第19話 開店初日

「ねえ、シルメリア…気のせいじゃなければさっき尻尾がなかったきがするんだが…」

「はい…」

「説明してもらえるとうれしいんだけど…」


 目線をそらしつつもシルメリアはゆっくりと口を開いた。


「耳も尻尾もただの飾りで…私は人間族なんです。」

「でも動いてたよね?」

「はい、えっと第2職業が錬金術師でして、『操作』で動かしています。」

「なんのために?」

「それは…」


 どうやら細かい理由は言いたくなさそうだ。見た目を変えているくらいだから家出とかだろうか?


「まあ何かしら理由があって変装しているってことだよね。」

「はい…」


 うーん…どうしようかな。

 腕を組みポチは少し考えて見る。もし本当に家出だとしたら、匿っていることになってしまうのではないだろうか。もしかしたらどこかから逃げてきて隠れるために…もありえるだろう。この2つ以外の場合は何があるだろうか。


「シルメリア、まずこれだけは答えて。家出、もしくはどこから逃げてきているための変装なのかい?」

「…!あう…両方…です!」


 両方か~つまり家から逃げてきているということだよね。

 目をぎゅっと閉じシルメリアは申し訳なさそうにしている。


「家は今は聞かないから、そうだな…数日置きにでも店を休みにするから、そのときにでも一度家に帰ること。それは出来るかい?」

「帰ってしまったら、戻れないかもしれないです!」


 え~どんな事情をもった家なんだ…


「それが出来ないならここから…」

「あのっその日一緒にきてもらえないですか?そしたら家もポチ店長も両方に理解して貰えると思うんです!」

「……そのときには全部教えてもらえるんだな?」

「はい、もちろんです!ですのでせめてそれまでは…」

「じゃあそうしようか、で…最初の休みは開店して4日目。早めにしようかね。」

「うえぇぇ~…はい~」


 あまりにも早い休日にシルメリアはうなだれている。丁度いいのでポチは明日朝みんなが集まるときに、もう少し休みのことについて話をしてみようと思った。




▽▽▽▽▽




 朝、食堂にみんなが集まり食事をしている。最近は毎日このときに今日の予定を話しているのだ。


「今日の予定を話すね。まず、店を今日開店します!それで3日間おまけをつけるのですが、この期間がお終わったら1日休みを挟みたいとおもいます。ですので、3日目の時にお客さんに次の日が休みだと伝えてください。」


 みんなの顔を見て理解できたかどうか確認をする。1人眠そうに余所見をしていた。


「エルザ、君も関係ないわけじゃないよ?今から説明するけど、初日、つまり今日だね。今日だけはみんな店に出るよ。それほど手がいらなさそうだったら採取組みは確認後採取へ。」

「ん、わかった。」

「で、店の人だとわかるようにみんな共通の服か何かを身に付けたいんだが、何か意見はないかな?」


 それぞれがお互いの顔を見てなにやら話し込みだした。聞こえてくる声を拾ってみると、髪飾りや首や腕につけるものという感じのようだ。


「男性でも女性でも付けられるものがいい。特に意見がなければ、俺の案だけどこんなのはどうだろうか。」


 ストレージを開きヌイグルミを1つ取り出し『練成』で形を変える。出来上がったものは胸から膝上位まであるエプロンだ。本当は薬屋だから白衣とかもよかったのだが、ポチが正確なデザインを思い出せなかったため、断念した。


「それは何かな?」

「エプロンといって、こう使うんだよ。」


 ポチは自分でエプロンをつけて見せてあげた。今つけているのは水色のエプロンだ。


「なるほど…前面からならすぐ店の人だとわかりそうですね!」

「うん、それで色なんだけど何色がいいかな?」

「もうその色でいいと思いますけど?」

「おけーぃ」


 特に反対意見もなく色の希望も出なかったためそのまま水色のエプロンに決定した。人数分ポチが作り終えると、みんなそれぞれエプロンを付け始めた。


「最終確認。店のことはとりあえずソーマさんとシルメリアに聞いてね。俺はちょっと冒険者ギルドに行ってお金崩してくるから。戻り次第店を開けよう。」


 本日の予定の連絡と食事を終えたみんなはそれぞれ行動を始めた。ポチはまず冒険者ギルドへと足を運ぶのだ。


「こんにちはー買取お願いします。」

「はい、少しお待ちくださいね。」


 ギルド職員の女性はアイテムを1つずつ確認をしている。それぞれ値段が違うのだ、少し面倒そうに見える。


「お待たせしました。全部買い取りでいいのですね?」

「はい、それでいいです。」

「では、こちら全部で金貨8枚と銀貨6枚と銅貨3枚になります。内訳は必要ですか?」

「いえ、それでいいです。で…金貨をばらしてほしいのですが。えーと…銀貨60枚と銅貨200枚?」

「はい、そうしますと…全部で銀貨66枚銅貨203枚でよろしいですか?」

「ありがとう。」


 お礼をいいギルドを後にすると、ポチは急いで店へ戻った。


「ただいまー準備はよさそうかな?」

「あ、ポチさん。おつかれさまでーす。」


 真っ先に出てきたエレノアがポチからお金を受け取るとカウンターの内側へと運んでいった。そのお金を半分にわけさらに銀貨と銅貨にわけ袋に入れてソーマとシルメリアがストレージにしまった。ついでに予備の袋も渡しておく。

 みんながそれぞれ配置についたようだ。カウンターの中にはソーマとシルメリア。そしてその手伝いにエルザ。カウンターの外、棚の両側にアルタとエレノアが待機している。精霊であるスフィアとルーナは状況を見てアルタとエレノアに補充用の薬を運んできてくれるそうだ。


「じゃあ表の札を開店中にしてくるね。」

「「「「「はい!」」」」」


 ポチは店の扉から外へ出ると、『開店中』の札を扉につけた。中に戻るとみんながみんな最初のお客さんが来るのを待ち構えているのがわかる。それもしばらくたつと、誰も来ないことに疑問に思い始めた。そんなころ、


「お…?ポチ開店したのか??」


 真っ先に気がついて足を運んでくれたのはチサトだった。


「来てくれたんだ、ありがとう!」

「ああ、ダンジョン行く前に通るから見たら開いてるみたいだったからさ。」


 あーなるほど。


「来店1人目ですよ!」

「おーそりゃ運がよかったぜっ」

「なかなかお客さんこなくてねー」


《スキル『カイテン』ヲツカッテクダサイ。》


「うわっ…」

「どうしたポチ。」

「いや、なんでもない…」


 久々に声が聞こえてきて驚いた。もしかして周りが色々教えてくれるもんだからこいつ出番がなかっただけなのか?……そうかスキルか、忘れてたよ。

 ポチはあわててスキルを使用した。


「『開店』…と。いや、スキル使ってなかったよ…」

「あーそりゃこねーわ…」


 チサトにあきれられてしまったよ、トホホ…


 スキルを使用したら周知されたのか人がきはじめた。どんな店なのか興味を持ったもの、薬だと理解して選んでいるものなどさまざまだ。


「じゃあ折角だからこの辺で売ってない薬でも買って行くよ。」

「ありがとう!」


 チサトも棚を眺める人たちの中へと混ざっていった。棚の付近に立っているアルタとエレノアはたまにお客さんに色々説明を求められているようだ。事前にソーマとシルメリアに説明を聞いていたおかげか何とか対応できているようだ。しばらくそんな様子を眺めていたら、


「ポチ店長ちょっといいですかー!」


 シルメリアに呼ばれてしまった。


「どうかしたの?」

「こちらのお客さんなんですけど、まとめ買いしたいものがあるそうで。」


 こちらと示されたほうにいるお客を見ると、服装は結構立派なのだがやせ細っていてどこか頼りがなさそうな男性だった。


「お話伺います。ここの店長になりますポチと申します。」


 少しだけ丁寧に対応をする。すると男性は嬉しそうに握手を求めてきた。


「実はですな、私が欲しいのはこの痛み止めなんですよ。」

「痛み止め…ですか?」

「ええ、お恥ずかしながら毎日のように腹痛をおこしていまして、今まで見かけたときには買っていたのですが、やはり数が少なく、対応しきれんのですわ。」


 毎日腹痛?むしろその原因をなくしたほうがいい気がするんだか…


「あの…もしよろしければその腹痛の原因とかわかりませんか?」

「………んです。」


 言いにくそうに男性は小さな声で答えた。


「え、すみませんもう一度伺っても?」

「孫の手料理が原因なんです…」


 あーそれはご愁傷さまです…断れませんですよね折角作ってくれたのだから。


「それで痛み止めをですか…」

「はい、定期的に購入とか出来たら嬉しいのですが…」


 まさかの痛み止め定期購買…!需要があるとは思わなかった…お孫さん早く料理上達するといいね。


 男性は痛み止めを50本ほど買って嬉しそうに帰って行った。いつきてもあるように用意することが決定した瞬間だ。

 

 それからしばらくやってくるお客さんの対応に追われたが、やはり忙しいのは狩りに出る前だったらしくそれからしばらくしたら人の数も減ってきた。この様子だと次に込むのは帰ってきてから明日の準備をする客とかになるだろう。


「そろそろいったん抜けても大丈夫そうだね。アルタとエルザ、あとエレノアは採取に行って欲しいんだが、ルーナ何が減ってるかな?」

「全体的に減ってはいますけど、ポーションや魔力ポーションなど回復に使うものがおもに減っていますね。ステータス増加剤は効果がまだよく知られていないのかあまり減っていません。」

「ということは…ダンジョンの地下1階と地下2階を中心にお願いするね。で、ノーム今日もプルポム草をお願いするね。」

「わかった。」


 それぞれが行動を始めようとそのまま出て行こうとした。


「あ、エプロンは店のなかだけだよ!」


 みんなあわててエプロンをはずしストレージにしまっていた。後でお風呂のときにでも服と一緒に出しておいて貰おう。

 

さて、ポチは昨日ルーナに頼まれた買い物をするべく中央の通りを歩いている。買い物メモにはこう書かれていた。


・香辛料各種

・野菜各種

・食器各種(人数が増えたため)

・調味料各種

・入浴時使用する布(大小各20枚ほど)

・入浴時に必要な消耗品関係


「……こりゃ~女性を1人連れてくるべきだったかな。」

「サラマンダーちゃんならいますけど?」


 今日はついてきてたんだ…


「契約してないけどいいの?」

「話するの位はできるぞ?」

「そうなんだ。」

「ほれ、話してみよ。」


 参考になるかわからないが聞くだけ聞いてみることにした……


「ふむ、つまりいろいろ買いたいということだな。」

「まあそうなんだけど、店もわからないし、どんなものがいいのかも不明なんだよね。」

「お、ほらそこ!調味料を売っておるぞ。」


 まあとりあえず入ってみることにした。店の中は瓶詰めのものがたくさん棚にならんでいる。どうやら試食もさせてくれるらしいので片っ端から味を見る。


 うん、これで使えそうな調味料を探せばいいかな。ただ、この店には香辛料はなかった。


「今度は野菜が売っているようじゃぞ。」

「野菜はどうやって出来ているんだ?」

「普通に畑で作っておるぞ。知らんかったのか?」


 あまりいろんなところに行ってないから畑があること事態知らなかったな…こうやって買い物するといろんなことがわかって案外楽しいものなのかもしれないな。


 ストレージに保管すれば鮮度は保たれるのでいろんな種類の野菜を購入した。このお店の野菜全種だっ……ちょっと買いすぎたかもしれない。


「あとは何がないのだ?」

「そうだな…食器とか、入浴関係かな?」

「どちらも雑貨屋にでも行けばあるんじゃないのか?」

「1つ聞いていいか?」

「いいぞ?」

「精霊なのになんで人の店のことに詳しいんだ?」


 サラマンダーは目をぱちくりとさせている。何でそんなこと聞くんだろうと疑問にでも思ったんだろう。


「なんでって…暇でうろついたから?」


 どうやらサラマンダーは放浪癖がありそうだ。見ないと思ったらうろうろしていたとは…まあそのおかげで買い物も手早く終わりそうだからいいと言えばいいのだが。


「20レベル。」

「ん?」

「僕のレベルが20になったらサラマンダーとも契約するよ。」


 ちゃんと見張っていないと何をしでかすかわからないからな…早いとこレベルを上げよう。


 サラマンダーは契約と聞いて嬉しそうに飛び跳ねていた。

 まだ後4レベルあるんだけどな~…まあ嬉しそうだからいいか。


 2人(?)で買い物をすませ、一度店へ戻った。そしてやはり野菜は種類が多すぎたらしくルーナが少し困っていた。香辛料は最後まで見つからなかったがまあしかたがないだろう。

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