第五章 - 捜査の曖
捜査の進み具合はあまり良くはなかった。だが聞きこみ調査から涼太くんと接触した犯人が二つの事件に関与している疑いが出た。あいにく監視カメラがなかなか無く、あっても古いため映像の解像度は最悪だった。接触事故があった場所ではライトを覆う部分の破片が見つかり車種の特定が早急に取り掛かられた。事件後、涼太くんのいる病室に行った。記憶が欠落していて何も思い出せなかったのだが、生きていて本当に良かった。そう心から思ったのを今でも覚えている。
「巡査部長。金曜の夜に起きた接触事故の犯人が確定ではないですが特定されました」
「なに? 詳細を――」
「はい。犯人は同一人物と思われます。一之瀬七海の右目に大きな痣がありました。そして一之瀬涼太との接触で出来たとされる破片の近くに特異の設計をしたハサミが落ちていました。恐らくですが犯人は左利きと思われます。そして、今回起きた二つの事件に当てはまるであろう人物の名は、
――
―――――――――――――――――――
一之瀬涼太、今お前は何をしている……。
病院の診察を終え会計を待っていた、クラス担任をしている私は心の中でそう叫んだ。私はお前を――
ピンポーン。
「43番でお待ち方、会計窓口までお越しください」
アナウンスで番号を呼ばれ窓口へ行った。右手にある財布から紙と銅をキャッシュトレーに落とし、左手で薬を受け取った。
「もういつ死ぬかわかんねぇな。次はきっと」
無意識で呟き、近くにいたオバサンに変な目で見られた。申し訳ございませんでした。そう心の中で謝罪し外へ出た。ヘルメットを被り誰にも触れさせたことのないバイクに乗ってエンジンをかけた。頭痛がしたが、構わずハンドルを捻って涼太の家へ向かった。
信号に引っかかり、遠くを見ると数台のパトカーが走っていた。遂に動き出したか。そう思いヘルメットをより深く被り直した。国道沿いにある病院から一之瀬家へは時間はかからなかった。家の前にバイクを停め、カメラのないインターホンをヘルメットを被ったまま押し込んだ。
「はい」
女の声だった。親だったらと警戒し遠回しに出てくるように頼んだ。
「涼太くんの友達です。涼太くんいらっしゃいますか」
「ちょっと待ってね」
扉から出てきたのは紛れもない一之瀬涼太だった。私は知っている。全てを知っている。
玄関の無機質な扉がゆっくりと開かれた。
「あのー。どちら様ですか?」
そうか。涼太が事故にあってから初めての対面だったな。
「君の先生だよ、先生。
――高橋昌磨、先生だ」
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