第9話 オリオニスの森

 窓から入る朝の日差しに目を細め、目を覚ましたポチは魔力の回復を確認する。ステータスプレートを取り出し確認するとほんの少しだけ減っているがほぼ全快であった。少し減っているというのはたぶんスフィアが活動中なのだからだろう。


 布団から出ると身支度を整え1階へと降りていく。


「おはようございますー」


 厨房のほうへ声をかけ席に着く。すでに厨房ではスフィアとソーマさんが仕事をしていた。


「あれ、エレノアはいないの?」

「あー私が動けるようになったとたん起きてこなくてね。もうしばらく寝てると思うよ。」

「あーなるほど…」

「で、どうだね魔力のほうは?」


 一晩たったのでスフィアとの契約で消費されている魔力の状態を気にしているのだろう。


「はい、問題ないです。今スフィアが活動中でその分が消費されてるくらいですね~」

「それはよかった…」

「なので今後どうするかまだ決めてないんですけど、まだしばらく預かっておきますね。」

「助かります…」


 そんな会話をしているとスフィアが今日の食事をテーブルに並べ始めた。昨日の残り物のキノコ料理が多く、あとはソーマさんが作ったと思われる品が並ぶ。


「……料理のレパートリーも増やしたほうがいいですかね?」

「ポチ君は料理詳しいので?」

「それほど詳しくはないのですが、他の国の料理が教えられます。」

「いいですね…是非お願いします。」


 ふむ…料理を教えるのはいいが、そもそも食材はどうすればいいだろう。現在しっているのはキノコのみ。店とかで買えばいいのかな…?


「ソーマさん食材ってどこで仕入れてますか?」

「食材ですか…お店で買いますが、この辺で採取出来る物はエレノアが狩りに出てますね。」

「狩り…森とかですかね?」

「ええ、腐ってもエルフですから。弓の扱いは得意なので。」


 今日はエレノアたたき起こして一緒に狩りへいったほうがよさそうだ。





▽▽▽▽▽





 食事を終え、エレノアを無理やり起こすと3人はひとまず冒険者ギルドへやってきた。スフィアももちろんついてきている。今日は東にあるオリオニスの森で食材集めもしつつ何か依頼を受けるつもりだ。


「眠い…」


 ふらふらとしながらポチとスフィアの後ろをエレノアが歩く。


「エレノアは冒険者ギルド登録してあるのかな?」

「ん~、一応ね~報告するものがないからFのままだけど…」

「じゃあ僕と同じだね~」


 あ、そうだスフィアどうしようか…ダンジョンは何とかなったけど、ギルドは登録できるのかな?別に登録しなくてもいいかな…でも門の出入りが困るかも。


「ねえエレノア。スフィアは門の出入りどうすればいい?」

「あーそうね…外へ出したことなかったから忘れてたわ。一度ギルドに相談してみようか。」


 3人はまず冒険者ギルドへいくとまっすぐ受付へ向かった。エレノアが門を出入りするためにカードを作れないかの相談をするためだ。ステータスボードが作れれば一番いいのだろうけど、流石にそれは出来ないだろうと判断された。


「今日はどういったご用件ですか?」


 ギルド職員のお姉さんがカウンターに来たポチ達に声をかける。ポチとエレノアは顔を見合わせどう言おうか迷った。


「えーと…ギルドカードを作りたいのだけど…人間じゃなくても作れますか?」

「人間じゃない…?別種族ということかしら。」

「いえ…えーと……精霊なんですけど…」


 迷った末そのままストレートにたずねる事にした。


「精霊…ちょっと待ってね。そもそも精霊がギルドカード何に使うのかしら?」

「え、何か身分証明書的なものがないと門の出入りが困るんじゃないですか…」

「………」


 お姉さんは腕を組んで少し唸っている。何かを思い出そうとしてるかのようだ。


「あー…あれよあれ…えーと、たしか精霊って姿かえれるわよね?」

「え…そうなのスフィア??」


 聞かれたスフィアは首をかしげている。


「はい、出来ますね…」

「うええええぇ??初めて聞いたよスフィア~~!」


 エレノアがかなり驚いて叫んだ。もちろんポチも驚いている。


「聞かれません、でしたので…」


 うん、確かに一度も聞いてないや。


 ギルド職員のお姉さんにお礼をいって依頼ボードを眺める。オリオニスの森で受けられる内容の依頼を探すのだ。


「採取場所…討伐場所…」

「この辺がオリオニスの依頼みたいね。」

「ほんとだ。」


 エレノアが指を差した場所を見ると、オリオニスのFランク用の依頼がまとめて貼られていた。


「ベルペル草、ギルギル草…プルポム草。これが採取だね。討伐のほうは…スライム、キノコノコ…ラビッチュ?ウルフォルス?」


 プルポム草、ラビッチュ、ウルフォルスこの3つは初めて聞く名前だな~でもプルポム草はあれだ。次レベル上がったら使えるようになる調合の材料の1つだったはず。


「討伐は面倒よね~討伐証明を持ち帰らないといけないから、ストレージがふさがってしまう。」

「討伐証明?」


 依頼書を見ると確かに書いてあった。スライムは魔法生物で消えてしまうのでドロップアイテムのスライム玉。キノコノコもそのままキノコだ。これは食べるつもりがなければ売ればいいだろう。で…ラビッチュは右前足。ウルフォルスは尻尾と書かれている。


「まあでもラビッチュもウルフォルスも肉が食べられるからついでよね。」

「あーじゃあこれ受けておく?」

「受けなくていいよ。必要数集まったらギルドにだす。集まらなかったら出さない。下手に依頼受けちゃって失敗すると面倒でしょ?」

「あーなるほど…この手のは受けなくても出せば依頼完了扱いになるのか…」

「うん、低ランクなんだし安全にいこう。」


 再び依頼ボードを眺めるとFランクのものは大体、採取か討伐の簡単なものが多かった。後は掃除とか迷子のペット探しとか配達くらいだ。すべてこの町の中で住むものばかりのようで時間のかかるものはない。

 今日は食材集めのついでに依頼を受けるつもりだったので基本このランクだとオリオニスの依頼になるわけだ。


「さて、確認もしたしそろそろいこうか。」

「あ、うん。」


 いったん冒険者ギルドの外へと出る。


「で…スフィア。姿ってどう変われるの?」

「完全に姿を消すか、サイズを変える。」

「見えなくなると不安だな…じゃあ手のひらサイズくらいになれる?」

「出来る。」


 一瞬だけスフィアの体が光った後目の前から消えた。


「…あれ?スフィアどこ??」

「ここです…」


 足元のほうから声がした。小さくて今にも踏んでしまいそうなサイズになっている。


「わ…踏みそうだからいったんこっちへ。」


 手を伸ばし手のひらに乗ってもらった。


「うわ~スフィア小さいねーっ」

「ほんとにサイズ変えられるんだ…」

「肩にでも、座ってる。」

「あ、うん。」


 手を肩のほうに移動させスフィアを下ろした。


「じゃあいこうか。」


 3人は門から出てオリオニスの森へ足を向けた。もちろん門をくぐるときには、肩に乗っているスフィアを不思議そうに見られていたのだがまあ気にしない。


 ここから目的地までは徒歩で1時間ほどかかる。道中もスフィアは肩に乗ったままだ。どうやらサイズが小さいほうが魔力の消費量が少ないらしく、このサイズだと回復量に押されて魔力量が減ることもない。何もしていないときは常にこのサイズでいてもらうのがいいだろう。


 1時間ほど歩いただろうか、森の入り口だと思われる場所に着いた。目の前には見上げると首が痛くなるほどの大きな木々が立ち並んでいる。


「ここからは足場も視界も悪いから慎重にいこうね。」

「エレノアはどうやって普段狩ってるの?」

「私?そうね木に登って上から弓で狩ってるわ。森の浅いとこにいるやつらなら木に登ってくるのもいないし、安全よ。」


 うん、弓だから出来ることだった。短剣しか使っていない僕には出来ないな。


「ほら、そこの木の根元キノコがあるわ。後そっちの葉っぱはハーブね。」


 よく見るといろんなものが生えていたり落ちていたりする。ハーブが2種類、キノコ、木の実がごろごろとこちらは鑑定したところ3種類くらいだろうか。


「ハーブは料理にも使えるし、薬にもなるわ。」

「薬になるんだ…」


 錬金術で作れるものの中にハーブを使ったものは見かけなかった気がする。ポチはそんなことを考えながらハーブを見つめる。


「でも、エルフの種族固定スキルじゃないと作れないんだけど。」

「ああ、そうなんだ。」


 そりゃ分かるはずがない。


「あ、ちょっと止まって。」

「ん?」


 指を立てエレノアは口に当てた。どうやら静かにということらしい。目線の先を追うとなにやら生き物がいる。長い耳と長い尻尾をもった白いもこもこだ。


「あれは?」

「あれがラビッチュよ。」



   名前:ラビッチュ

  レベル:4

属性タイプ:水属性、動物

 アイテム:ラッキーコイン、ラビッチュのぬいぐるみ、属性『水1』




「ドロップアイテムの種類が少ないんだね。」

「うん、そもそも肉は食べられるし皮は加工して使えるから。」


 ラビッチュは周りを警戒しつつ草を食べている。


「あいつは耳がいいから近づき過ぎると逃げる。」


 そういうとエレノアは木の上に登り始めた。上から弓で仕留めるようだ。そんなエレノアを見上げていると足元で何かが動く。視線をおろすと無警戒に足元にある草を食べているラビッチュがいた。


「……」


 案外お馬鹿なのかもしれないな…


 そっとしゃがみナイフで首を一刺し。上からは矢を射る音がする。ほぼ同時だった。その矢はラビッチュをかすめ、矢に驚いたラビッチュはあわてて逃げていく。


「ええ~~…」


 エレノアは逃げていくラビッチュとポチの足もとで倒れているラビッチュを交互に眺めた。傍に転がっているラビッチュの断末魔に反応して、弓で狙われたラビッチュのほうが矢に気がついてしまったんだろう。


「うん、まあ今の場合はどちらかしか仕留められなかっただろうから仕方ないか…」


 気持ち落ち込んだエレノアが木から下りてきた。


「何かドロップしたー?」

「んーと…ラッキーコインが1個かな。」

「コインでたんだ。」


「これどう使うの?」



 名前:ラッキーコイン

 効果:運気をあげる。




「それはね手で持ったまま魔力込めれば消費されるやつ。でも、何が起こるかわからないよ?」

「分からないのか…使い方の難しそうなアイテムだね。」

「うん、なんかちょっと運がよくなった気がするだけの人もいれば、いいアイテムが出るようになった人、あとは…なんかそれ使ってから商談したら成功したとかも聞いたかな?」


 ラッキーコインをまじまじと見つめる。つまりどんな効果が出るか分からないけど、今使っても意味はないかもしれないってことかな…

 ポチはおとなしくストレージにしまいラビッチュもそのまましまおうとしたら、一応右前足だけ切り落として別に収納したほうがいいらしく、エレノアに言われたようにしまっておく。


「グウウウゥゥ~~」

「ん、何エレノア?」

「え?」

「今何か言わなかった?」

「ウウゥ~~」

「私じゃないわね。」


 血の匂いに別の生き物が釣られたようだ。犬のような狼のような形をした小型な生き物がこちらに向かって唸っている。


「ウルフォルスね…」



   名前:ウルフォルス

  レベル:6

属性タイプ:闇属性、動物

 アイテム:アンラッキーコイン、ウルフォルスのぬいぐるみ、属性『闇1』



 ウルフォルスはじりじりと近づいてきている。どうやら狙いはポチのようだ。先ほどラビッチュをしとめた血のついたナイフを持っているからだろう。それをみたエレノアは木に登り安全を確保しつつ弓で狙いを定めた。


「…俺は囮か!」


 エレノアの行動に気がついたポチは盾を構える。一瞬動きを止めると勢いよくポチにウルフォルスが飛び掛った。勢いがいいせいかポチは盾で防ぐことはできたが耐え切れず後ずさりをする。


「っとと…」


 数歩下がると再びウルフォルスが飛び掛…ったのだが元のサイズに戻ったスフィアが間に立ちふさがりキャッチする。やはりこのモンスターもスフィアには攻撃しないようだ。突然現れてむしろ困惑している。チャンスとばかりにエレノアが矢を放つ。どうやら胸のあたりに刺さったようでそのままウルフォルスは動かなくなった。


「ナイススフィア!」


 木から飛び降りたエレノアがすぐに尻尾を切り落とした。討伐証明である。


「ドロップは…無しかな。」

「ウルフォルスも肉と皮かな?」

「この子は肉だけかな~」

「グウウゥ…」

「やだ、お腹すいたの??」

「?」

「グルルゥ~…」


 血の匂いにつられてやってきたのは1匹だけじゃなかったようだ。先にやってきた1匹に気をとられている間に6匹くらいのウルフォレスに囲まれている。


「この数は…スフィアじゃ抑えられないよね…」


 2人は青ざめつつじりじりと身を寄せていく…そんな中スフィアだけはぼんやりと様子を眺めていた。

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