第2話

意外なことに竹林はきちんと整備されていた。よく見ればわかる程度に人が踏み均した小道がある。遥はずんずん先へと進んだ。しばらく行くと、パッと視界が開け高台に出た。知らない間に坂を上っていたようで、そこからは街が一望でき、向こうの方には海も見えた。思わず遥はその景色に見入ってしまった。

「驚いた、こんなところにこんな場所があるとは…」

春の匂いを孕んだ風が、知らずに火照った体を冷ましてくれる。

「素敵だ。一人で見るにはもったいない…」

ふと頰に温かいものを感じた。慌てて確認すると、それは涙だった。

「おいおい、こんな景色に感動するのか、私は…」

高台からの景色はとても綺麗だが、とはいえ要はただの住宅街の景色だ。万人が涙するほどではない。

「ははっ、振られた勢いで感傷的になっているのか、馬鹿だなぁ。恋愛というのは相互の気の迷いにすぎないただのバグだというのに」

口ではそういうが、涙は後から後から溢れてきて止まる気配がない。

「っく、うっ、ぅあぁ……!!」

こらえ切れなかった声が零れて遥は思い切り泣き出した。

「なんて、なんて馬鹿なことをしたんだ…!一人前に夢を見て、恋なんかしてみたり…か、叶うはずないんだ、そんな幸運なんかないんだ…なのに…ああ、身の程知らずにも程がある…!っく、クラスの皆に合わせる顔がない…き、きっと、み、みんな私のこと嗤うんだ。ただの地味子のくせに、な、何をらしくないことしちゃってんの、てさ……」

思い出すのは昨日のこと。遥に告白された大石は、逡巡したあと、目を伏せたままこう言った。

「……悪い、韮山。おれ、好きな子がいるんだ」

誰、と聞こうとした声は喉の奥に張り付いた。遥には覚えがあったからだ。文化祭の準備中も、教室の掃除の時も、塾にいる時だって、大石の視線はいつもー。

「…大石くんは、夏華のことが好き…?」

彼は黙ったままだった。気まずい2人の間に、教室の窓から入り込んだ風が吹く。

「沈黙は肯定ということ…だろうな。ははっ、なるほど、これは降参だ」

遥はあえて明るい声を出した。大石はきょとんとした顔でこちらを見る。

「相手が夏華じゃ仕方ない。彼女は世界一可愛い子だ。私のような雑草では勝てまい。ここは諦めて帰るとしよう」

そう言って、涙が出る前に、とそそくさと教室を出ようとした遥を大石が呼び止める。

「韮山」

遥は教室のドア前に立ち止まった。

「なんだい、大石くん」

大石は深く呼吸し、一言こう言った。

「ごめんな」

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