第3話

ある先輩に言われたことがある。

『君はどんな写真を撮りたいの?』と。

写真部の見学に行った際に言われたのだ。

僕は写真部に入りたいなんて思ってなかった。写真を撮ることは好きだしカメラに触れることも好きだったけど、中学の時にやっていたテニスを続けるつもりだった。

『僕、見学しにきただけです。』

ちょっと冷たかったかなと反省しながら先輩の顔を恐る恐る覗くと、先輩は花が咲いたような笑顔で、

『でも写真が大好きなんでしょう?』

と言った。僕は少しだけ頷いた。いや、少しだと思っていたが実際は深く頷いていたかもしれない。

だって僕は写真が好きだから、大好きだから。



写真を撮るきっかけは父だった。父は出かける時、いつも重そうなカメラを首から下げていた。幼い僕が触ろうとすると注意された。代わりに軽くて小さなお古のカメラをくれた。僕はそれが未知のものにしか見えなくて、理解せずただひたすらにボタンを押していたのを覚えている。まあやはりブレた写真しか撮れなかったのだが。

父は僕を写したがった。風景写真はあまり撮らなかった。いつも僕に、ここに立てだの、ここを向けだの。納得のいくポージングを僕にさせ、満足な写真が撮れたら僕にお菓子を買ってくれるのだ。僕はそれのために父のモデルとなっていたのだ。まあ別に嫌ではなかった。

僕が大きくなるにつれてその大きなカメラの使い方を少しずつ教えてもらえるようにもなった。

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