第29話 有翼人との遭遇

「御主人様…暇です。」


 家の前でスフィアが待っていた。話を聞いてみるとスフィアが担当していた場所の修理が完了したらしく、後は邪魔をしないように完成まで掃除も出来ないそうだ。少し不満そうな顔をしている。ポチの家はルーナが管理しているものなのでスフィアは基本やることがないらしく、外でポチの帰りを待っていたらしい。


 家についている精霊は契約者の傍とその管理している建物周辺しかいられないので、外でポチを待っていることしか出来なかったようだ。


 そういえばスフィア忙しそうだったからあまり相手していなかったな…


 城から戻ってきたところだがまだ日は高く、日が落ちるまでまだ時間はありそうだ。少しスフィアを連れ出して出かけようかとポチは考えた。


「じゃあスフィア少し一緒に出かけようか?」

「いきます…」

「シルメリアはどうする?」


 チサトはつかまってしまったのでしばらく帰れそうにないが、シルメリアは問題ないようで一緒に戻ってきている。


「なんか疲れたので今日はもう休みます…」

「あーうん…おやすみ?」


 それだけ言うとシルメリアはさっさと家の中へ入っていた。帰り道ずっと無言だったことを考えると精神的に疲れたのかもしれない。


「じゃあどうしようかな。」


 仕事ではないので森やダンジョンに行く必要はない。それなら折角だからまだ行った事がないところへ行ったほうがいいのではないだろうかと、一度情報を得るために冒険者ギルドへ顔を出すことにした。


 ここから東門の冒険者ギルドはここから歩いて数分と近く、何度も訪れているので多少顔見知りをいるので基本こっちを利用している。西門のほうにもあるらしいがそっちには行った事がない。


「ポチさん少し久しぶりですね。今日は依頼ですか?」


 ギルドのカウンターに行くと見知ったギルド職員に声を掛けられた。今までポチが来るたび相手をしてくれていた人だ。


「依頼は受けられるかちょっとわからないですけど、聞きたいことがあって…えーと…?」

「あら、そういえばまだ名乗っていませんでしたわね。このギルドのサブギルドマスターをしております、コーデリアと申します。」


 コーデリアと名乗ったギルド職員の女性は軽く頭を下げる。


「それで聞きたいこととは??」

「ああはい。いつもオリオニスの森とこの町にあるダンジョンにしか足を運んでいなかったので、南門から出た先と西門から出た先の情報を教えてもらおうかと。」


 スフィアと出歩くだけなのでまだ歩いたことがない町の中を歩き回ってもいいのだが、折角なので他の門から出たところに何があるのか確認し、いけるようなら行こうと確認をしている。


「では南門からお話しますね。」


 軽く頷くとコーデリアは説明を始めた。どうやら南は少し広めの街道がほぼ真っ直ぐ南に伸びていてその先に港町があるそうだ。その港町にもダンジョンが1つあるらしい。そこまでの間には特に何もないらしくところどころ森というほどではないが木々が生えているだけだそうだ。


「港町までは距離があるんですか?」

「そうね…馬車で半日ほどかかります。」


 今から行くには無理な場所だな。


 ポチが1人頷いていると続けて西側の説明を始めた。西側は門から外に出て北へ少し進むと鉱山があるらしく、基本一般開放もされているらしい。ただ入り口で手続きが必要なのと持ち出し制限があるそうだ。中は割りと入り組んでいるので奥に行くには地図を購入しないと難しいらしい。


「鉱山か…」

「後は西門から出て街道を西に進めば小さな森があってその中に湖があるくらいですかね?今から向かって今日中にいけるのはこれくらいだと思いますよ?」


 なるほど…いける範囲で説明してくれたのか。


「もっと知りたいようでしたら地図を購入するといいですよ。」

「ありがとう。」


 コーデリアにお礼を言うと冒険者ギルドから外へ出た。


 さて…ここからいける場所となると一番近いのは鉱山か。他の2箇所はたどり着いたら日が暮れてしまう。それに鉱山なら鉱石が色々手に入るかもしれないから、この間失敗した武器がちゃんと作れるかもしれないな。


 少し考えた後ポチは頷くとスフィアに鉱山へいこうと声を掛け、2人で西門へと歩き出した。


 東門側にある冒険者ギルドから西門へ向かうと途中に『冒険者ギルドアリストテレス西門支部』と書かれている建物が目に入った。どうやらこれがもう1つある冒険者ギルドらしい。外から見た感じこちらの建物のほうが少し古そうだ。今は特に用事がないので素通りする。


 西門から外に出るといつもと違う風景が目に飛び込んできた。初めて来た場所にどことなくスフィアの顔もほころんでいるように見える。


「んーと…こっちの山が鉱山ってことかな。」


 北側のほうを見ると岩でゴツゴツとした山があった。どうやらそれが鉱山らしい歩いて近づいていくと、人工的に作られた小さな小屋があり、入り口に近づくとその小屋の窓の1つが開いた。


「鉱山入るのかい?」

「あ、はいそうです。」

「入るのはいいがもう少ししたら日が落ちてくるから夜の対策がないならやめたほうがいいぞ。」

「ふむ…夜の対策はないけど入り口から少しのとこならまだ大丈夫だよね?」

「それでいいならいいが…入り口付近にはめぼしいものはないぞ?」


 そういうと男性は手続きの書類を差し出してきた。その内容を読んでサインをすれば入れるようだ。その内容によると、どうやらまれにモンスターがいるらしく、そのせいで怪我をしたり命を落としても責任を取れないと書かれている。それとここで採れた鉱石は販売をする場合、その鉱石の登録をしなければならないようだ。個人で使う分には登録は必要ないが、珍しい鉱石を入手したときだけ登録をしないとトラブルの元になる。


「はい、これでいい?」


 サインをするとその紙を男性に渡す。


「ところで珍しい鉱石ってどんなの?」

「そうだな…一般的に出回っている武器や装備に使われていないものだな。ざっくりいうと銀以上か?」

「なるほど。」


 銀以下が何なのかはっきりわかってないけど…わからなかったら聞けばいいよね。


 時間も惜しいのでとりあえず中に入ることにする。中は少し薄暗くちょっとした洞窟のようになっていた。とりあえず入ってすぐ壁を鑑定してみるが、どうやら鑑定でわかる深さがどこまでかわからないが表面上取れそうな鉱石はなかった。


 少し中へと進むと左右と前に2箇所合計4方向へと道が分かれていた。あまり奥へ進むわけに行かないので左へ少しだけ入っていくことにした。さっきまでは崩れないように補強がされていたがここからはいろんな人が掘ったのかボコボコとしていて、補強もないようだ。


 こんなところにも窪みがある…


 丁度ポチの身長を超えたあたりにも窪にがあり少し掘り進められているようだ。穴に手を掛け、中を覗きこんで見るとそれほど深さはないが気のせいか薄っすらと明るい気がする。


「うーんちょっと狭いから俺じゃ入れないな…ノームなら入れる?」

「鉱石でも探せばいいのか?」

「いや、何か中明るいよね…少し様子見てきてくれないかな。」

「…わかった。」


 小柄なノームはさらに小さくなり穴の中へと入っていく…その様子を後ろから眺めていると少し進んだ所でノームが足を止めた。なにやら声が聞こえるところを見ると誰かと会話をしているようだ。


「何かあった?」


 戻ってきたノームに声を掛けてみる。


「中におる者に助けを求められた。少し手を貸してもいいだろうか…」

「何をするんだ?」

「詳しいことは知らないが安全な休息場所を求めている。」

「奥にいるのは1人?」

「1人…いや、個体数でいえば2だな。それと魔力の補充を求めている。」


 個体数…?


「よくわからないけど話は聞くから2人をそこから出してくれないかな?」


 穴を広げればいいんだろうけど掘るのは時間がかかりそうだ。ノームが再び奥へ進み出てくるときには他に2人ついてきていた。


「こんにちは?」

「こ…こんにちは…」


 挨拶を返してくれた女の子は小柄で7-8歳くらいに見える。髪は長く腰辺りまであり、薄い桃色をしている。ただ普通の女の子と違い背中に白い羽が生えていた。


「………羽?」


 異世界に知らないものはたくさんあるからそれほど驚かないが、白い羽は初めて見た。サラマンダーの羽は赤黒いし、そもそも人ではない。


「そこのお前ジロジロ見るとか失礼だろうがっアンジュにあやまれ!」

「レム…だめだよ~」


 アンジュと呼ばれた羽の生えた女の子がレムと呼ばれた金髪の男の子の腕を引っ張って止めている。男の子のほうには羽は生えていない。


「羽が珍しくてつい見てしまったんだ…ごめんね。で、休息場所と魔力の補充だっけ?」

「そうだ!アンジュを休ませてくれっそれと魔力が欲しいのは僕だ。」

「レム~それじゃ全然意味がわからないよ~」


 困った顔をしつつアンジュがゆっくりと説明を始めた。アンジュは有翼人で空を移動中に急激に魔力を何かに奪われ、空から落ちてしまったそうだ。ともに行動をしていたレムがかろうじて魔法で落下ダメージを軽減できたものの、お互い魔力がほぼ空になってしまったそうだ。なけなしのレムの魔力で魔法を使い、姿を隠してこの洞窟にとりあえず隠れていたらしい。


「入り口に人いたのに助けを求めなかったの?」

「知らないんですか?有翼人は滅んだと言われてるんです…下手に表に出られません。」

「でも空飛んでたんだろう?」

「レムの魔法で姿を隠していたんです。でも魔力が切れてしまって…」


 なるほど…隠れていた理由はわかったけど……


「俺…というかノームに声を掛けたのは何で?」

「精霊と精霊を連れている人なら大丈夫だと思ったんです。レムも精霊ですし…」

「…この口悪いの精霊なの?」

「口が悪いのは生まれつきだっほっとけ!」

「それでまずは急ぎレムの魔力を回復したいのです…っ」


 必死にアンジュがレムの魔力回復を頼んでくる。何か急ぎの理由がありそうだ。


「えーと精霊だっけ…契約とかしてなければ契約したほうが早いけど…」

「…契約はしてないがやめておいたほうがいい。消費が激しいんだ。」

「じゃあ魔力ポーション+かな…5本飲めば魔力誰でも満タンになるよ。」


 そういうとポチは5本瓶を取り出しレムに差し出した。


「すまない…いずれ借りは返すっ」


 受け取ったレムはすぐ飲み始める。もう5本取り出したポチはそれを今度はアンジュにも差し出す。


「アンジュもいるよね?」

「あ…私は薬は一切受け付けられません…気持ちだけ受け取らせてください。」


 申し訳なさそうにアンジュは頭を下げた。


「なるほど…だから休息場所なんだね。」

「はい…あ、レムどう?」

「…ぷはぁっ回復のためとはいえ5本とかきついわ~えーと…うん。大丈夫修復されたみたい。」


 よくわからないが何かが修復されたらしい。


「とりあえずこれで姿消せるよね。行こうか。…そうだスフィアこの2人と手を繋いでおいてね。」


 見えなくなっちゃうからね。


「スフィア…?スフィアじゃねーかっ」


 どうやら精霊同士ということもあって知り合いだったようだ。スフィアはアンジュに近づくと背中の羽に顔をうずめた。


「ふわふわする…」


 どうやらスフィアはアンジュの羽が気になっていたようだ。日も傾き始めたようなのでさっさと洞窟を後にし、ポチたちは店へ帰って行った。まずは姿を消したままポチの部屋へ2人を案内する。詳しい話や細かいことはルーナも呼んでこれからここですることになった。

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適正職業『錬金術師』 れのひと @renohito

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