第10話 森の熊さん
6匹のウルフォルスはその囲んでいる輪をじりじりと縮めている。
「ポチさんは木登り出来る…?」
「たぶん…出来ないけど。」
「むむむむむ…」
どう考えても一度に倒すことは無理だろう。足止めして少しずつ倒すしかない。
「スフィア1匹抱えて、エレノアその隣のを1匹倒したら木まで走り抜けれる?」
さきほどエレノアが登っていた木がすぐ傍にある。最悪ポーションはたくさんあるのでポチが耐えればエレノアが処理してくれるに違いないと思ったのだ。
「あはは…足が震えてきちゃったりして…」
今にも飛び掛ってきそうなウルフォルスにエレノアがおびえてしまったようだ。
《レンセイノシヨウヲオススメシマス》
練成……形をかえる…もしかすると…
少し行き当たりばったりになってしまうが成功すれば助かる。失敗しても逃げる時間くらいは作れるかもしれない。ポチは両手を地面にそっと置くと『練成』をした。
土が盛り上がり地形が変化していく…見る見るうちにウルフォルス達はそれぞれ土で出来た檻に入る形となった。
「ふぅ…とりあえず成功…」
「な…何これ?」
「土を練成して閉じ込めただけだよ。強度がたぶんないから、さっさと逃げるか倒さないとまずいんだけど…逃げれないか。」
見るとエレノアは今の練成に驚き座り込んでしまっていた。ウルフォルスに近づき1匹ずつしとめていく。最初戸惑っていたウルフォルスも次第に暴れだし、檻にひびが入り始めている。
5匹目を倒したところで最後の檻が壊れてしまった…がひょいっとスフィアがその1匹を抱えあげた。それを横から首にナイフを突き立て、ウルフォルスを全部ストレージにしまう。
「エレノア、とりあえずここから離れよう。」
この場所は血の匂いが充満している。エレノアの手を取り立たせ、あまり奥には向かわず迂回するかのように森の出来るだけ外側を移動した。
「落ち着いた?」
「まあ…」
「じゃあ戻ろうか。」
「…え?」
エレノアが驚くのも当然である。今離れてきた場所に再びポチは行こうと言っているのだ。普通ならありえないことだろう。血の匂いが充満している場所はモンスターを呼びやすい。ある程度狩ったら移動するのが当たり前だ。
「多分モンスターが集まってきてるよね?」
「でしょうね…」
「狩り放題だ!」
「……」
信じられないとエレノアが顔を青くして首を振った。
「私は冒険者ってやつは向いてなさそうだわ…」
ため息を1つ吐くとエレノアはしぶしぶポチの後ろをついて戻っていった。
木の陰から様子を見るとウルフォルスが4匹と熊っぽいのが1匹にらみ合っていた。ポチの身長の倍くらいありそうだ。
「あれはなんだ…?」
「フォースドベア、なんでこんな森の浅いとこに…」
名前:フォースドベア
レベル:21
属性タイプ:土属性、動物
アイテム:ラッキーコイン、フォースとベアのぬいぐるみ、生物『動物2』
どうやらこのフォースドベアはこの辺にいないらしい。理由は考えても分からないのだが気になる話だ。
「あの熊僕達で倒せるかな…」
「たしかDランクの冒険者がパーティ組んで倒せるレベルだったかな…無理ね。」
ふむ…とりあえずこのまま逃げるという選択肢だけはなしだな。背中を向けたとたん襲われるだろう。
《レンセイセイコウリツ50パーセント、ワジュツセイコウリツ50パーセント》
……は?話術??熊と話術でなんとかなるの…??
話術…生物との会話交渉成功確立上昇。
うーん…たしかに生物だけども…50%だもんな…両方あわせたら100%とかにならないのかね~
「エレノア、このまま背中を向けるのは逆に危険だ。」
「う、うん…」
「ちょとスキルを試してみるからもしそれでだめだったら…足止めして逃げよう。」
「初めから足止めして逃げてはだめなの?」
「え…倒せるなら倒したくない?」
ふるふるとエレノアは首を大きく横に振った。
エレノアを隠れていた木に登らせておいてからポチはゆっくりと木の陰から『練成』を使った。まずはウルフォルスの足止めだ。最初と同じように檻に閉じ込める。
「ちょっとそこの熊さんお話しませんか?」
『話術』を使ってからフォースドベアに声をかける。一応こちらの声に反応は示したが言葉が通じているかどうか分からない。そんな様子を眺めていたスフィアは前にでてフォースドベアの頭を撫でようと背伸びをしている。
「そこのウルフォルス足止めしたからこっちは見逃してくれませんかね?」
フォースドベアはスフィアを押しのけこちらへ向かってくる。どうやら自分に話しかけられたという認識しかないようだ。
これはだめだと判断したポチは『練成』で間に壁を作った。出来るだけ厚い壁を3重ほど…
「エレノアそこから弓で攻撃して!」
木の上を見上げ指示をだす。
「うえええ~」
「大丈夫そこからならエレノアに攻撃はいかないよ。」
ちょっと弓がうらやましいとポチは思った。
「数打てば倒せるからよろしく!」
「わ、わかったわよ…っ」
ひたすらエレノアが矢を放つ。今のところフォースドベアは壁の向こうから壁を壊そうとしているようだ。
「あっポチ移動始めた!そっち行っちゃうっ」
フォースドベアは壁がそれほど塞いでいないことに気がつき迂回することを思いついたらしい。
「どっち?」
「右!…いやポチから見たら左?あれ??」
エレノアが混乱していると、時すでに遅くポチのすぐ横手にフォースドベアが右前足を振り上げ立ち上がっていた。
…まじで?これは流石に痛そうだな……
そんなことを考えながらフォースドベアの振り上げる前足をスローモーションのようだと長めている…トンッと体を押されたのはそのすぐ後だった。
「スフィア?」
ポチとフォースドベアの間にスフィアが滑り込んできた。笑顔をポチに向けたと思うとフォースドベアの足が下ろされスフィアが霧のように散って消えてしまった。
その光景にポチもフォースドベアも驚きの顔を上げる。それも一瞬のことでポチはすぐに体勢を整え『練成』をいくつも行い熊の首から下を閉じ込めるかのように土で囲った。背後に回りこみブロック状になった背中を駆け上がり、思いっきりのど元にナイフを何度も何度も突き刺す。何度も何度も何度も…
「ポチさん…フォースドベアもう死んでるよ。」
ウルフォルスの処理を忘れず終わらせてからエレノアは木の上から降りてきた。
「エレノア…スフィア消えちゃった…」
「そうね…」
「そうねってそれだけ…?」
フォースドベアの上から降りたポチは気落ちした様子でエレノアのほうに顔も向けず声だけをだしている。
「うん…今頃帰ってると思うよ?」
「……帰って…え?」
顔をあげてエレノアのほうを見ると何事もなかったような顔をしている。
「……は?」
「だから、魔力を散らされちゃったから家に帰っちゃったよ、と。」
そもそも精霊というのは魔力の枯渇くらいでしかいなくなることがないらしい。それを知ったポチはその場に膝をついて崩れ落ちた。
「お…驚いた~…」
「驚いたのはこっちだよ…ポチさんやる気になるとすごい強いわ…」
お互い顔を合わせ少しだけ笑った。
「さて…このフォースドベアどうしようか…」
「そうね、肉は食べられるし皮は使えるわ。あと足がエルフ専用スキルでだけど材料になるわね。」
「まあ今回はウルフォルスとラビッチュの肉あるしフォースドベアはこのまま売っちゃおうか。」
ウルフォルスとフォースドベアを回収すると、道々スライムや薬草などを採取しながら急いで町へ戻ることにした。早くスフィアのことを確認したいため足取りも速くなる。
町へ戻るとまずは冒険者ギルドに顔をだし数がそろっているウルフォルスの尻尾とスライム玉の買取をしてもらうためにカウンターに顔をだした。
「買取は以上でよろしいですか?」
「あ、あと少しサイズが大きいものがあるんですけど…ここでだしていいんですか?」
「大きいもの…なんでしょうか?」
「フォースドベアです。」
ギルド職員のお姉さんが首をかしげ不思議そうな顔をしている。
「聞き間違いかしら…もう一度聞いていいですか?」
「だから、フォースドベアですって。」
「…いいですか、フォースドベアは森のおくのほうにいるモンスターなんですよ?」
「はあ、そうなんですか?」
「そしてあなたたちはFランクの冒険者です。そんな森の奥まで入っていったんですか?」
このお姉さん少し怒りすぎじゃないか?ほんとのこと言っただけで怒られるなんておかしいだろう。
「森は浅いとこだったんですけど、いたので倒したんですけどだめですかね?」
「そこまで言うならここで出してもらいましょうか。見ればすぐわかるものだし。」
「だしていいのか…」
まあ許可貰ったことだし?ストレージからフォースドベアを引きずり出した。
「よいしょっと…」
「……き、きゃああああーーーー??」
大きな体をしたフォースドベアを見るとギルド職員は悲鳴を上げた。何事かと周りの人もこちらを気にし始めた。体を横に寝かした状態でもカウンターの倍以上のサイズはあるフォースドベアは、今足元に転がっている。
「し、ししししまってくださいっ…」
あわててストレージに押し込めるとギルド職員が深呼吸をしている。
「ほんとにフォースドベア…?」
「そうですけど…」
「す、少しお待ちくださいーっ」
ドタバタと大きな音を立てて奥の扉へとギルド職員は消えてしまった。待たされている間聞こえてきた周りの声はどれも微妙なものばかりで、少し耳を塞ぎたくなる。
「ほんとにあいつらが倒したのか?」
「どこかで拾ってきたんじゃないのか?」
「というかこんなとこででかいもの出すとか馬鹿じゃね?」
最後の声のやつの顔覚えておこう。
しばらく待つと先ほど奥へ消えたギルド職員が戻ってきた。
「おまたせしました。こちらへお願いします。」
先ほど出てきた扉へ案内されさらに奥へ入っていくと。作業をしている人達がいる場所に連れて行かれた。
「ここは…?」
「解体所です。売っていただいた素材を解体、処理をする場所です。大きなものはここで直接回収しています。」
「ほう…こいつがさっき言ってたフォースドベアを狩って来たFランク冒険者か?」
「はい、マスター」
前から歩いてきた少し大柄な男が話しかけてきた。マスターと呼ばれている。名前からして偉い人なんだろう。
「早速フォースドベアを出してもらおうか。」
「ここでだせばいいのか?」
ストレージからフォースドベアを取り出す。何度見ても大きな体だ。ギルドマスターと呼ばれた男がまじまじとフォースドベアを眺めている。
「ふむ、たしかにフォースドベアだな。矢が数本ささって…これは少し浅いな。」
どうやらフォースドベアの狩り方を確認しているようだ。エレノアの矢の刺さりは浅かったらしい。
「この首にある傷が致命傷になっているようだな。」
チラリとこちらを眺め武器に視線を送る。エレノアが背中に弓を背負い、ポチは短剣を帯刀している。
「短剣と弓でしとめたのか…ありえないな。まあ今はそれはいいか。で…本題なんだが。どこでフォースドベアを見たって?」
「えーと森に入って割りとすぐだよなエレノア。」
「あ、はいそうです。まだFランクなので奥には進んでいません。」
エレノアはそこまでの経緯をかいつまんで説明をした。ラビッチュの血につられてウルフォレスが6匹、それを処理した後その場を一度去り、再びその場所へ行くとフォースドベアがいたといった感じに。
「で、2人で倒したと。」
「あー2人というかほとんどポチが1人で倒しました…私役に立たなくて。」
「ふむ…そんな浅いとこでこいつがいるとは…」
「マスターこれは…」
「うむ、そうだな。一度調査を入れる必要がありそうだな。」
そういうと2人は調査のための書類作りの話を始めこちらのことを忘れてしまっているようだ。早く宿に戻りたいのだけど中々おわらずポチは少しイラついていた。
「エレノアもう帰ろうか…」
「え、まだ討伐報酬貰ってないよ?」
「なんかもうめんどい。」
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