第18話 開店準備3
エレノアから受け取ったペンダントをストレージにしまうと、ポチは再びオリオニスの森へやってきた。エルフの里へ行くのが目的ではないので、許可は要らなかったかもしれないがこれは念のためだ。いきなり訪れる人間に驚かされるのもどうかと思ったからだ。
「ノーム、どうすればエルフの里(その手前)にいける?」
「少しまってくれ…」
ノームはその場で目を瞑り、何かをしているようだ。しばらくそのままでいた目が突然カッと開かれる。
「タイミングが悪かったようだ。今入り口はこの森の奥のようだが…どうする?」
「入り口は移動するんだね…だからたまに人が入れるのかな。それにしても…」
今エルフの里の入り口はノームが言うには森の奥ということだ。無理して奥に行ってまで今行く必要はないだろう。
「入り口の移動はどんな感じで変化するの?」
「1日おきだな。」
「じゃあまた明日確認に来ればいいか。」
エルフの里へはまたにするとして少しだけ周辺で薬草採取とウルフォルス、ラビッチュを狩り町へと戻ることにした。この肉はルーナにでも調理してもらおう。
家に戻るとシルメリアが戻ってきていた。思ったよりも大荷物を抱えている。
「あ!ごめんなさいっ今片付けま…わきゃっ」
自分の荷物につまずき荷物に埋もれ、そこからシルメリアのお尻が覗いている。幸いなことに膝より上の長けのズボンをはいていたので安心だ。
「ストレージに入らないのかな?」
「ごめんなさいっ大きなものは詰めたのですけど、はいりきらなくて…」
散乱している荷物を片っ端からポチは自分のストレージに放り込む。シルメリアに手を貸し起こすとそろって部屋へと向かった。
「とりあえずさっき拾った荷物部屋の隅に出しておくから、もし出し忘れがあったら後で言ってね。」
「助かりましたー!あ、そうだ早速お風呂使わせてもらいたいのですが、いいでしょうか?」
「もちろんどうぞ。」
「ありがとうございます!あ、あと洗濯とかどうしてますか…?」
「洗濯…?」
そういえば気にしたことがなかったな…そもそも服買ってないしな。
「気にしたことなかったんだけど…ここに来てからはお風呂入ってる間に綺麗になってたから…」
「そうなのですか?」
「ルーナ?」
「はい、なんでしょう?」
「うひゃあっ」
天井から逆さまに頭を出しルーナが下へ降りてきた。その様子を初めて見たシルメリアは驚いて尻餅をついている。
「ごめんね驚いた?精霊はどっからでも出入りするから…」
「だ、大丈夫です!」
「で、ルーナ洗濯ってどうなってるの?」
「はい、私が皆さんの服を魔法でチョチョイッ…とやってますよ?」
「主にお風呂中?」
「ですです。」
最初おとなしそうだったルーナは最近とても元気だ。いろんな人との生活が楽しそうでこっちもうれしくなる。
「始めに言ってくれれば洗いませんけど…?」
「いえいえっぜひ洗濯お願いします!」
ペコリとシルメリアはルーナに頭を下げた。それを見たルーナが少し困った顔をしている。
「あなたもここの住人の1人です。気にしないでくださいね?」
「ありがとう!」
「1つだけ…主様の嫌がることだけはしないでくださいね。強制排除しますので。」
笑顔でルーナがそんなことを言うのでシルメリアどころかポチまで身震いをした。
シルメリアと別れ、ポチは一度店のほうへ顔をだす。ソーマさんがそこで作業をしていたからだ。
「おや、ポチ君おかえり。」
「どんな感じですか?」
「今棚を設置してもらっているところだよ。あと、これが木箱ね。」
現在設置途中の棚を確認する。サイズは問題なさそうだ。次に買い物かご代わりの木箱を眺める。普通の何の変哲もない木箱だ。これは少しさびしいかもしれない。
なんかロゴとかいれて…あと形を底が少し小さくなるように…もち手となる穴もあけようかな。
『練成』で形を少し変更し、重ねて置けるようにした。出来上がったものをソーマさんに見せるとそのアイデアを褒められた。
「これはいいですね…じゃああとは看板とかもいるんじゃないですか?」
「看板か…忘れてたね。この木箱を1つ看板にするかな。」
木箱を1つ手に取り『練成』で1枚の板に変える。そこに『ポチの薬屋さん』と文字を入れた。
「ルーナ、これを建物の入り口につけたい。」
「あ、はいやっておきます。場所はどこでもいいですか?」
「うん、店の入り口のあたりならあとはルーナのセンスに任せるよ。」
看板はルーナに任せてポチは残りの木箱を『練成』した。棚の設置と木箱それに看板と用意が出来たので、倉庫にある薬を棚に並べる作業を始める。お風呂を終えたシルメリアも参加してくれたので並べるのもすぐ終わり、折角だからと少し販売の練習をすることにした。
「じゃあ僕が客をやるから2人はカウンターで対応してね。あ、ルーナにも参加してもらおうか。」
「わかりました。」
ポチとルーナは一度外へ出ると客として店の入り口から中へ入る。
「「いらっしゃいませーっ」」
出だしは問題なし。ポチとルーナはそれぞれ別々の棚を眺める。瓶を手にとって見たり戻したりしつつ首を傾げる。
「あの~…この薬なんですかね?」
「あ、そちらは毒消し薬です。毒状態になったときに飲みますと直ります。」
「ほーまあ薬全部説明欲しいですけどね。」
なるほどルーナは鑑定が使えないからわからないのか。値札だけじゃなく説明もつけたほうがよさそうだ。
「お金はここで払えばいいですか?」
ポチは薬を数本持ってシルメリアのいるところへいった。
「はい、確認しますね。」
シルメリアに言われた金額より少し多めにだし、お釣りをもらおうとした。
「あ、お釣り用意してないね…じゃあまあお釣りを受け取ったと仮定してすすめるね。」
「はい。ありがとうございましたー」
ポチはアイテムを受け取るとストレージに入れ店から外へと出る。流れは以上だ。再び店の中へ戻ると、
「納得いかないです。効果の確認に味見させてくださいっ」
「流石に薬の味見は…」
「ん?何してるのルーナ?」
「面倒な客をやっています。」
なるほど…でも味見か。一通り流れを確認したので改善点も確認を始める。
「なんか意見ありますか?とりあえず値札に説明の追加はするけど。」
「あのっさっきルーナさんがやった迷惑な客の対応はどうすればいいですか?」
「丁寧に対応するだけでいいよ。あまり酷いようなら…」
「私が追い出しますー」
「だそうだから。」
「強制排除です。3度目には出禁です。入店禁止登録しちゃいます~」
精霊が管理する店ならではのシステムだ。これでかなり安全だろう。
「ただ…外で騒がれたりとかの対応は厳しいです。」
「なるほど…その辺はまた考えようか。それとさっきたまたまやってたルーナの味見ってやつ。あれ、むしろやりましょうか?」
「味見…ですか?ポチくんどういうことだね。」
「開店3日間だけ。おまけに1本つけましょう。」
「なるほど、では何をつけましょう?」
3人で話し合った結果、どうせならこの町で見ない薬からということで、1日目『魔力ポーション』2日目『体活剤』3日目『ステータス増加剤S』を1本おまけにつけることにした。
「プルポム草がたくさんいりそうだね。ノーム、今から採取頼めるかな。」
「どのくらいいる?いつもどおりか?」
「いつもどおりでいいよ。」
「おまけの数は決めたほうがいいんじゃないですか?先着何名までとか…」
「あーどうなんでしょうソーマさん?」
「他の日の予告のチラシも貼り出して、数書いておいたほうがいいかもですね。」
壁に貼りだすチラシの話をしているとダンジョンに行っていた3人が戻ってきた。
「あ、ルーナ森で少し肉を取ってきたんだけど渡しておくね。」
「肉ですか…他の食材も少ないので明日買い足しをお願いします。」
「わかった。メモしておいて。」
思い出したかのようにラビッチュとウルフォルスの肉をルーナに渡すと、買い物を頼まれた。ポチなしで出歩けないのだからしかたがない。
「「「ただいまー」」」
「おかえりー」
「あれ…1人増えてる。」
「あ、シルメリアといいますっ販売やらせていただきます。よろしくです!」
顔を上げるとシルメリアはみんなのほうを向いて挨拶をした。それぞれ自己紹介を始めそうだったので一度静止し、3人はお風呂へ、ルーナは食事の銃準備に、シルメリアとソーマはこの場でポスターの作成にはいってもらい、食事のときにでも一度自己紹介でもしてもらおうと決めた。
ポチは1人一度倉庫にいき、今日の採取状況を見にきた。
「特に問題なさそうかな…」
『調合』は後でやることにし、次はルーナの様子を見に行く。スフィアもいつの間にかきていて手伝っていた。
「スフィア、宿の状態はどう?」
「ゆっくり、修復中。私が1人で直すと30日くらいかかりそう…」
「後で人の手を入れるから、直せるところから順番にお願いね。」
「はい。」
調理場を後にし、食事の時間まで一度荷物整理をすることにした。
ストレージを開き中を確認する。スキル『ストレージ増加2』により収納できるアイテムの数が見た感じ倍くらいになっている。
「300は超えてそうなんだよな…」
まあこれだけあれば巾着袋でさらに持てるのだから荷物整理もろくにされなくなっていた。隅のほうに放置されているアイテムがいくつかあるのだ。
「なんか面倒だな…とくにいるものとかなかった気もするしまとめて処分するか?」
武器に付与するものとか別にいらないものだ。ポチは基本倒せるレベルのものだけナイフで処理していた。それで火炎瓶の材料を集めさえすれば問題がない。後はすべて瓶をなげるだけのお仕事だ。新しい調合薬に『爆弾S』というのがあり、グルルム草が入手できるようになればまた変わってくるだろう。
「……ん?」
ストレージの中に見慣れない布着れを見つけた。きっとシルメリアの荷物を運んだときに出し忘れたものだろう。
「後で返しておくか。」
完成したチラシも確認をした。必要なことが書かれていて問題はなさそうだ。それが終わりみんなそろうと食事を済ませ、また各自自由に動き回る。ポチは倉庫に行き、今日採取できた分の薬草を『調合』する。使わないアイテムも色々置かれているのが少し邪魔になり始めて。それはまとめてポチのストレージにしまう。後でギルドにでも売って店の資金にするためだ。
「そうだ、明日これ売ってお金を細かくしてこよう。」
『調合』を終えたポチは今日も最後にお風呂へと向かった。
「初日だけだったよなー1番風呂。まあしかたないか…」
無造作に服を脱ぎ捨て一応すみには寄せておく。ルーナの乱入警戒のためちゃんと腰にタオルは巻いてから風呂場へと向かった。
薄っすらと湯気で曇る浴場でかけ湯をするために湯船に近づくと、水音がした。
「…え?」
「あ…」
昼間お風呂を使用していたシルメリアが再びお風呂に入っていたようだ。
「わっごめん。もう誰も入っていないかと思ってっ」
「いいいいえぇぇ~~すみませんまた入ってしまって!」
あわてて後ろを向き見てないようアピールをする。
「あのっ私もう出ますからポチ店長はごゆっくりと!」
「わ、わかった。じゃあ目閉じてるから安心して?」
目を閉じると湯船から水の激しい音がした。シルメリアが湯船からでたとこだろう。水音のする足音が扉のほうへと向かっていく。
「わきゃっ」
ビターーーーンッ
「え…ちょっと大丈夫!?」
「ふえぇぇ…かなり痛かったです…」
シルメリアが心配になりつい目を開けてしまった。
「あ…」
「あ…っ」
体を起こし裸で床に座り込んでいるシルメリアが目に入る。見てはいけないのに目が離せなくなってしまった。
妖精の体はやはり見せかけの形だけで本物は違うんだな…
「わひゃ~~っ」
シルメリアは体を隠すようにあわてて扉の外へと走っていった。そこへ丁度入れ替わりにルーナが入ってきた。
「…先をこされたです。」
入れ替わりに入ってきたルーナをまじまじとみてしまう。
「まあ…主様に見つめられてしまいました…」
「いや、違うから…」
その後スフィアもやってきてもみくちゃにされたのは言うまでもない。
2人から開放され一度落ち着くために自分の部屋へと戻る。先ほど見てしまったシルメリアのことが頭から離れない。出るところは出てへこむところはへこんだかなりいいスタイルをしていた。
髪の隙間から覗くうなじから背中、お尻に向けてのラインとか…あれ?なんかおかしくないか。
コンコン。
「はい。…どうぞ?」
ポチの部屋の外から扉をノックする音が聞こえた。少しだけ深呼吸をしてから入るようにすすめた。
いったんシルメリアのことは忘れよう。
「あの…今いいですか?」
「シッ…」
扉を開けて入ってきたのはシルメリアだった。中に入りきるとき大きな尻尾をはさまないよう気をつけている。
ちょっとこのタイミングでシルメリアとかっ
顔を赤くして半分うつむき加減でシルメリアが目の前に立っている。
「あの…見ましたよね?」
「ご、ごめん心配になってつい目を開けてしまって…」
「はい…で、見ましたよね?」
下から少し目線を上げる感じで顔を赤らめたままこちらを見ている。たまに動く大きな尻尾が視界に入った。
「あ…尻尾…」
風呂場で転んだシルメリアの背中のラインを思い出すと、尻尾がまったく見えていなかったのだ。
「あれ、どうして??」
シルメリアはやっぱりという顔で視線を足元へと向けた。
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