適正職業『錬金術師』
れのひと
第1話 世界はゲームで出来ていた?
《マズハナマエヲキメテクダサイ》
事務的な言葉が頭に響く。何処から声がしたのかわからないので目を動かし周りを見ようとする。だがなぜか体は動かないので確認ができない。すると再び同じ声が響いた。
《マズハナマエヲキメテクダサイ》
どうやらこの声の主はどうしても名前を決めて欲しいようだ。「そもそも何の名前なんだ?」と一瞬思ったが、まあ聞いても応えてくれるかわからない。それに声もでないのだがどうやって名前を言えばいいのかわからないのだがそれについては何故か答えてくれない。
《マズハナマエヲキメテクダサイ》
それでもしつこく名前を決めろとこの声の主は言い続ける。「…ポチ」適当に名前を考えてみた。どうみても犬の名前だが何の名前をつけるのか知らないのだからしかたない。
《ナマエヲカクニンシマシタ》
どうやら名前は『ポチ』に決まったようだ。思い浮かべるだけで相手には通じたのはありがたい。
すると視界が開け周りが見え始めた。だが見えているのは白という色だけ。とりあえず体を動かしてみる。動いているという感覚だけはあるがどことなくふわふわとしていて足元がおぼつかない。地に足が着いていない感じがする。
「誰かいないのか?」
聞きなれた自分の声が聞こえた。声が出るようになったようだ。
《セイベツ、オンセイカクニン》
名前、性別、声…まるでゲームのキャラメイクのようだ。次はあれか…容姿でも決めるのか?そんなことを考えると次の声が聞こえてくる。
《ネンレイノセッテイヲドウゾ》
おい!この声今設定とかいったぞっ
《ネンレイノセッテイヲドウゾ》
また決めるまで同じ言葉を繰り返す気のようだ。
仕方ないので考える。ゲームっぽい感じなので実年齢じゃないほうがいいだろう。「16…?」ちょっと若くしすぎか?何歳サバよんでるんだよって感じだが。自由に選べそうだし問題ない…よな?
《ネンレイヲカクニンシマシタ》
「通っちゃったよ…!」
まあしかたない…じゃあ今度こそ容姿なのだろう。どうせなら16という年齢だしこう…銀髪でかっこよく、だが背は高すぎず少し童顔で将来有望そうな感じに…なんてな!
《ガイカンカクテイ》
どうやら聞かれる前に答えたことで決定してしまったようだ。まあ余程変な見た目じゃなければ何でもいいきがする。
《タマシイノテイチャクヲハジメマス》
「たましいのていちゃく…?」
すーっと足元が光だし、地に足が着いた。ふわふわとした浮遊感が消え、体に感覚が戻ってきた。光はそのまま強まりまぶしすぎて何も見えなくなった。
▽▽▽▽▽
どうやら草原で寝ていたようだ。目を開けると顔を草が撫でている。目の前に見えている空は暗く現在の時間は夜のようだ。星が多いせいかわりと明るい。2つの月も雲に隠れず見えているからさらに明るいのだろう。
「……2つの月?」
あわてて体を起こし辺りを見回す。
遠くに町の明かりらしきものが見える。その反対側は木々が立ち並び深い闇を作っていた。森だろうか?
「どこだここ…」
なぜここにいるのかわからな…順を追って思い出してみよう。ここにいる理由…不明。少し記憶をさかのぼってみよう。謎の声とのキャラメイク…ゲームみたいである。その前も思い出せるだろうか?たしか…仕事が終わって帰宅し、ゲームをしようとパソコンをつけたまでは覚えている。もしかしたらそのまま寝落ちたのかもしれない。
「ということはゲームの夢でも見ているのか?」
夢にまでゲームを見るとかどんだけ好きなんだって感じだが、そういうこともあるのだろう…たぶん。
《コノママニシヘムカッテクダサイ》
ということはこの声はシステムメッセージ的なヤツに違いない。このままここにいても仕方ないので今は声にしたがっておくことにする。だが方角はわからない…中々不親切なゲームだ。
《マチガアルホウガニシデス》
なるほど…さっき見えていた町の明かりの方ということだな。
声にしたがい町のほうに向けて歩き出した。しばらくそのまま歩き続ける。だが思ったよりも町は遠いらしく中々近づかない。
「遠いな…」
文句を言っても始まらないのでそのままひたすら歩く。するとブヨブヨと弾力のあるものを踏んだ。足元を覗き込むとゼリー状のぷるぷるとした半透明なものが足の下にある。それは俺の足元から抜け出そうと柔らかい体をくねらせている。まるでゲームで出てくるスライムのようだ。
《ブキ、ボウグ、スキルナシ。ニゲルコトヲスイショウシマス》
どうやらモンスターで間違いなさそうだな。ということはこれがスライムなのか…
スライムといえば弱いモンスターの代表で、さすがにこれくらいなら素手で倒せそうな気もする。相手もたった1匹だ。踏んでいた足をどかすとスライムは怒っているのかぷるんぷるんと体を揺らし飛び掛ってきた。
まずはこれをかわし素手で打ち込む…つもりだった。だが実際はそうはいかない。
「げふっ」
スライムの体当たりが思ったよりも痛かった。そのままその場で倒れるとその背中にスライムが乗り、さっきの仕返しだといわんばかりにその上で跳ねた。
「やばい…まじで痛い…夢じゃないのか?」
このままだとスライムに殺される…っそう思ったのだが突然背中の重みが消えた。
《ヒンシジョウタイ。キュウソクヲヨウキュウシマス》
「ヒーリング。」
暖かいものに包まれる感覚とともに痛みがひいてきた。あわてて体を起こし状態を確認する。服が少し汚れているがとくに怪我もないようだ。というか今服装を初めて見たわけだが…白いTシャツに青い長ズボン…パソコンに向かう前に来ていた部屋着だ。
「助かった…まさかスライムで死にかけるなんて…」
「私も初めてそんな人見たわよ…?」
「…ん?」
誰だ…?
顔を上げると女の子が2人立っていた。1人は軽量タイプな防具を装備していて背中に矢を背負っている。金髪のショートボブで赤い目をしていた。左手に弓を持っていることからこの子がスライムを倒してくれたのだろう。もう1人は白いローブを着て杖を持っている。水色のロングヘアーで茶色い目をしていた。きっと「ヒーリング」を使ったのがこの子だ。名前からして回復魔法とかだろう。
「ねえ、防具も武器も無しで何していたわけ?」
「俺が聞きたいくらいなんだけど…」といいたいところだが言っても仕方が無い。金髪の子がなめまわすかのように視線を動かしている。余程俺の今の状態がおかしいのだろう。
「きっといろんな事情があるのよ。そんなに聞くもんじゃないわ…」
こちらはロングの子だ。哀れむものを見るかのような視線が突き刺さる。痛い。
「まあいいわ、ここで会ったのも何かの縁でしょう。私はアルタ、
「私はエルザ、
2人はとくに先ほどまでのとこは気にせず自己紹介をしてきた。どうやら俺も名乗らないといけないようだ。
「名前…?」
《アタナノナマエハポチデス》
「……」
「そうよ、名前と職業を聞きたいんだけど。」
《アナタノナマエハポチデス。ショクギョウナシ》
「…ポチ。」
「ポチ?職業は何かしら。」
「無い……」
女の子たちは驚いた顔でこちらを見ている。実際はポチのほうが内心穏やかではない。まさかポチという名前でほんとに呼ばれることになるとは思っていなかったのだ。
「やだ、職に就かずに町から出てはだめじゃない。」
「はぁ…」
そう言われても自分でこんなとこに来たわけじゃない。首をかしげながら困った顔でアルタとエルザの顔をチラリと見た。その意思を汲み取ってくれたのかアルタは大きなため息をついた。
「仕方ないわね…少しの間パーティ組んであげるわよ。」
「パーティ?」
そんなことも知らないのかと怒られてしまったが、親切な人達で簡単に説明をしてくれた。その話によるとこの開けたところはフィールドと呼ばれそれほど強くはないがモンスターがいるということ、町にはモンスターはいないがダンジョンがあるということ、ダンジョンがある場所に町が出来たそうだ。そして1人で狩りをする自信のない人は大人しくパーティを組んだほうがいいと言われた。
やはりゲームみたいだとポチは思った。まあそれならそれでゲーム好きとしては楽しむしかないでしょう…心の中でにやりとし、もっと詳しく話を聞いてみたくなる。
「2人は狩りの帰りなの?」
「そうよ、すぐそこの森へ狩りにいってたの。」
そういえば反対側に森があったな…と森のほうをチラリを見た。今は夜なので木々は見えなく真っ暗な闇が広がっていた。
「アルタがもたついたから帰りがこんな時間になってしまったの。」
「仕方ないじゃないっ前衛がいないんだもの…さけながら狩らないと命がいくつあっても足りないわっ」
やはりパーティはバランスが大事なんだなーと頷く。
「そういえばポチはまだ職がないんだったわね。前衛になってもらえたらうれしいんだけど…」
「無理でしょ。やはり適正もあるもの。」
「職業には適正があるんだ…」
「そうよー適正がある職業ならどれでもやれるんだけど、一度選んでしまったら職は変えられないわ。まあ他の適正職のスキルの習得は出来るから割となんとかなるし、大丈夫だったらよろしくね?」
まあ前衛は悪くないよな…ゲームでも剣とかを使う職が好きでよくやっていた。逆に後衛職が肌に合わなかった感じだ。
「職業はどこでもらえるのかな?」
「教会ならどこでも職業につけるわよ。すぐそこの町にも教会あるし、私達も狩りの報告と素材を売るから一緒にいこうか?」
「素材…?」
2人は腰に小さめな袋をさげているだけで他に持ち物はなさそうだ。素材とやらもそれに入っているんだろうかと気になり、ジッと袋を見つめてしまう。
「ああ、素材はこの中じゃないわよ。ストレージの中に入っているわ。」
「ストレージ…って、えーと見えない道具袋みたいなやつ?」
「そうそれ、ちゃんと知っているじゃない。まあストレージは誰もが持っているから当然よね。入れられる量に差があるのが納得できないけどっ」
今誰でも持っているって言ったような…じゃあ俺も開けるってことだよな?
《ストレージヲヒラキマスカ?》
え?あるの?もちろんひらくよ!
すると目の前にゲームでよく見るアイテム欄が開き、少し右上に出た。中身を確認すると、本が4冊はいっているようだ。
「ほんとだストレージあった。」
「自分のストレージ見たことなかったの…?」
「今初めてみたよ!でも…本が4冊あるだけで他はないな~」
「なんの本なのかしら。」
本のタイトルを確認すると、『職業マニュアル』『モンスター図鑑』『アイテム図鑑』それと何もタイトルのない本の4冊だった。4冊とも取り出して2人に見せる。
「あ、これいいじゃない。『職業マニュアル』職業の種類とどんな職が説明書いてあるし、見ておくといいよ。」
「そうね、どうせ朝まで町に入れないし。」
「え…?」
今町に入れないって言った??
驚いた顔をしていると。2人が困った顔をした。
「あーこれも知らないのね…」
「あらあら。」
▽▽▽▽▽
テントだ。今目の前にはテントが2つならんでいる。アルタとエルザがストレージから出したものだ。どうやら朝までテントで過ごすらしい。
「ポチは…持ってないわねテント。」
「私のテント貸して上げるわ。アルタ、一緒に寝ていいでしょ?」
「3人一緒でも大丈夫そうだけどね~」
「えっ」
まじまじとアルタの顔を眺める。本気でいっているのか?
「スライムに勝てないような人に襲われる心配なんてないじゃないっ」
「ポチよわすぎ。」
馬鹿にされた……っいやまあ襲わないけどね!
「ふ…職についたらそんなこともきっと言えなくなるよ!」
「「はいはい。」」
職について鍛えたら「きゃーかっこいい~」とかいわせてやるぜっ
そんなことを考えつつテントを借りた。普通にありがたい。
「あ、そういえば見張りとかしなくて大丈夫なのかな?」
「大丈夫よーテントに魔物避けの結界が常備されてるから。」
便利だ…安心して寝れるって事だな。テントに入り横になる。忘れてそのまま寝そうになったが『職業マニュアル』を開く。大きく分けると前衛系職、後衛系職、特殊職の3つに分かれているようだ。前衛系は前に出て武器を振るうタイプや盾で耐えるタイプがあるようだ。
「普通に
後衛職は弓や魔法のようだ。魔法にはいろんなタイプがあるみたいで、エルザの回復術士プリーストも後衛職のようだ。ついでに特殊職も見てみるがなんというか…それ以外の変わった職がたくさん書かれていた。
「
特殊は多すぎてよくわからないや。『職業マニュアル』をいったん閉じ、『モンスター図鑑』を開く。内容はまだスライムしか書かれていなかった。
名前:スライム
レベル:2
属性タイプ:無属性、魔法生物
アイテム:-
…レベル2のスライムに勝てなかったのか。アイテムのところが何も書かれていない。はて…何も落とさないか、落としたのを確認するまで表示されないということだろうか?
…ふむ。よくわからない。
『アイテム図鑑』も開いてみるが何も書かれていない。もちろんタイトルのない本は見るまでもなく白紙だった。自分で書き込むためのものなのかもしれない。
一通り持ち物を確認し終わってしまったが眠れない…なれない環境とゲームのような感覚に興奮しているのかもしれない。
何をするにしてもとりあえずは明日職業をもらってからだな!
結局眠くなったのは外がうっすらと明るくなってきてからだった…
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