第二章 - 犯人の陰
「はい、近隣の防犯カメラで調べましたが一向に手がかりが見つかりません。ただ、同日の午後八時三五分に別所でバイクと自転車の接触事故が起きています。現在、バイクは逃走しており特定を急いでいます」
土曜日の深夜、葬式のように静かな部屋の中で、巡査部長の
「そのー、何だったっけ。一之瀬七海さんと一之瀬涼太くんが同じ日に事件に遭ったんだろう? ……なら計画的犯行そして同一人物の可能性も否めないな。七海さんの衣服から髪の毛を採取、その他証拠になるものは全てDNA型鑑定にかけてくれ」
「あ、はい分かりました」
兼山はこの事件にかなり強い思いがあった。数年前、兼山の娘が高一の頃に誘拐された。暴力を振るわれた挙句、もう元気な姿をした娘は帰ってこなかった。そして犯人は捕まらず時効が過ぎ、今ものうのうと暮らしているという。それからというもの生活が荒れていき毎晩、酒、酒、酒、酒、酒。という暮らしぶりだった。立ち直って普段の生活をするのに一年以上かかった。だから、今回の事件も絶対に逃す訳にはいかないのだ。必ず逮捕してみせる。兼山の目は冷静ながら決意の色を浮かべていた。
と、いう出来事があって数日後。
早朝、部下が廊下へ繋がる扉を強引にこじ開け、慌てふためいた様子で結果報告をしにやって来た。もちろん、毛根がついた毛が数本あった訳だから間違いはほぼ無いに等しい。そしてあの事件前は雨が降っていたが事件後、雨は降っていない。だから証拠が流れることは絶対に無い。
「結果報告をします! DNAが――」
「どうだったんだ?」
ひたすら待ち続けたため話を遮ってしまった。部下は右手で扉に手をつき、息を切らしている。左手には数枚の書類が握られていた。気づけば勢い余って自分も立ち上がってしまっていた。
「DNAが、一之瀬七海さん以外、見つかりませんでした……」
一之瀬七海さん以外のDNAが無かった。いやまさか。そんな事は無いはずだ。期待とは裏腹に証拠がなかった事で落胆し、椅子に腰を落とした。
「指紋は? 指紋はどうなんだ」
「ダメです。恐らく手袋をして犯行に及んだか、もしくは……」
もしかすると、いや、ありえないのだが漢字二文字の一人で命を絶つことを想像してしまった。そう、
「殺人と見せかけた、自殺……」
部下がポツリと呟いた。同じことを考えていたそうだ。もしそれが本当とするなら、何故そんなことをしようとしたかが疑問になってくる。学校での評判も良かったと聞いているのだが。一体何が要因でこんな事が起こったのか、全く答えを見いだせずにいた。
「そのー、まだ報告がありまして……」
落ち込んでいた私に部下が遠慮気味に声をかけた。
「ん? どうした」
「一之瀬七海さんが亡くなったと推測される時間の十分後に一之瀬涼太くんが事故に遭っています。なのでこれは同一人物の可能性があります」
部下が有力になる情報提供をしてくれた。これを逃すまいとその話に食いつく。
「根拠は?」
「実は涼太くんと接触したバイクが学校近隣で目撃されています。事故が起こった方面に向かって走っていったそうです」
「それは重要な情報だ。ありがとう」
「いいえ! 任務を遂行しただけです!」
嬉しそうな顔をしている。餓鬼か。とりあえず、これだけの証拠があれば取り押さえるのもまだいけるはずだ。絶対に捕まえてやるからな、一之瀬兄妹を襲った犯人……!
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