました。それがまさかこんな」

 身震いを表すためか、自分で自分の腕を抱きしめる北村。

「立花さんを誘ったのはどうして」

「彼が休みと分かり、暇潰しに一緒に行こうと」

「そうです」

 相槌を打つ立花。長く口を閉ざしていたせいか、しわがれ声だ。

「指定された部屋には他に誰もいなかった? 通路で不審者を見掛けたとか、ない?」

「ありません。あとは部屋に入ったら遺体を見付けた。それだけなんです」

「部屋に鍵は掛かっていなかったのね」

「ええ」

 このあと、現場内で触った物の有無や、連絡先の確認等をして、また捜査に協力してもらうかもしれないことを告げ、二人を帰らせた。

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