第4話

父が突然写真を撮らなくなった。というより、ずっと首にかけてたカメラを売ってしまったのだ。僕が何故売ったのかと聞くと父は悲しそうに『撮れなくなったのだ』と言った。当時の僕はその意味がわからなかった。僕なりに考えて考えて考えたんだけど、答えは一向に出てこなかった。


答えがなんとなく、いや、はっきりと分かったのは父が入院した時だ。そう、父は病気を患っていたのだ。病名は『脳梗塞』。カメラを使う時に絶対必要な右腕が動かしずらくなり、右目が見えにくくなったのが前兆。そこからだんだん体が重く感じ、とうとうベッドから起き上がれなくなったのである。残された時間も少ないらしい。僕は泣いた。父がいなくなることに対してだけじゃなくて、父が写真を撮れないことに。同情の涙なんか悔しくて流したくなかったけど、それでも、カメラ越しの父の眼差しを、撮り終えた後の笑顔を、僕と一緒にお菓子を食べる横顔を。僕はひとつ残らず覚えている。父の生きがいは家族とカメラだった。父に聞いたことはないが確信をもって言える。そしてそんな父が僕は大好きだったのだ。いや、今も大好きなのだ。


半年ほどして父は旅立った。寒い冬の日、すごく穏やかな顔を残して。


僕はしばらくの間、自分の部屋にこもって父が撮ってくれた僕の写真を眺め続けた。

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