第三章 - 憎悪の景

昼休み、僕は隼人と蓮の三人で屋上で昼食をとっていた。屋上と言っても学校の周りは山だらけで、良い言い方をするなら自然に恵まれている。悪い言い方をするなら山しかない。突然、錆びた鉄が空気を何度も揺らす音がした。


「クソッ! クソッ!!」


蓮だった。コンビニで売られている三角おにぎりを片手に、怒りに任せて腰の高さまである鉄格子を蹴っている。その様子を横目で見ていた隼人が口を開いた。


「どうしたんだ。怒るのは別にどうだっていいけど備品に当たるのは違うだろう」

「アァ! 悪かったな!! 七海らを襲った犯人が捕まったらムショに入る前にぶん殴ってやる」

「ムショて……」


ヤクザか。とりあえず蓮は俺らの事を心配してくれてるってことだな。そりゃ有難い。挨拶の時に冷酷な目をしていたのはそういう意味だったのか。しかし、なぜそこまで腹を立てるのだろうか。もしや片思いして――


「まあアイツは置いといて。お前本っ当に覚えてないの? ぶつかった瞬間とかさー」

「あ、あぁ。頭を強く打ったし、黒いヘルメット被ってた。夜だったってのもある」

「ほんと不運だな。ん? お前何でヘルメット被ってたの知ってんだ? 覚えてないんだろ?」


変な胸騒ぎがした。全く覚えてない。だけどなぜか感覚で答えていた。


「ヘ、ヘルメットを被るのは道交法どうこうほう上、当然の義務でしょ」

「お、おう。まあそうだけどさ」


どちらにせよ説明出来ないのだが色を聞かれてたら面倒なことになっていた。

――キーンコーンカーンコーン

五時限目の予鈴が校内に響き渡った。


「あっ今日音楽室! 早く行かなくちゃ!」

「えー、めーんどくさいー」


新鮮な気持ちで学校生活を過ごしているであろう一年生の女子たちがそそくさと走って降りていった。隼人が俺らも帰るかと脱力感を醸し出しながら先に階段に足をかけた。


「戻るか」


蓮に向かって一言発した後、ベンチから立ち上がった。階段に向かっていると背後から僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。だが隼人は気づかないまま姿を消した。


「――涼太。本当は全部覚えてんだろ?」

「……え?」


風が太陽の方、蓮の方向から強く吹いた。表情は固く、鋭い目付きだった。

何を言っているんだ? 

蓮の顔色を伺うようにまじまじと見た。頭の中が混乱した。隼人は一回した話をまたふっかけてくるようなバカなやつじゃない。


「ん? どうしたー? 戻るぞー」

「お、おう」


蓮は僕の隣を横切っていき立ち尽くしていた背中をポンと押した。さっき、確かに僕を呼んだはずなのに隼人は何食わぬ顔で僕の前を歩いていった。気のせいなのか疑った。

――本当は全部覚えてんだろ?

何を焦ってるんだ。実際僕も覚えていないんだし関係ない。そう自分に言いつけた。

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