第2話 適正職業

「うぅ~眠い…」


 目をこすりながらのそのそと起き上がる。朝日が目にしみて痛い。ぼんやりとした頭を振りながら今の状態を確認する。周りは布で囲まれた狭い部屋…


「あーテントか。」


 身支度をしテントからでる…といっても髪型と服装を整えるだけ。まあ持ち物は持っていないからね!


 青々とした空と澄んだ空気。朝はほんの少しだけひんやりとして気持ちがいい。両腕を上げ伸びをする。


「あら、意外にに朝早いのね。」


 隣のテントからアルタが顔をだした。どうやらエルザはまだ起きていないようだ。


「エルザが起きたら食事にするわね。簡単なものしかないんだけど。」

「食事…」


 そういえば昨日の夜から何も食べていなかった。そのことを思い出したとたんおなかが「ぐぅ~」っとなった。


「あらやだ…ふふっ」


 そんなポチに見かねたのかアルタはストレージから硬いパンと器にすでに盛られているスープを取り出し、差し出してきた。


「え、いいの?エルザまだ起きてないけど…」

「まあいいわよ。あの子もうしばらく起きないし、おなかすいたんでしょ?」


 再びおなかがなる。どうやら体は正直なようだ。


「ほら、おなかが返事してるじゃない。」


 少し照れながら素直にパンとスープを受け取った。こんな世界でもおなかはすくんだなーと思いつつスープの器を覗きこむ。透明感のある液体に見知らぬ人が映っている。高校生くらいのちょっと童顔の男の子だ。スープのせいで髪の毛の色はよくわからないが黒くはなさそうだ。


「……俺の顔か?」


 器を持っているのが自分なのだから他の人が映るわけがない。


「食べないの?」

「食べます食べますっ」


 自分の顔を初めて見て驚いていただなんて言えない…そのまま器を傾け口をつけることにする。


「え…暖かい。」

「ん?作りたてをしまっていたんだもの暖かくないと困るわっ」


《ストレージノキノウトシテジョウタイヲソノママホゾンシマス。》


 …だそうだ。いい加減この声にも慣れてきた。必要を感じるときにタイミングよく聞こえることから勝手に『お節介娘チュートリアル』と呼ぶことにした。いや、息子…なのか?きっと女の子だよな??返事はない。まあどっちでもいいのだろう。


 食べ始めたら早いものであっという間に平らげてしまった。そしてエルザはまだ起きてこない。さて、エルザが起きない限り出発もしないだろう。暇をもてあましまわりを眺める。明るいと夜と少し違った雰囲気だ。相変わらずスライムがその辺を徘徊しているがいきなり襲い掛かってくることはないようだ。昨夜はポチが踏んだのが原因だったのだろう。


「ねえアルタ。スライムって何かアイテム落とすの?」

「んー?落とすわよ~私はほら弓だからあんまり狩ったことないんだけど、スライム玉ってのなら見たことあるわね。」

「何だそれ?」

「一応素材として買取されるアイテムの1つね。使い道は知らないよー」

「ふーん。」

「スライム玉がどうかした…?」


 どうやらエルザが起きてきたようだ。目をこすりながら会話に参加してきた。


「スライムの落とすアイテムについて話していたとこよ。」


 すかさずパンとスープを取り出しアルタはエルザに渡した。ぼんやりとしながらももくもくと食事を進めている。


「ふぅ~ん…」


 エルザの食事も終わりテントもしまわれた。これでやっと町へ向かえることになったようだ。


「まずは町についたらすぐ教会かしらね。ポチに職についてもらわないと。」

「それは同意。メイン職が前衛でありますように…」


 いや、それは自分でもそう思うよ!


 雑談をしながら歩いていると門が見えてきた。思っていたより大きい町のようだ。門の大きさについ見上げて立ち止まってしまう。


「ほへ~」

「ほら、ポチこっちよ。」


 手を振って入り口の前でアルタが呼んでいる。あわてて呼ばれたほうへ駆け寄ると衛兵らしき人が立っていた。


「ステータスプレートをだしてくれ。」

「あの、この子間違って外に出されちゃったみたいでまだステータスプレートもってないんですが。」

「なに…?」

「あ、私達は持っています。」


 アルタとエルザはストレージから金属でできた板をだし衛兵に見せた。


「たしかに。んで、そっちの坊主か…まあいいだろう、このまますぐ教会にいって作ってくれ。」

「ありがとうございますっ」


 なんかじっと見られていたがなんだろう?

 とりあえず門をくぐることが出来たのでいいと言えばいいのだが…微妙に納得がいかない。


「ねえアルタ…さっきの人なんでじっと見てたのかな…」

「…ステータスを見られていたはずよ。」

「ステータスを見る?」

「ええ、こうやってカード持ってない人もたまにいるから、門に立つ人たちはある程度鑑定できる人が立っているのよね。」

「つまり…」

「ポチが弱いから暴れられても平気って見られたのよ…」


 ポカーンと口を開けて動きが固まってしまった。


「むやみに人を鑑定しちゃだめだけどねー」


 なんてことだ…ステータスというのがあるのにも驚いたが、弱い認定されたってことかよぉぉぉ…少し悲しくなった。


「まあしかたない、スライムに負けるくらいだもの。」

「ぷはっそれいっちゃう??」

「………」


 負けない…「きゃーかっこいい~」といつか言われる日まで!


 気を取り直しアルタがストレージから地図をだし広げた。現在は東側の門から入りほぼまっすぐ歩いてきたところで、まだそれほど進んではいない。


「この町の教会は初めていくのよね~」


 指で地図をなぞりながら道を確認する。教会はこの町の北東の位置に建っているようだ。そろそろ右に曲がり北へ向けてあるいたほうがいいだろう。地図に従い北へ進むといかにも教会ですという外観をした建物の前についた。


「ここみたいね。」


 入り口には『教会アリストテレス支部』と書かれている。この町の名前は『アリストテレス』というらしい。ゆっくりと扉を押し中にはいると修道女シスターと思わしき人が立っていた。


「ようこそアリストテレス支部へ。今日はどのような御用でしょうか。」

「この子のステータスプレートの発行と職につきにきました。」


 アルタに後ろから両肩をつかまれ前へ押し出される。


「わかりました。ではまず職業の適正から確認しましょうか。」


 場所を移動するようだ。「こちらへどうぞ」と別の部屋に案内される。その部屋には壁に大きなパネルが設置されており、その前に水晶のような丸く透明なものが置かれていた。


「ではこちらに触れてパネルのほうを見ていてください。職業名が表示され、上から前衛職、後衛職、特殊職と全職の名前が一度表示されます。その後順に消えていき、最後に消えず残っていたものが適正職となります。」


 ごくりと喉が鳴った。これでここでの生活基盤が決まるわけで緊張もするってもんだ。


「ふふ、安心してください。かならず2~3個は適正がありますから。」


 緊張した面持ちでそっと水晶のようなものに触れた。ポチの後ろではアルタとエルザが眺めている。きっと前衛職の名前が残ることを期待しているのだろう。


 すーーーっと上から順に文字が消えていく…どんどん文字がなくなり……前衛職がすべて消えた。


 うそだろう…?これって前衛職に適正がないってことだよな…


 そのまま続けて後衛職のところも消え始める。文字が消え続けるのが止まらない…再びごくりと喉が鳴った。このままだと後衛職も全部消えてしまいそうだ。そして祈りもむなしく後衛職もすべて消えた。


「あらまあ…」




 ということは特殊職の中からいくつか残ることになるわけだ。特殊職は数が多く少し時間がかかりそうだ。こちらも順番に文字が消えていき『商人マーチャント』が消えずその次の文字が消えた。どうやら1つ決まったようだ。


「マーチャント…微妙ね。」

「前衛に、というか戦闘に向かない職。」


 2人が後ろで話す声が聞こえてくる。『商人マーチャント』は戦闘向きじゃないらしい。そんな間も容赦なく文字が消え、次は『錬金術師アルケミスト』の文字が残っている。商人より文字が濃く表示されていた。そしてついに残りの文字は全部消え、2つの職の名前だけが表示されている状態になった…


「…はい。どうやら終わったようですね。文字の表示がはっきりしているので『錬金術師アルケミスト』がメイン職のようです。追加で『商人マーチャント』のスキルが使用できるようです。」


 がくりと膝から崩れ落ちる…こんなモンスターがいる世界で戦闘職がないとか残念すぎる。


「ちょっと大丈夫?」

「アルケミストって戦えるのかな…」


 力なく聞いてみる。


「えっと…私も詳しくしらないのよね。薬とか作れることの他に何が出来る職なのか…」

「適正はどうしようもない。」


 そうでしたっ!もうこれで生きていくしかないのだ…


「と、とりあえず次はステータスプレートを作りましょうか。」


 シスターにまで同情されてしまったようだ。まあ仕方ないとはいえこの結果は決定なのであきらめよう。無職よりはましって思うことで…うんまあそういうことで…


 ちょっと泣きたくなったのは内緒だ。


 ステータスプレートをさらに別の部屋で作った。こっちはあっさりしたもんで同じような水晶に手を置くとカードが飛び出してきたので書かれていた内容を確認する。



   名前:ポチ

   性別:男

   年齢:16

   職業:錬金術師(商人)


  レベル:1

   体力:10

   魔力:300


    力:20

   速さ:50

   知力:200

    運:50


物理防御力:10

魔法防御力:100


固有スキル:チュートリアル 鑑定2


   称号:スライムに倒された男



「打たれ弱いわね…」

「ぷふっ…スライム書かれてる!」


 エルザの笑いが止まらなくなった。お腹を抱えてしゃがみこんでいる。多少は我慢しているみたいだが我慢しきれなかったぶんの笑いがもれている。


「ポチ、ごめんね…エルザのつぼにはまってしまったみたい。」

「エルザってほんとに癒す職業な人なの…?」


 むしろダメージを受けてる気がするんだけど…!


「職業だけわね…」

「……」


 「も、涙が…勘弁してっ」といいながらまだ立ち上がりすらしない。


「そのうち落ち着くでしょ。」


 笑っているエルザは放置しておいて『ステータスプレート』を確認しなおした。やはり職業のところには『錬金術師アルケミスト』と書かれている。


「ふむ…この職業のスキルってどうやればわかるのかな。」

「ああ、スキルリストを展開してみて。」

「スキルリスト…」


《スキルリストヲテンカイシマスカ?》


 もちろん展開だ。そうかこの声はやはりチュートリアルなんだ…じゃあ必要なくなったら聞こえなくなるのかな。それはそれで少し寂しい気がする。


 そんなことを考えながらスキルリストを右下に開く。



***** 錬金術師アルケミストスキル *****


調合1 練成1 分解1 (合成) (生成) (操作)



***** 商人マーチャントスキル *****


話術1 ストレージ増加1 開店1 (値切り) (経営) (雇用)



「どう?スキル名をさらに展開すれば説明があるはずだけど。」


 早速展開して何が出来るのか確認した。説明文を見るだけだといまいちわからないことも多く、どこまで可能なのかを試す必要がありそうだ。


「うーん、使ってみないとよくわからない感じかな~」

「まあそうよね…」

「ただ…ほんと商人だけは戦闘に向いてないことがよくわかったよ。」


 「あー疲れたー」とエルザのほうから声が聞こえた。やっと復帰したようだ。


「さて、じゃあ次はギルドにいこう。」


 教会を出て次はそこからまた南へ戻るようだ。地図を見るとこの町には冒険者ギルドが2つあるようだ。どうやらここで依頼を受けて報告をするらしい。基本ギルドで登録をしていない人は自力での生活資金を稼ぐのが厳しいのだとか。


「商人が商売をするのは自力とは違うんだ?」

「違うわよーギルド登録がないと商売の許可がでないし、他の人から商品を買い取れないもの。」


 お互いギルドに登録していないと規約違反になるそうだ。商人じゃなくても店を出せないこともないらしいが、保証もされないしそもそも信用されないから客もほとんどこないらしい。つまり商人は登録が必須ということらしい。


「ついたわよー」

「ポチここで登録しないとね…」


 教会とは違い人の気配が中からたくさんする。入り口には『冒険者ギルドアリストテレス東門支部』と書かれている。扉をくぐり中に入るとアルタとエルザがまっすぐカウンターに向かったのでその後をついていった。

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