第6話

僕は結局写真展には1枚しか出さなかった。橋の写真。我ながらうまく撮れたとは思う。

写真展当日、思ったよりも人が多くて嬉しかった。終わった後、封筒の中身を部員でチェックした。みんな入れられていた紙を見て、唸ったり、笑ったり、さまざまな表情をしている。僕の封筒の中には5枚入っていた。そのうち4枚は『素敵です』のようなことが書かれており、素直に嬉しかった。だがもう一枚。見たことのある字だった。『誰を想像したのですか』

去年も一昨年もこの質問が入れられていた。同じ字で。インパクトが強かったからよく覚えている。字のバランスが極端にいい。はね、とめ、はらいが強調されているような書き方だ。おそらくこの人は習字を習っていたのだろう。あくまで僕の予想ではあるけれど。


家に帰ってそのメモを手に、僕は考えを巡らせた。誰を想像したのですか、かあ。そんなの答えはひとつに決まってる。

無性にこの字の主に会いたくなった。会って、今までのことを全部話したくなった。字の印象だけだけれど、なんだか心惹かれたのだ。でも、偶然会えるわけ無いし、仮に奇跡的に会えたとしてもこの字の主だなんて分からないだろうなあ、と小さくため息をついた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る