第25話 長い1日
武器屋の扉をくぐるとまずは店内の様子を眺めてみる。壁や立てかけられる棚などにいろんな種類の武器が並んでいる。剣、槍、短剣、弓、杖…それによくわからないものもいくつか見られ、眺めるだけでも多少は楽しめそうだ。
「何をお探しなのかのん?」
武器を眺めていると店員に話しかけられた。少し小柄で肌の茶色い少女で見た感じポチより年下だ。
「えーと…お店の人います?」
「…目の前にいるのん。」
目の前…はこの女の子しかいないけど。
「……?」
「僕がこの店の店主なのん…まだ間違う人がいるのねん…」
がっくりと頭を下げ少女はうなだれている。悪いことをしてしまった。だがどう見ても子供にしか見えないのだからしかたがないだろう。少しすると立ち直ったのかあきらめたのか少女は顔を上げ、再度同じことをたずねてきた。
「で、武器はいるのん…?」
「あ、いりますいりますっ」
「職業によって扱いやすいものがあるけど…何かのん?」
そんなもんあったのか誰も何もいってなかったから知らなかったよ…
「錬金術師なんですが…武器何がいいですかね?あっ今まではナイフでした。」
「……護衛つけて採取すれば武器はいらんのん。」
「いやいやいるから来てるんじゃないかっ」
「ふむん…」
少女はポチをじろじろと見た後武器の棚へ向かった。
「第2に魔法はあるん?」
「ないです。」
「その連れてる精霊に魔法を使わせるん?」
「…え精霊が魔法使うのと俺の武器に何の関係が?」
「…えっじゃあまさか君が戦うのん?」
武器を選んでいた手を止め少女は目を見開いてこちらを見る。何か変なことを言っただろうかとポチは首を傾げるしかない。
「……まあいいのん。」
そういうと少女は棚からいくつか武器をだして目の前に差し出してきた。
「まずはこれ。杖ね、精霊に魔法を使わせるときに自分が装備すると火力があがるん。」
精霊の魔法か…何が出来るか聞いたことないや。ひとつもっていたほうがいいのかな?
差し出された杖は単純に火力の上がるものと、土属性が上がるものの2種類が目の前にある。今ポチが連れて歩いているのがノームだからだろう。まあ後はまだ契約していないサラマンダーくらいしかいないので、どっちでもいいのだろうが…後のことを考えたら火力のあがるほうがいいか。
「あとはこの辺。短剣と細身の剣、ある程度力があるなら弓も使えないことはないのん。」
「弓か…」
体力も力もないから弓は厳しいかな…ステータス増加剤を使用すれば使えないこともない…か?まあそれでも威力はないだろうな。
目の前に並べられた武器をそれぞれ鑑定で確認してみたが、そもそも武器というものがなれないもので、自分で扱えるのかがよくわからない。無難な所で火力を上げるための杖を買うことにした。今度精霊に聞いて魔法を使わせてもらおう。
武器屋を後にし店に戻るとまだちらほら客がいるようでみんな対応に追われていた。採取したアイテムを倉庫にしまい、チサトの様子を見るために家のほうへ行くと食堂がなにやら騒がしいことに気がついた。
「あれ…フィリアちゃんまだいたの?」
厨房のほうに立つフィリアとルーナ、そしてテーブルにふせているチサト、アルタ、エルザ…何この状況。チサトなんてお皿に頭ささってるけど…
「あ、主様おかえりなさい。」
「ルーナどうしたのこれ…」
机に伏せている3人を指してルーナに確認する。
「えーと…フィリアの料理の味見をしてもらったんですけど…」
「それで?」
「気絶しました。」
聞いた話では腹痛をおこすんじゃなかったっけ?これ逆に悪化してないか…
「見た目は何とか見れるくらいになったんですけど、味が破壊的だったらしく。」
「あールーナもうそのへんで…」
視線を横にずらすと今にも泣きそうなフィリアが立っていた。ルーナがどんな教え方したのかわからないがこの状態は流石にまずいだろう…
「今日はこの辺で終わりにしようか。フィリアちゃんまた練習においで。」
「でも…迷惑じゃ…」
机に伏せている3人をちらちらと見ている。
「大丈夫。私もっと教えるし、最悪毒使わなければ問題ない。」
いやそれフォローになってないよルーナ…
「じゃあ明日は俺も調理の様子見るから…ね?」
「…お願いします。」
部屋の隅で眠りこけていたヨーデラさんを起こし、また明日連れて来る約束をして2人には帰ってもらった。
「さて…どうしようかねこの3人は。」
「あ、じゃあ私が運んでおきます。」
ひょいっと3人を小脇に抱えルーナはさっさと食堂から出て行った。
精霊は自分の家の中だとほんと何でも出来るよな…もしかしたらそのせいで料理もほんとは出来ていない…ということなのか?
今度ためしに野外で作らせて見ようとポチはメモをしておいた。
散らかった食堂を後にし、店に戻ると閉める準備が始まっていた。それに参加した後食事の時間までポチはシルメリアと調合をする。2人きりなのが少し緊張する。
それはシルメリアも同じなのかたまにポチをちらちらと見ている。
「あ……調合レベルが上がったみたいです。」
「おっじゃあステータス増加剤と魔力ポーションも作れるね。」
どことなくシルメリアが嬉しそうだ。何だろう…
「そういえば家のほうはいいの?」
「はい、セレーネが代役やってくれてます。それに…実は父が今日変装してきたんですよ。」
「うえっ王様が店に??」
あまりのことに驚いて変な声が出てしまった。
「多分表面上私は城にいるけど、いないのわかっていたんですね。調べてここまで直接くるとか…まあ追い返しましたが。」
「そ…そうなんだ?」
「娘の仕事の邪魔するとかだめでしょう?」
いや、そもそもシルメリアが何も言わずに働きだしたのがいけないんじゃ…まあいいませんけども。
「ねえポチ店長…こうして2人で同じ作業してると、夫婦みたいですね…」
「………そっ」
薄っすらと頬を染めシルメリアがとんでもないことを言い出した。
「…なんて。」
悪戯っぽい笑顔でシルメリアはポチを見つめる。ちょっとかわいいかもしれないとポチは思ってしまった。
食事の時間になりそこにはチサト、アルタ、エルザの姿かないことにみんな疑問に思っていたが、後で来るだろうと言うことでいる人だけで食事を済ませた。どうやら3人は後で起きてきて食事をしたらしい。
夜ステータスを確認するとレベルが上がっていた。ゲームみたいにレベルが上がったときに音がなるわけじゃないので見ないと気がつかないものだ。
名前:ポチ
性別:男
年齢:16
職業:錬金術師(商人)
レベル:20
体力:195/195
魔力:1260/2143
力:93
速さ:127
知力:1036
運:92
物理防御力:81
魔法防御力:268
固有スキル:チュートリアル 鑑定3
称号:スライムに倒された男 精霊の契約者
***** 錬金術師アルケミストスキル *****
調合3 練成1 分解1 合成1 生成1 (操作)
***** 商人マーチャントスキル *****
話術1 ストレージ増加3 開店1 値切り1 経営1 (雇用)
鑑定が3になっている。人間の鑑定が出来るようになったらしい。それに20レベルになったことが原因だろうが、スキルが開放されていた。生成1、経営1の2つだ。これで経営担当の人員を雇わなくてよくなったのではないだろうか。
生成…アイテムの種類数問わず組み合わせて新しいものを作ることが出来る。
経営…商売において運営のための仕組みを理解できる。スキル使用でオート化可能。
うん…オート便利そう。明日今日の分とあわせてみんなの仕事状況を提出してもらおう。で、休みの前に給料払う形にしよう。問題は生成のほうか…これって材料の組み合わせによってはおもちゃみたいな作りでも強い武器とか作れるってことじゃないか?まあ普通の武器は鍛冶が出来る人のがいいだろうけど…何が出来るかな。
こうなってくると金属などが必要になる。今そこらで売っている武器や防具に使われている金属はどこで入手できるのだろう。一部モンスターが落とすアイテムもあるみたいだが、職業に鍛冶があったはずなのでどこかで手に入るはずだ。
ひとまずお試しで手元にある余っているナイフで作ってみることにする。やはりここは銃を作ってみるべきであろうか。この世界で今のところ見たことがない。プラモデルや水鉄砲などのおもちゃくらいの銃しか見たことがないポチだか、デザインだけなら画像をいくつも見たことがある。構造を知らないので中身はおもちゃな作りになってしまうだろう。だが、強度さえ足りればきっとちゃんと使えるようになる。
「…出来た、かな?」
ナイフ1本の材料で作られた銃。小型で手のひらに収まるサイズで、デリンジャーという銃だ。デザインはまあ軽く趣味に走っているがそこは気にしてはいけない。銃弾を用意するのが多分一番大変であろうということで、魔力を込めてそれを弾にして撃てるような作りをイメージして作った。なので中を覗いても銃弾は入っていない。
「ためしうち…は空に向かってならいいかな?」
窓を開け空に向かって建物がない方向に角度を調節する。魔力を込める銃なので込める魔力次第で威力が変わる。それでも銃自体が耐えられる魔力までしか打ち出すことが出来ないので注意だ。
「とりあえず50くらいかな…?」
魔力を銃に込め打ち出す。すると大きな音を立て魔力で出来た弾丸が打ち出された。その反動で窓ガラスが割れポチも後ろへ倒れこんだ。
「うわっつ…」
先ほどまで手に持っていた銃が煙を上げ変形している。温度も上がり少し手のひらに火傷をしてしまった。
すると、バンッと大きな音を開けポチの部屋の扉が開いた。大きな音を聞きつけてアルタが部屋に飛び込んできた。その後に続いて結局みんなポチの部屋に集まってしまった。
「ちょっ…ポチさっきの音は何…というか窓割れてるじゃない!」
「ポチ店長…もしかして侵入者ですか?」
「よく見て、ガラスの破片は全部外側に落ちてるわ。」
エルザの一言でみんなポチの方に視線が集まる。
「えーと…ちょっと新しいスキルで作ったものの実験を…火力調節を失敗したみたいで…」
「お…それって銃か。」
「あーうんためしに作ってみたんだ。」
「へー…ん?ちょっと壊れてるな。」
「魔力を弾にして使ったら強すぎたみたいで…」
ポチはチサトと銃について盛り上がっていると、「そこの2人『ひざまずきなさい!』」という声が上がった。
「ポチ店長…手怪我してますよ。まずは治療です。」
どうやらシルメリアのスキルだったようだ。ポチとチサトは頭をたれ片膝をついている。
あれ…このスキルってチサトも使ってたやつじゃ?
そっと隣にいるチサトを見ると驚いた顔をしている。どうやら同じ職を2人は持っているようだ。
「ねえチサトこのスキルって今日使ってたやつだよね?」
「………」
チサトは返事をかえさない。その横でエルザがポチの手を取りヒールをかけてくれている。今のポチの言葉が聞こえていたのがシルメリアが不思議そうな顔をした。
「チサトさん…顔、よく見せてもらっても?」
スキルのせいでその場から動けないチサトを横に座ったシルメリアが覗き込む。
「髪の毛の色は違いますけど…顔は面影があるかも…」
「…間違いだろう。」
「似た顔とスキル…」
「あなたはもしかして私の兄、なのでは?」
「…じゃあ何かい?この俺が王子だとでもいうのかい?」
「私、あなたに王女だなんて言った覚えがないんですが。」
「…他の人が話してたのを聞いたんだよ。」
チサトを見つめるシルメリアの瞳が悲しそうに揺らいだ。
「これだけは使いたくなかったんだけど…」
ゆらりとシルメリアは立ち上がりさらに違うスキルを使用した。
「『絶対服従!』」
「…くっそこまで使うかっ」
スキルを使用したシルメリアがふらついた。近くにいたアルタが支えている。
「え、ちょっとシルメリア名前的にいやなスキルっぽいんだけど…」
「自分の魔力と体力両方をほぼ全部使って相手に10日間服従させるスキル…この間私の魔力も体力も自動回復しなくなる…」
説明を聞いたエルザがとりあえずヒールをかけている。これでひとまず体力は大丈夫だ。チサトは俯いたまま顔を上げない。
「チサトさん?あなたの身分の証明を。」
多少抵抗しようとしているのかチサトの手が震えながら身分証を取り出した。受け取ったシルメリアは少しだけ眺めるとすぐにチサトに返却した。
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