第21話 開店3日目
開店3日目の朝。流石にみんなも慣れてきて今日の予定を静かに聞いている。
「今日はみんなまずは店の方でお願いするね。様子を見て、採取に回ってもらうよ。」
みんなは返事をすると各自食事を済ませ支度を始める。今日は『ステータス増加剤S』のおまけがつく日で今店で扱っている薬で一番効果がお勧めの薬だ。試したいお客さんは朝から来るだろう。そっと玄関のほうから店の入り口を覗き見ると、すでに入り口で待っているお客さんがいた。
早すぎだろう…まあ試せばわかるけどいいものだしな。
ここ2日この薬はそれほど売れていない。やはり高い分試してから買おうと言うお客さんも多いみたいだ。
「お客さんが少し並びだしちゃったから準備終わり次第店を開けるよー」
いつまでも通路に人を並ばせておくと他の人の迷惑になる。早いところ店を開けたほうがいいだろうという判断だ。
「ポチ店長補充作業終わってますー」
「ポチ君、お金の用意も大丈夫です。」
「掃除は問題なし。」
「ところで全員いるかな?」
ポチは店の中を見渡した。
「…エルザがいないね。」
「あー2度寝してるかも…見てきますっ」
アルタがあわてて2階へ上がっていった。なんとかエルザを引っ張ってきてくれた。エルザも急いでエプロンをつける。
「エルザ、それひっくり返ってる…」
みんなそろったので店を開店した。すると待っていたとばかりに外の通路にいた人がなだれ込んできた。
「「「「「「いらっしゃいませーっ」」」」」」
挨拶を済ますとみんな配置についた。
ちょっとこれは…一度に入りきれない…か?
移動が困難にならない程度に制限かけて入り口で客を待たせることになった。狭い店内、一度に入れるのは20人以下だろう。
入れない客を出来るだけ家の壁側に並ぶように列を作らせ、通路にはみ出た人も通路の隅に寄るように並んでもらう。
「ポチ、ざっと数えたけど100人超えてるんじゃないかな…」
「うーんこんな早く人数超えるとは…」
朝から待ってもらってるお客さんに悪いと言うことで急遽今並んでる人全員におまけをつけることにした。その最後尾にポチが並びそこから後ろに並ぶ客に説明をした。すると帰っていく人もいれば、それでもいるものがあるからと並ぶ客といろいろであった。
列は少しづつ減り始めた。1人あたりの買い物時間が短いせいだろう。おまけだけを目当てで来た人はそれほど薬を買っていかない。まあそれでも気に入ってもらえれば休み明けにでも買いに来てくれるはずだ。これはそのための配布なのだからと目をつぶるしかない。扉がポチの目の前まで来たのでそこでいったん中の様子を見る。今いるお客さんがはけてから今並んでいるお客さんを入れる。待っているお客さんは少なめだが軽く説明すると理解を示してくれた。
「あれ、あなたは…」
開店初日に痛み止めを50本買って帰った男性がそこに並んでいた。
「ああ、店長さんいいところにっ」
「今日は別の薬でも買いにいらしたんですか?」
「いえいえ。もちろん痛み止めを買いにですよ。」
「えっ…もう足りないのです…か?」
「はい、あの薬があると家族みんな助かっております!」
あー…家族で使っているのか。そりゃ~消費も早そうだ。孫とやらの料理の腕を磨いたほうがいいのではないか?
「あのー…よろしければ料理をお孫さんに教えましょうか?」
「なん…ですと…?」
男性は酷く驚いたようだ。料理を教えるだけなのに何か驚くようなことをいっただろうかとポチは首をかしげた。
「あの破壊的な料理が…ちゃんと食べられるものになるんでしょうか…今まで誰も成功していないのですが…」
「そ…そんなにすごいのですか?」
逆にこれは興味がでてしまうではないか…
「我が家は飲食店をやっているのですが、その孫がこの始末でして…誰が教えても改善されず、困っていたのです…もし改善していただけるならぜひともお願いしたいっ」
まあ教えるのは俺じゃないけどな…
「ルーナ。」
「はい、お呼びですか?」
扉の中からルーナが顔をだした。ほんと家の中とすぐ外なら呼ぶと現れるメイド…もとい、精霊である。
「ルーナは料理って人に教えられる?」
「出来ると思いますけど…」
「料理の出来ない女性はどう思う?」
「ゆるせないですっ」
「じゃあ任せた。」
「任されました!…って誰をですか?」
ルーナが首をかしげている。そういえばちゃんと説明してなかったことを思い出したポチはチラリと店内を確認した後、今店の前にいる客を中へ誘導すると、ルーナと男性を連れて玄関のほうから家へ戻った。
「ルーナこちらの男性…えーと…」
「…ヨーデラ・レイラントと申します。」
「はい。」
「ヨーデラさんのお孫さんが破壊的な料理を作るそうで…それをどうにかしてあげたいんだ。」
「はあ…問題ないですが、私はここから出れませんよ?」
「うん、だからたまにお孫さんを連れてきてもらって、そのときに教えてあげて欲しいんだ。」
「ご褒美。」
「ん?」
「主様からご褒美はもらえますか?」
「……考えておくよ。いいそうですよヨーデラさん。」
不思議そうにポチとルーナのやり取りを見ていたヨーデラさんは声を掛けられ軽く驚いた。
「おぉ…お願いできますか。よろしくお願いします。」
頭を下げお礼を言うと、それでもまだ薬はいるのでと店に痛み止めを買いに戻っていった。ポチも店に戻り、客の流れを見つつ様子をうかがうことにした。
朝の忙しさはあっという間に消え去り、今はぱらぱらと客が来るくらいになっていた。
「やっと落ち着いたねー」
「朝は狩りに出かける前の冒険者が来るから、やっぱすごいねー。」
早く販売従業員を増やさなくては大変そうだ。せめて朝と夕方だけでも…
多分今日の薬を試した客が早くて今日の夕方、遅くて休み明けに多めに来ることが予想される。せめて夕方は採取から早めに帰ってこよう。
ひと段落したので採取組みは採取へ向かうことにした。今日はエレノアも採取に参加をさせたので店に残っているのはソーマとシルメリアの2人とルーナだ。どうしても手が足りなかったらルーナが手伝ってくれるだろう。
3人にはダンジョンに入ってもらい、ポチは再びノームとオリオニスの森だ。ここで薬の効果を試しながら迷いの森を目指すつもりだ。
まずは『雲集薬』からだ。
・雲集薬…効果:半日ほど飲んだ人の傍にモンスターが寄ってくる。
森についてすぐに飲んでみた。ステータスに状態という項目が増え、『状態:魔物寄せ』と出ていた。
距離がどこまで効果を発揮しているのかわからないが、飲んですぐ前方からラビッチュとウルフォルスが走ってきた。ラビッチュが2、ウルフォルスが5…ぼちぼち数がいる。
まあ火炎瓶で倒すから弱いのならまとめて終わるね。
火炎瓶を取り出し投げつけるとよってきたモンスターは全部倒せた。ただ問題が1つ…この2匹はドロップが少なく、肉が食べられるのに火炎瓶で倒したことだ。肉は程よく生焼けになっている。
「生焼けだと、扱いに困るね…」
「生かしっかり焼けたもののほうがいいだろうね。」
「やっぱり?」
面倒だけど出来るだけナイフで戦うことにする。『練成』で檻を作りながらなら一度に戦う必要がなくなるから、このくらいのモンスターならポチでも1人で狩れる。
「なんか次々くるね…この薬使うと周辺のモンスターがいなくなるまできそうだ…」
しばらく向かってくるモンスターを相手にしていると、それがピタリとやんだ。どうやら効果範囲にいるモンスターがすべて倒されたようだ。目の前には肉の山が出来ている。
「しばらく肉パーティかな…」
「食事が助かっていいのでは?」
まあそうなんだけど…あーしまっておいてヨーデラさんのお孫さんの練習にも使ってもらおうかな。
移動する前にそのまま『不可視薬』を飲んでみる。
・不可視薬…効果:半日ほど自分よりレベルの低いモンスターから見つからなくなる。
ステータスを確認すると状態の項目が消えていた。どうやら『雲集薬』の効果を打ち消したらしい。その上からさらに『不可視薬』を飲むと、ステータスには『状態:低級魔物から不可視』となっていた。これを確認するためにはモンスターを探して近づいてみるしかない。
「ところでノーム、今日はエルフの里はどこにあるのかな?」
「そうだな……北東にあるな。昨日より少しだけ奥だ。」
「北東ね。」
進路を北東に向け歩き出す。少し進むとウルフォルスがうろついている。近寄って正面に座り込んでみても向かってくる様子はない。
うーん…見えていないのか敵とみなしていないのかどっちだ??
ためしに正面から頭を撫でてみる。すると驚いた様子であわてて数歩さがった。その直後またポチを見失ったのか周りをキョロキョロと見回している。
どうやら触れると気がつかれるみたいだけど、そうじゃなければ見つからないみたいだな。
確認を終えるとそのまま北東へ向かった。肉はもういらないので今日はウルフォルスはもういらないのだ。
そのまま北東に向かうが中々霧が出てこない。
「ノームまだかかりそうかな?」
「もう少し先だな。」
「ふむ…」
少し失敗したかもしれない。先ほどから見慣れないモンスターがうろついている。レベルはどうやらまだポチが上らしく襲ってはこないが、戦える相手かどうか判断が出来ない。
まあ触らぬ神にはなんとやらってね…
それらを無視して進んでいるとやっと霧が出始めた。早速フヌウ草とグルルム草を見つけ採取を始める。でもやはり数は取れなくプルポム草と精霊専用の草が多かった。それでも根気よく草を集めていると、再び目の前にはエルフの里の門が口を開いていた。
「あー…いいんだけどね?」
「※※※※っ!」
早速ユミリアに見つかった。あわててストレージからペンダントを取り出し首に掛ける。
「連続で来れるとかすごいわね…」
「まあ一応方角だけわかるのでそれで…」
「あらそれはすごい!」
ユミリアに案内され今日も長老の下へ顔をだす。昨日は自己紹介だけで帰ったので、今日はもう少し別の話をすることに決めた。
「今日も来てしまいました。ポチです。」
「ポチ…昨日見た人間と同じ名前だね。」
「長老様昨日と同じ人間ですよ。」
「おやそうなのかい。めずらしいね~…」
少しのんびりと長老は言葉を話す。彼女は長い時間生きて急ぐのがきっと馬鹿らしくなったのだろう。言葉だけじゃなく動作も隣のユミリアとくらべるとゆっくりだ。見た目は20台くらいなので少しもったいないきもする。
「せっかくかわいいのに…」
「……」
「…かわ…っ……え?」
…ん?なんか様子がおかしいぞ。
「今…なんと…?」
「…え…あれ?もしかして声に出てました??」
うわーこれは恥ずかしいっ
ポチは顔が熱くなるのを感じた。どうしていいかわからずおろおろとしてしまう。その様子を見ていた長老は少し頬を染めながらなにやらぶつぶつとつぶやいている。
「ポチ…ごめん今日は帰って。会話にならなそうだし。」
「え、うん。ごめん…」
今日は店の話をしようと思っていたポチは少し残念に思いながらその場を立ち去ろうとした。「私が…かわいい…うそみたい。」という声が背後から聞こえ少しだけ後ろを振り向くと、顔を赤く染めた長老と目が合ってしまった。どちらからともなくお互い目をそらすとポチは一目散にその場から走って門をくぐった。
「…息が荒いようだが?」
「あ…うん。ちょと走って…」
「ふむ?」
ノームが不思議そうにこっちを見てるけど、走った理由は聞いてこなかったから少しほっとした。
気持ちを落ち着けもう少しだけ採取をすると町へ戻っていった。予想が的中し、夕方朝ほどではないが昨日よりも人で賑わっている店が目に入る。あわてて従業員用の入り口から中に入ると、みんな忙しそうに動きまわっていた。
「ポチ店長~!ステータス増加剤Sとステータス増加剤S+の売れ方がまずいです~」
「え、S+も売れてるの?」
「そうなんですっ」
在庫が切れるような売れ方はしてないと思うけど…これは休日に少し多めにプルポム草を増やさないとだめかもしれないな…
店内を眺めながらポチは軽くため息をついた。
今日の売り上げは3日目にして金貨50枚を超え、みんな驚いていた。
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