第5話

懐かしい扉を開けた。父の匂いがする。

ここは父がカメラを売った店だ。店長は父の知り合いだったから僕のことも知っていた。だから僕をみて

『大きくなったなあ、ますますお父さんに似てきたな』と声をかけてくれた。

僕は照れ笑いしながら用件を伝えると、店長は顔をくしゃくしゃにして笑って、奥から1台のカメラを出してきた。僕は目を輝かせた。これだ、これだ。

僕の用件は 父が売ったカメラを買うことだった。もう売れてるかと思ったけど、父の病気を知った店長が奥の部屋にしまったらしい。とてもありがたかった。

店長はお金はいらないと言って僕にカメラを持たせた。僕は涙が出そうになりながら ありがとうございますと頭を下げて、重いカメラを抱えてとある公園に向かった。

寒いからか人は少なかった。僕にとってそれは好都合だった。僕は手にしたばかりのこれを使って何度も何度も写真を撮った。父に教えてもらった方法で。枯れた木、少し凍った池、誰も座っていないベンチを。

その日から学校後、毎日カメラを持って出かけた。母はそんな僕を見て嬉しそうに泣いた。


そんな生活が始まって半年が経とうとしていたある日、僕はいつものように風景の写真を撮っていた。ガンガン注いでくる日光を浴びて汗をかきながら、それでも地面に這いつくばって撮り続けた。でもあまりに暑かったから、近くのカフェに入って珈琲を飲みながら、今まで撮った写真を見返していた。

不意に、ポチャン、と音がした。珈琲に円が広がる。僕は涙を零していた。ああ、僕は。

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