第24話 雲行きが怪しくなってきた

 初めての休日が終わった日の朝。いつものように食事の時に予定を話した後、今日はまずポチは店を手伝うことにした。チサトがこの店に来て働く初日になるので、折角だから一緒に採取へ行こうと思ったからだ。昨晩は色々あったが、今は忙しくてそれどころではないのが逆に助かっている。


 予想通りステータス増加剤を買いに来るお客さんが多いようで、ポーションと一緒に数本混ぜて売れている。


 ……ダンダンッガチャガチャ


 外から扉を叩く音が聞こえてきた。開店中は鍵が掛かっていないから入れるはずだが、どうやら開かないようだ。


「どうされました?」


 扉を開け叩いていた人に声を掛けてみる。


「どうしたもこうしたも…俺達中に入れないんだがどうなってる?」

「入れない…ですか?」


 ずっと店にいるわけじゃないのでちょっとポチには理由がわからないのだが、1つだけ可能性があった。


「ルーナ。」

「はい、主様。」

「この2人どうして入れないのかな。」

「ああ、初日計算間違いだと文句をいわれ、その次の日はそしららぬ顔で商品を持ち出そうとし、さらにステータス増加剤のおまけがついた日に分割で払うからその分おまけを付けろと騒ぎ立ててた人たちですね。3度の騒ぎを起こしましたので、もう店には入れないはずです。」


 つまりもうルーナが入室拒否したわけか…


「すみません当店は騒ぎを3度起こした人は、入れないようにできております。どうかお引き取りをお願いします。」

「なんだとーっ俺達は客だぞっこの店は客にそんな態度取る店なのかぁ~?」


 怒った男はポチの胸倉を掴むと、店の壁に押し付けた。


「…はっよえーくせに生意気いうんじゃねぇーっ」

「主様への暴力を確認しました。強制排除いたします…」


 ルーナが一言言うとさっきまでうるさかった男達が言葉を止めた。その顔が見る見る赤くなると口をパクパクしだし、次第に青くなり始める。


「周りの空気の流れを変えました。この建物から離れないと…命の保障はありません。」


 男達はその言葉を聞くとあわてて走って逃げていった。遠くで何か叫ぶ声が聞こえるが、まあ負け犬の遠吠えだろう。


「乱暴な人達だったね。ルーナありがとう。」

「話を聞かない人には実力行使がやはり早いので…」


 服を正しているとその騒ぎの奥のほうから申し訳なさそうに1人の男が前に出てきた。


「えーと…今大丈夫でしょうか?」

「あ、ヨーデラさん。大丈夫ですよ。」


 痛み止めをたくさん買うお客さんのヨーデラさんだ。今日も痛み止めを買いに来たのだろうか。よく見るとその背後にもう1人10歳くらいの女の子がいるようだ。その女の子はヨーデラさんの後ろから少しだけ顔をだしている。


「この子がお孫さんですか?」

「はい、フィリアといいます。」

「ルーナ。これからこの子がきたら料理を少しづつ教えてあげて。」

「ご褒美…」

「…おぼえているよ。出来る範囲でだからね?」


 その返事を聞くとルーナは少しだけ嬉しそうな顔をした。4人で食堂へ移動すると少し遅めの食事をしているチサトがいた。食事ももう終わるところだったようで、タイミングがよかったみたいだ。


「お?丁度よかったポチ今から採取か?」

「うん。チサトが準備いいなら行こうか。じゃあルーナ後はよろしくね。」


 フィリアをルーナに預け、どうやらヨーデラさんはしばらく見学するようなのでそのままにし、ポチとチサトは本日の採取へとオリオニスの森へと足を運ぶことにした。東門から外に出てしばらく進むと森につく。


「そうだチサトはどうする?僕はノームと行動するけど…」

「何集めるんだっけ?」

「プルポム草、ヌグル草、グルルム草。あとベルペル草、ギルギル草、スライム玉このあたりを集めてるよ。」

「ふむ…とりあえず今日はポチと動いとくかな。」

「じゃあノーム、今日はどこにある?」


 3回目ともなると流石に慣れてきたのかノームは聞かれる前に確認をいていたようで、すぐ返事が返ってきた。


「今日はこのまま真っ直ぐ。森の中央付近だな。」

「中央か…いけるかな?」


 いざとなればステータス増加剤を使えばいいか。


 ステータスを確認しながらポチは軽くため息をついた。


「なあ…普通に森をあるくだけじゃねえのか?」

「ああ、説明してなかったね。普通に歩くには歩くんだけど、エルフの里へ出るために迷いの森にいくとプルポム草が比較的多く入手出来るんだよ。」


 まあそれ以外もあるんだけどね。


 スライム、ラビッチュ、ウルフォルスを狩りつつ薬草を採取する。少しづつ奥に進むと見慣れないモンスターが出始める。ももんがに似た空を飛ぶリス見たいのはウルフォルスより強くはないが飛んで向かってくるのが厄介だ。



   名前:フラスクル

  レベル:5

属性タイプ:風属性、動物

 アイテム:プルポム草、ポーション、フラスクルのぬいぐるみ、サーベル、属性『風1』



「久々に武器を持っているモンスターみたきがする。」

「ん、スライムのナイフあるじゃないか…」

「いや、まあそれは…」

「そー言えばポチはナイフだな、武器。装備も用意したほうがいいんじゃないのか?」

「装備か…」


 もともと体力がない上に装備で重くなると、避けられずより危険になるかもしれないので微妙なところだ。


「まあ、力がないと重いだけか。」

「そうなんだよね…それでも少しはいるかなー急に出てきたモンスターの攻撃を耐えられるくらいには。」

「そうだな。」


 近々軽めのものでも用意することにしよう。上下とも布で出来た服では流石に気にされてしまうしね。


「そういえば俺は錬金術師だけどチサトは職業なんなのさ。」

「あー言ってなかったか。一応第1は騎士ナイトだな。」

騎士ナイト…いいな~」


 いやほんと普通に戦闘職なのがうらやましいんですけどっ


「でも第2は…」

「…ん?」

「なんでもない。」


 どうやら第2の職業はあまりよろしくないようで教えてくれなかった。


 それからもモンスターを狩りながら進んでいくと薄っすらと霧が出始めた。どうやら迷いの森についたようだ。


「お?」

「迷いの森についたね。じゃあここからが採取の本番だね。」


 今日は森の移動で少し時間がかかったので採取時間を短くしないといけない。それを気をつけつつポチとチサトは採取を始めた。


「ここってモンスターはいないのか?」


 周りを見ていたチサトが聞いてきた。そういえば今まで一度もみたことはない。


「え、どうなんだろう…ノーム?」

「いないこともない。同じくこの森に入ったモンスターがたまに出るぞ。」

「だそうだよ?」

「へーじゃあいきなり森の最深部のモンスターとかもいるかもなのか…」

「え…そうか。考えてもなかったよ。」


 流石にそんなのが出てきたらひとたまりもない。そしてうわさをするときに限ってそういうのは現れるもので…


「あぶねぇっ!」


 叫ぶチサトの声とほぼ同時にポチは体に衝撃を感じ倒れこんだ。どうやらチサトが助けてくれたようだ。だが、そのチサトは血に染まっていた。


「……チサトッ!」

「ぐっ…『ひざまずけっ!』」


 スキルだろうかチサトが叫んだ言葉でこちらに向かって来たモンスターは足を止めじっとこちらを見ている。大きな体がゆっくりと座り込む。


 これは…恐竜みたいな…ドラゴンだろうか…どうみても勝ち目がないな。


「くそっ…効くかわからねえが…『去れっ!』」


 再び発したチサトのスキルで目の前にいたドラゴンらしき大きなモンスターは、透けるように姿を消した。


「おや、これは残念。まだ実験はこれからだったのにな~」


 声のするほうを見ると気の上にフードとマントで姿を隠した人がいた。フードで顔が見えないがこちらを見ているのはわかる。


「実験って…というか誰だっ」

「そんなことより。そっちの人早く治療しないとまずいんじゃないのかな?」


 そうだチサト!


 あわててチサトを見るとわき腹に大きな裂傷があり、そこからまだ出血を続けている。まずはポーションを飲ませ少しでも落ち着かせようとする。むせてしまっていまいち飲めないようだ。


「ノーム、ポーションは直接掛けても効くかな?」

「効果は弱いが使わないよりはましだ。」


 ポーションを傷口に数本かけるととりあえず出血が止まった。だが傷口が開いたままだ。これを塞がないと再び出血するしその傷から病気になるかもしれない。


「傷口を塞ぐもの…布とか…傷口を変形させる?」


 練成は静止物の変形だからだめだよな…


「とりあえずチサトが着てた防具を直して…そうだ、ノームここにエルザ連れてこれないかな。森には来てるはずだから。」

「エルザ…確か寝食をともにしている者の1人だな。」

「うん、そうだよ。」

「割と近くまで来ているようだ…」

「じゃあお願い。」


 ノームにエルザを頼んでポチはチサトの様子を見る。今動かすとまた傷口が開きそうだ。少しでも傷口がふさがるようにポーションを多めにかけておく。


 少しするとノームが戻ってきた。エルザとアルタ2人を連れてきている。


「ポチ、呼んでるって何…というかここどこ?」

「説明は後でいいかな?まずはチサトに回復魔法をかけて欲しいんだ。」

「うそっどうしたの??」


 アルタはチサトの酷い傷を見て驚いているようだ。同じく傷口を見たエルザは以前ポチにかけたことがある魔法より効果の高そうな魔法をかけてくれた。


「ライトヒーリング…」


 さっきまで開いていた傷口はエルザの魔法ですぐに塞がった。これで一安心だ。


「思ったよりは出血してなかったみたいね。ポチ何かした?」

「あーうん。ポーション飲めなかったから傷に直接かけてみたけど。」

「そっか。それで出血が止まってたのね。」


 頷いたエルザがこちらをじっと見ているのが気になるが、傷が塞がってよかった…


「ん…わり…へましたわ。」

「チサト!よかった…どう体は。」

「うーん…少しだるいけど動けないことはないわ。」


 目を覚ましたチサトは立ち上がり自分の状態を確認している。


「俺こそ助かったよありがとう。」

「いやいや、ポチの軽装じゃ即死だったんだからしかたない。」


 うん、ほんと装備用意しよう。




▽▽▽▽▽




 今日は早々に切り上げ4人で町へ戻ることにした。チサトの体を気遣ってのことだ。そしてポチは今日はこの後さっさと装備を買いに行くつもりだ。


「なんか初日から迷惑かけてすまん。」

「いやいや。俺も装備考えさせられたよ…」

「軽いけどそれなりに防げるやつは高いから予算と相談しろよ。」

「うん、わかったよ。」


 3人と別れ買い物に向かおうとすると、そこに男が2人目の前を塞いできた。昼間店に入れなかった2人だ。


「へっ…ここならあの女いないし、よえーお前をぼこれるぜっ」

「やっちまおうぜ…きにいらねーしなっ」

「…なんだこいつら?」

「あーうん…ルーナに店出禁にされた人たちだよ。」


 寝ていて知らなかったチサトが聞いてきた。


「ふーん…めんどくせーな。『去れ』」


 チサトがドラゴンを追い返したスキルと使うと男達も目の前から消えた。あまりな出来事にアルタとエルザが口をポカーンと開けたままだ。


「な…何今の。」

「見たことないスキルだわ…」

「へー…職業なんなんだろう。」

「まあ気にするなって。それより防具買ってこいよ。」


 今度こそ3人と別れポチは防具を買いに店に向かった。店の場所はギルドからそう遠くない中央の通りあたりにあったので、とりあえず入る。


「いらっしゃいませー」

「あの、軽くてそれなりに強度のあるものが欲しいんですが。」

「そうですね…高くていいならミスリルあたりで出来たものですかね…それ以外ですと、モンスターの皮で出来たものが各種ありますが。」


 店員さんに色々防具を教えられつつ選ぶ。やはり金属だと軽いのはミスリルくらいだそうで、後は皮が比較的に軽いとのことだ。魔法防御はさほどいらないので、物理防御に特化したものの中から選ぶことにした。選んだのは茶色っぽい鎧だ。何の皮でできているのかは知らないがこれにした。


 防具も決まったのでついでに少し武器も見直すことにし、ポチは防具店を後にした。

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