第7話 契約

『錬成』


 3階の部屋に戻るとヌイグルミの錬成を始める。先程作った帽子と鞄はそのままエレノアにあげてきた。


 さて…バンドルするためにどんな入れ物を作るかが問題だな……無難なのは巾着のようなものだろうか?


 思いつくままに作ってみる。巾着というと紐を通し、きゅっと紐で引き絞るタイプのものが普通だろう。だが、紐がそもそも完全に別パーツなためどうやら出来ないようだ。せめてそれに近いものにしたく試行錯誤を繰り返す。たとえば上部が開いたただの袋。これだと口がしめれずやや不安だ。別パーツがだめだとするとファスナーやボタンなども同時にヌイグルミからは出来ないだろう。そもそも材質から無理がある。


「う~ん…紐状のものをつけたまま袋になるように…」


 しばらく唸りながら続けているとどうにか完成する。上部に穴がありその両サイドから紐が伸びている形…横は縫合されているがこれを解くとまるで…


「……ふんどしみたい。」


 実際違うんだから気にしなければいい。さらに見方を変えればオムツとも見て取れるのだから…


「まあ今はこれでいいか…」


 出来ないものは仕方ない。いずれ作り直すことにしよう。『練成』のほうもレベルが上がればきっと出来ることも増えるのだろうと思うことで妥協した。残りのヌイグルミで袋は5つ完成したことになる。


 さて…今日は1人でぼちぼちたくさんかれたのできっとレベルも上がっているだろう。



 名前:ポチ

   性別:男

   年齢:16

   職業:錬金術師(商人)


  レベル:4

   体力:45

   魔力:472


    力:32

   速さ:68

   知力:284

    運:61

物理防御力:23

魔法防御力:131


固有スキル:チュートリアル 鑑定2

   称号:スライムに倒された男



 おおーっ2レベルもあがっている!でもステータスの上がりは魔力と知力ばかり伸びて他がいまいちに見えるな…



***** 錬金術師アルケミストスキル *****

調合1 練成1 分解1 (合成) (生成) (操作)


***** 商人マーチャントスキル *****

話術1 ストレージ増加1 開店1 (値切り) (経営) (雇用)



 スキルも確認してみたけどこっちは何も上がっていないな~…まあ商人は何もスキル使ってないから上がるわけもないのだけどね!


 明日もまたダンジョンに行き調合のレベル上げをするつもりだ。ベッドに横になりふと天井を見る。何か違和感がある…体を起こし明かりをつける。


 あれ…天井についてた部屋に入る取っ手がない?


 天井に手を伸ばし触ってみる。取っ手がついていたらしい穴が開いている。昨日はついてたのに今日はない…なぜだ?エレノアに話したら消えたと考えるのが普通だろうか…


「よし…」


 手をそのまま天井に触れたまま『練成』をする。取っ手を作り再び天井の扉を引いて中を覗きこむ。するとそこには小さな窓からさす月明かりに照らされ、ほうきを片手に持った小柄なメイド少女が立っているのが見えた。少女の銀髪の髪の毛が光に照らされ幻想的な雰囲気がただよっている…


「……」

「…誰?」


 人がいた。しかも知らない女の子だ。


 思わずそのまま扉を閉め、取っ手を元の天井に戻す。しばらくその状態で上を見上げていたが降りてくる様子はない。感覚的には1時間くらい経過した気がする…再び取っ手を作り扉をそっと開け中を覗く。先ほど見た少女はいなかった。


 幻覚…とかか?


 部屋を飛び出し一気に一階まで駆け下りる。


「エレノアーーッ」


 声を上げながら厨房のほうへ足を踏み入れると、先ほど見かけた少女がデッキブラシで掃除をしていた。掃除をしていた手を止めるとこちらを向き少女は首をかしげた。


「…この時間は食事でない…です。」

「……」


 …ん?もしかして従業員なのか??

 たしかエレノアは父が病気で1人でやってるとか言ってなかったか…?


 少女のほうをじっと見るとすでにこちらはどうでもいいらしく掃除を再開していた。


「あーーーもうっ今何時だと思ってるのよーっ」


 厨房の奥にある扉からエレノアが出てきた。見慣れない服装をしている。寝間着だろうか?


 首を動かし掃除をしている少女とポチを交互に見る。


「……ん?」

「エレノア…この人は誰だ?」

「え…えーと…新しく雇ってみました?」


 なぜ疑問形…


「屋根裏が部屋なのか…?」

「そ、そうなのよぉ~」

「昨日の夜から部屋の状態変わってなさそうだが、いつからいるんだ?」

「あ…あぅ…」


 エレノアとポチのやり取りを掃除をしていたはずの少女が眺めている。


「エレノア…この人はお客様…ですか?」

「あ、うん。お客さまよ。スフィ…」

「いらっしゃい…ませ…ごゆっくり…どうぞ?」


 スフィと飛ばれた少女はポチのほうに向き直り、両手を前で組み丁寧に頭を下げた。その様子を見ていたエレノアはため息をつきどうやら隠すのをあきらめたようだ。




▽▽▽▽▽




 椅子に座りポチとエレノアは向かい合う。スフィと呼ばれた少女が紅茶に似た飲み物をいれてくれた。


「で…あの子は誰?」

「名前はスフィア。」


 スフィアは飲み物を入れ終わると再び掃除へ戻っていく。


「この宿に初めから住んでいた精霊よ。出来るだけ精霊がいることをしられたくなくて隠してたんだけどね…」


 日本で言うところの座敷わらしみたいなものだろうか?


「精霊ってねすごい働き者なの。だから父がこの宿を気に入ってここで宿を始めたの。でも…精霊もただじゃ動けない。契約者の魔力で動くものなの…」

「じゃあ父親が病気って…」

「うん…寝てないと魔力が足りないんだ…」


 精霊は魔力で動く。魔力は寝たり休めばある程度は回復する。でもこの精霊が消費する魔力が回復量に追いつかなかった結果倒れてしまったということらしい。


「契約は解除出来ないのか?」

「出来るけど…そしたらここから追い出されるわ。」

「契約者を変えることは?」

「それも出来るけど…私じゃもっと足りないから…」


 ふむ…じゃあ変わりに僕ならどうなんだ??


「エレノア、契約者の変更はどうすればいい?」

「え…えーと、現契約者とスフィアの同意?」

「スフィアッ契約者を僕に変える気はないか??」


 掃除の手を止めこちらを眺めている。ゆっくりと近づいてきてポチの周りをくるくると回りつつもじっと見ている。


「……ぜんぜん…おっけー…」

「なっ……ポチ契約するつもりなの…?」

「あーうん。そしたらエレノアの父親は回復しきれるだろ?」

「そ、それって…宿の契約者ってことになるのよ…?」

「……ん?そうなの??」


 だんだんエレノアの頬が赤く染まっていく。


「宿をついで…婿養子に…私と…結婚…」

「けっ…結婚!?」


 いや、スフィアと契約するだけじゃないのか??


「だって父さんが…婿に宿つがせるって…言って…て…」


 赤い顔がますます赤くなりエレノアはとうとううつむいてしまった。


「えーと…まず結婚の話は横においておいて…父親はいつなら話出来るかな?」

「朝なら…少し起きてる…」


 エレノアは意識をしすぎているせいかその後顔を上げることはなかった。朝起きたらまずエレノアの父親に会い話をきいてみる必要がありそうだ。そんなことを考えながら上へと向かう階段に踏み込むと視界の端で掃除をしつづけるスフィアの姿が目に映る。


 精霊ね…


 部屋に戻るとそのままポチはベッドに倒れこみ気がついたら朝になっていた…




▽▽▽▽▽




「……ポチさん。」

「おはようエレノア。」

「えっと…」


 まだ昨夜のことを引きずっているのかエレノアの態度が少しぎこちない。


「スフィアは?」

「たぶん、どっかの部屋を掃除してるはず…」


 話を聞くと精霊は教えれば何でも出来るようになるらしいのだが、スフィアは契約者の魔力が足りなく掃除くらいしか教わっていなかったそうだ。なので人がいない部屋をただひたすらに掃除を続けているのだとか…


「エレノアの父親は起きてる?」

「あ、うん…起きてるよ。」


 また寝てしまう前に話を済ませてしまいたい。エレノアに頼み父親が寝ている部屋へと案内してもらった。


「父さんまだ起きてる?」

「ああ、エレノアか起きてるよ。」

「父さんと話をしたいって人連れてきたんだけどいいかな?」

「話…?まあ入ってきてくれ。」


 許可がでたので部屋に入る。室内に入るとベッドに入り半身体を起こした若い男がいた。もちろんエルフである。


「さて…君は?」

「ポチといいます。一応この宿の客です。」

「私はエレノアの父でソーマといいます。」


 軽く自己紹介を済ますと精霊と魔力不足について聞いたことを伝えた。


「あースフィアを目撃してしまったのですね。」

「はい、それで話を聞いて…」

「まあ、見ての通りです…」


 青白い顔をしてベッドに腰掛ける姿はどうみても病人にしか見えない。魔力が回復すればきっと体調もよくなり仕事にもどれ、食事も通常になり客も戻ってくる。そしてエレノアも喜ぶ。


 一石5鳥じゃないか…


「面倒なんで単刀直入にいいます。スフィアの契約を僕に譲渡してください。」

「……は?ま、まさかエレノアと結婚したいというのか!」

「違います!!」


 大丈夫かこの親子…


「僕に契約を移すことでソーマさんが回復できるでしょうが。」

「まあ確かにその通りだが…」

「で、別に宿いりませんので…しばらく預かっているか、何かその間に方法を考えてみようかなと思いまして。」

「でも結構魔力消費するよ…?」

「ちなみにどのくらい消費するんですか?」

「1日大体150~200くらいもってかれるね。私は魔力に特化していないので魔力はあるけど回復速度がおいつかなくてね…」

「その魔力は一気に減るのですか?」

「いや、少しずつ持ってかれる感じだね。スフィアの維持と行動で消費少しずつって感じかな?」


 一気に取られないなら余程大丈夫だと思う。そもそも大量に魔力を使うスキルもないしな…でも俺のステータスはどう見ても魔力特化。今のところあまりやくにたっていない。


「では1日だけためしにスフィアの契約を移してください。持ち逃げとかしませんので。」

「持ち逃げの心配はないよ。スフィアは契約者について歩けるけど、1日家から離れることは出来ないからね。」

「1日連れ歩くとどうなるんですか?」

「強制的に家に引き戻されるよ。」


 なるほど…


 ソーマが少し頷くとなにやら決心したらしく、エレノアにスフィアを呼ぶように指示をだした。それからしばらくするとスフィアを連れてエレノアが戻ってきた。


「スフィア探すの大変だわ…」


 どうやらすき放題掃除でうろつくらしく、見つけるのに時間がかかるらしい。


「スフィア…契約をこのポチに譲渡することにしたよ。」

「はい、問題ないです。」


 2人が頷き合うとそろってポチのほうに体を向けた。


「ポチくん、スフィアの手を取ってくれるかね?」

「あ、はい…」


 ポチは手を伸ばしスフィアの両手を取る。すると何か温かいものが流れ込んできて、そのあと逆に流れ出す感覚がした。


「契約完了です。新しい御主人様。スフィアです、よろしくどうぞ。」


 気のせいか少しだけスフィアが微笑んだ気がした。


「じゃあ取り合えず今日1日、スフィアをお願いするね。」

「はい、もし魔力が大丈夫でしたらしばらく預かってますんで、しっかり回復してくださいね。」

「ありがとう…」


 契約の譲渡が完了すると3人はそろって食事をすることにした。ソーマにいたっては普通に起きての食事は久しぶりで終始楽しそうだった。もちろんスフィアはすき放題掃除をしている。


「ポチさん今日の予定は?というか宿代が今日までですけど、どうしましょうか?」

「あっそうだね。スフィア預かってるからもちろん継続で泊まるよ。」

「ポチくん、スフィア預かってもらってるから宿代を食事込み銀貨2枚でいいよ。」

「あ、じゃあ今回は3日分でお願いします。」


 ポチは銀貨6枚をストレージからだす。残りのお金が金貨2枚、銀貨7枚、銅貨4枚あることを確認する。


「今日はまたダンジョンにいくので帰りが少し遅めかもしれないです。」

「わかりました。食事は用意しておきますね。」

「ありがとう。」


 お礼を言うとポチは扉から外へ…外へ?振り返ると背後にスフィアがいつの間にか来ていた。


「御主人様どちらへ?」

「ダンジョンへいくんだけど…」

「外出…お供してもいいですか?」

「ダンジョンについてくるの?」

「はい…行った事ないので。」


 まあ地下1階だけだし危険はないか…


 ポチはスフィアをつれダンジョンへ向かうことにした。


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