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「ああ、スミルノフの話を聞こうとしたのに、他の話ばかりですまない。」


 下を向いて考え込んでいたエラルドがぱっと顔をあげてスミルノフを見た。

「そうだ、辛気臭い話は十分だ!結局はさっさと最後の準備を整えてタイミングを見極めて仕掛ける、これしかやることはないんだ。」

 ドレイクが酒の入ったグラスを手に文句を言った。


「それはそうだが、その最後の準備が一番問題なんだろう。まず俺たちがまとまらないようじゃ何も始まらない…。スミルノフ、上流階級の方の状況はどうだ?」

「ああ。逐一報告しているから知っていると思うが、上流階級の中でも少しずつ我々への協力者を増やしている。政界だけでなく産業界その他においてもだ。近年のラスキア政府の強引なやり方のおかげとも言えるだろうな。それに意義を唱える人々が、上流階級の中にも出てきたということだ。人数だけで言うとすでに6年前に近い規模にもなりつつある。」

「…そうか、それがお前の口から直接聞けてよかった。ラスキア政府にも近いところにいながら仲間を探すのは大変な仕事だったろう。上流階級出身のお前だからこそ頼める重要な仕事だ。…本当によくやってくれた。」

 エラルドはスミルノフのグラスに酒を継ぎ足した。

「いや、俺は腕っぷしも強くないし、このくらいしかできることが無いからな。」

 スミルノフは笑って言いながら、エラルドが注いでくれた酒に口をつけた。


「しかしそうなると、あとはいよいよこちら側が一丸とならないといけないときなんだが…、すまん、完全に俺たちの力不足だ。」

 立ったまま話を聞いていたクラースは苦い顔で言った。

「俺たちだけのせいかよ!過激派のやつらはとにかく武力でもってラスキア政府を倒すことにか頭にねぇんだ。そのくせ内部での権力闘争でリーダーがしょっ中代わる。血の気だけが多くて頭の悪い奴らと話し合ったって何も進みやしない。無闇な自爆テロで勝手に戦力を減らすしよ。…フランツがいたときとは大違いだ。」

 ドレイクは吐き捨てるように言いつつ、フランツの名前を口にすると一瞬複雑な表情を見せた。

「フランツか…。あんなリーダーはもう二度と現れないだろう。だが過去を悔やんでも仕方ない。俺たちはとにかく前を進むしかないんだ。」

 エラルドはまるで自分に言い聞かせるようにして目を伏せた。クラースもアンネも同じようにただ口をつぐんだ。

「バラバラになった組織をまとめる強力なリーダーの存在か…。遅々として進まない交渉に時間を割くよりも、今の俺たちに必要なのはそっちなのかもしれないな。」

 独り言のようにつぶやいたスミルノフの言葉が宙を舞う。そんな沈んだ空気を変えようと、エラルドが再び静かに口を開いた。


「…ところで、今日の本題になるかもしれない話があるんだが…」

 4人は一斉にエラルドに注目した。

「なんだよ…本題があったのか?」

「いや、つい昨日入った情報で不確定な要素が多いからまだ誰にも言ってなかったんだが…、幹部が集まったこの機会に相談しておきたい。あくまで確定ではない情報だから、話半分に聞いてくれ。」

 ドレイクに対してそう前置きしてから、エラルドは続けた。

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