第6話 狩って狩って狩りまくる

「屋根裏の部屋のことを聞き忘れたな…」


 起きたばかりの第一声がこれである。疲れていたのもあり、昨日聞くのをすっかり忘れていたのだ。


 まあ…食事に行くし聞けばいいか。


 もともと荷物も無く、準備もないのだが、気持ちだけ準備したつもりで1階まで降りて行く。


「おはようございます~」

「ポチさんっ今食事出しますね。」


 椅子に腰掛け今日の予定を考える。とりあえずダンジョンの地下1階へいきひたすらスライムを狩る。そしてベルペル草でポーションを作り『調合』のレベルを上げたい。キノコも余裕があれば狩ってもいいだろうか…


 ふむ…こんなところだろうか?まあボスは狩らないし無理しなければ危険もないだろう。


「おまたせーっ」


 食事をトレイに載せエレノアがこちらに向かってきた。どうやら早速昨日教えたクレープを焼き、なにやらすでにくるんで持ってきたようで、3つの塊がお皿の上に載っている。折りたたむようにくるまれたクレープの中身は完全に見えない。


「…これ中身何?」

「食べてからのお楽しみで!」

「…まあちゃんと食べ物なら別にいいんだけど。」

「ひどいなー味見はしたよ?」


 なら大丈夫…なのか??


 一番右にあるものから手に取ってみる。少しずっしりしている。恐る恐る口に運び一口食べる。


「あ…これは昨日の肉のヤツだね。」

「そうよ~食べやすいように変えてみただけだもの。」


 さて…次はどちらを食べてみるべきか…気のせいか一番左のヤツがなんか赤い汁が出てるんだよね…こっちは最後にするか。


 次のを手に取り一口食べる。


「…甘っなんだこれ果物?」


 果物の甘み以上に甘い。さらに砂糖にでもつけたような感じだ。その上甘い果物のソースまでかかっている。


「甘いのもおいしいでしょ?」

「まずくはないけど…」


 3つ並んでいる真ん中にまさか甘いものがあるなんて普通思わない。しかも激甘だ。……まあいい。問題は最後のヤツである。…食べるけども。手に取るとやはりちょっとべチャッとしているのがわかる。


「……」

「食べないの?」


 他に客がいないのもありエレノアがずっと傍にいてとても食べずらい…覚悟を決め一口かじる。


「………!!」


 なんだこれっ


 目を白黒させあわてて水を飲む。なんというか辛くてすっぱい。中身はなんか魚貝っぽいものが見えている。木で出来たコップに注がれている水を一気に飲み干す。


「おい…これほんとに味見したのか?」

「したわよ?甘いほうと交互に食べると程よくておいしいけど…」

「それを先にいってくれ…というかもうはじめから混ぜて包んでくれよ……」

「…その手がっ!」


 今気がつきましたみたいな顔をしているぞ…大丈夫かこいつ。


 無理やり飲み込むように食事を終えるとエレノアが今日の予定を聞いてきたので今日はしばらくダンジョンにもぐっていることをつげる。


「では、夕食までには戻られますか?」

「うん、戻ってきて食べるよ…だからもっとましなもの用意しておいて?」

「では今日の夜は私の得意料理にしておきますね!」


 得意な料理とかあるのか…そんなことを考えつつ宿を出ようと扉に手をかけた。


「あ、そうだ…屋根裏に部屋があったんだけど、あれエレノアの部屋なのか?」

「……部屋なんて知りません。」


 聞き方がいけなかったんだろうか?


「エレノアはここで寝泊りしているのか?」

「はい、1階に部屋があって父もそこで寝ていますね。」


 …ん?じゃあ屋根裏のはいったいなんだ…


「さあさあお出かけしちゃってください。部屋に貴重品はないですね?掃除しますよ?」

「あ、ああよろしく…」


 半ば追い出される形で宿の外へと出る。


 見間違いか何かだったんだろうか…まあ帰ってからまた見てみればいいか。


 ダンジョンに行く前に一度冒険者ギルドに立ちよる。ダンジョンの中で受けられる依頼がないかの確認だ。ざっと見た感じやはりベルペル草くらいしかない。スライムの討伐とかもあるが、これは場所の指定がされていてダンジョンは対象外だ。


 まあ地下1階じゃ依頼なんてないか…


 ダンジョンの入り口外にあるテントに向かい中で受付を済ます。1人で入ることを心配されたが地下1階だけでボスも相手にしないというとなら問題ないといわれた。自分から攻撃してくるモンスターとかいないのだから危険もほぼないようなものだ。




 ◇◇◇ レアス地下1階 ◇◇◇


「ソロダンジョン!!」


 ちょっとテンションが上がり一人で叫んでしまった。後から来ている人がいないかつい後ろを気にしてしまう。キョロキョロと見回すと入ってすぐのとこに魔石があるのを見つけた。


 これって2階へ降りるところにもあったやつだよな…


 ためしに触ってみると、壁にパネルが表示され移動可能階層とか表示された。ちなみに今出ているのは地下2階までだ。どうやらここから行きたい階層へすぐ飛べるらしい。もっともポチの目的は地下1階なのだから移動はしないのだが…


 なるほどね~


 1人で納得したところで魔石から手を離し本来の目的である地下1階の狩りを始めることにする。レベルが1つ上がったので狩るのも少し楽になったに違いない。


「よぉ~しっ」


 スライムに目がけナイフを突き刺した。1撃でスライムが倒せた!


「やば…1撃とか楽勝じゃね?」


 手当たりしだいスライムをプスプスと突き刺す。1匹倒すごとにアイテムを拾うと手間がかかるので、数匹倒してからまとめて拾う。


 そうだ、キノコも試してみないと。


 レベル1で狩ったときは5回くらい攻撃したら倒れたキノコ。1レベル上がった今なら回数も減っているだろう。そう思ったポチはキノコを見つけると試してみることにした。


 ちゃんと盾を構えるのも忘れない。キノコに攻撃しながら数を数えると3回でキノコノコはキノコになった。


 ふむ…まだちょっと面倒だな。これももう少しレベルが上がれば1撃だろうしそれまでやめておこうかな。


 キノコを無視しひたすらスライムを攻撃しつづける。だんだんただの作業になりつつあるがアイテムだけは忘れずに拾う。そんな作業を繰り返していると油断が生まれたのだろう。突然スライムに攻撃された。


「…え?」


 あわてて攻撃してきたスライムを倒す。驚いた確かスライムは自分から攻撃はしてこないはずである。ということは1撃で倒せなかったスライムがいたということになる。どうやらスライムも個体差というものがあるようだ。気をつけよう。


 スライムを倒しアイテムをストレージにしまうことを繰り返していると、ストレージに入らず足元にベルペル草がポトリと落ちた…拾ってもう一度しまおうとする…ポトリ…


「…ん?」


 もしかしてもうしまえない量なのか?


 ストレージを開き中の状態を確認する。アイテムがぎっしり詰まっているのがわかる。どう見てもこれは満タンだ。1つずつ数えいくつ入っているのか確認してみる。


 ……197、198…200個のようだ。


「一度調合しておこうかな。」


 『調合』と声にだすと調合窓が現れた。



 調合可能アイテム一覧


-----------------------------------------------------------------------------

・ポーション…材料:ベルペル草×2

・???…材料:ギルギル草×1、スライム玉

-----------------------------------------------------------------------------



 あ…そういえばまだ作ったことないやつがあったな。


 ギルギル草とスライム玉をストレージから出し調合してみる。出来上がった瓶を鑑定してみる。



 名前:痛み止め薬

 効果:命にかかわらない程度の痛みを止める。



 痛み止めか…頭痛とか腹痛とかに効きそう。


 確認が終わったので今度はポーションをどんどん作っていく。最初はベルペル草を2つずつ出しながらやっていたのだがだんだん面倒になりまとめて手に掴み『調合』すると一気に数本出来た。さらにストレージ丸ごとポーションの調合とやってみると一気に全部おわってしまったとう…


 はじめからこうやればよかったのか…


 このやり方も指南書に書いてあったのだが、ポチはちら見してろくに読まなかったので知らなかったのである。


 調合が終わったので再びスライムをストレージ一杯になるまで狩り、ポーションを調合する。これを数回繰り返すともうストレージには入らなくなっていた。


 本が4冊、生物『魔法3』、痛み止め薬1本、ポーション158本、スライム玉21個、キノコ1個、スライムヌイグルミ8個、ナイフ6本…これがストレージに入っているアイテム全部になる。ちなみにお金は別枠らしく数にはいっていなかった。


 …ポーション売るだけで銀貨31枚と銅貨6枚だなこれ。大体10日分の宿代か…生きてくだけならなんとかなりそうだな。


 ダンジョンを切り上げ冒険者ギルドへ足を運ぶそのころには外はだいぶ暗くなっており、ずいぶんと長いこと地下にこもっていたようだ。ギルドのカウンターへ向かうとストレージからポーション158本とナイフを6本取り出し買取をしてもらう。ナイフは1本銅貨3枚で合計銅貨18枚。ポーションと合わせて銀貨33枚と銅貨4枚になった。


「銀貨30枚を金貨3枚に変えますか?」


 どうやら銀貨10枚で金貨1枚になるようだ。2枚だけ金貨に変えてもらい、金貨2枚、銀貨13枚、銅貨4枚で受け取る。それにしてもあんなたくさんなポーションでも問題なく買ってくれるギルドってすごいなーと思った。多少は使う人もいるってことですかね…


 宿へ戻るとエレノアが机に伏せていた。帰るのが遅くなったためどうやら眠ってしまっていたようだ。そっと階段を上がってしまってもいいのだがそれだといつまでもそこにいるだろう。肩を揺さぶり起こすことにした。


「うぅ~~ん…」


 目をこすり顔を上げた。ぼんやりとこちらを見ている。

「あ…ポチさんお帰りなさい。遅かったんですね~」

「ダンジョンだと外の様子がわからないから…」

「あーそうなんですね~」


 立ち上がるとそのまま厨房に消えていった。


「今食事だしますから~」


 そういえば得意料理を出してくれるとか朝言っていた。ちょっと悪いことをしてしまったなーと思いつつ椅子に座った。少し待つといい匂いがしてくる。ぐぅーっとお腹がなった。そういえば朝出るときに食べたきりだったことを思い出す。


「おまたせーっ」


 トレイに食事を載せ運んでくる。お皿の上にはなにやら赤いソースのかかったものがある…フォークを手に取りそのソースに突き刺し持ち上げると、中から細長いものが出てきた…


 ん…パスタか?いや、ちょっと太い気もする…うどんか??


 どっちかわからないがどうやら麺のようだ。まあそれはいい。問題はこのソースのほうである。どう見ても朝クレープに包まれていたものに見える。


「なあこの赤いのって朝のと同じか…?」

「ん?違うよー」


 どうやら違ったらしい。それならまあ大丈夫…か?そのまま口に運び食べる。


「あ、普通にうまい。」

「よかったーこれは自信あったんだよね~」


 まあ麺はどっちかよくわからないんだがな。


 一気に食べ終わり。一息つく。


「今度は遅くなりそうなときは朝言っておいてくださいね~」

「あ、うん。迷惑かけてごめん…」


 そうだ、ストレージに入ってるスライムヌイグルミをお詫びにあげよう。喜ぶかな…?

 ストレージを開きヌイグルミを出す。


「これ、今日のお詫び…」

「…え。いいのですか?」


 頷くとエレノアはそっと受け取りそのさわり心地に顔を緩ませた。


「これいいですよねー気持ちいいし。和みます~あ、あとアレンジすれば色々使えるんですよ?」

「アレンジ?」


「たとえば…ほら、帽子っ!何て…」


 頭の上にのせてエレノアは少し照れ笑いをしている。


「流石に帽子は苦しかったかぁ~」


 …アレンジ?使い方や形を変えるってこと??えーと…『練成』でもつかえばいいのか?


 もう1つヌイグルミをだし『練成』する。まずは今エレノアがいってた帽子である。少しふわふわしたベレー帽みたいなものが出来た。それを横に置きもう1つ出し考える…何が出来るだろうか?


「ねえ、エレノア何があると便利?」

「ん?そうね…鞄とかかしら。私ストレージ量ないから。」


 鞄…斜めかけの鞄を作ってみる。さらにその中にさっき作った帽子を入れ、ストレージにしまってみる。ストレージの中には


 帽子の入った鞄


 と表示されていた…


 つまり、鞄にアイテムをつめストレージにしまえる…ゲームで言うところのバンドルが出来るってことだっ


 これは…もっとたくさん荷物が持てるようになるってことだすごい!




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