アイテムボックスに回収される人達ーその①

ーsideアイテムボックスに回収される人達その①ー


「俺、この戦いが終わったら結婚するんだ」


 俺は後方の救護用テント内で今しがた出血多量で息を引き取った親友にげた。


「俺はお前みたいに夢なかばで死ぬわけには行かない。待っている人がいるんだ。」


 こいつとは子供の頃からの親友でいつかS級冒険者になって、魔王を倒し、英雄になるんだ。と、子供のような夢を追いかけていたやつだ。


 この戦いが終わればB級昇格間違いなしだったのに…。










 戦場で俺がへまをして敵に囲まれた。俺が回りを見えていなかったせいだ。魔物を剣で斬りせ、先に進み、魔物を魔法で吹き飛ばし、先に進み…。気づいたら親友以外に仲間はいなかった。


 どうやらハイになっていたらしい。戦争という大規模戦闘のせいかまわりの声が聞こえず、周りも見えずにただ突っ込んでしまったようだ。


 親友だけはそんな俺の後ろをフォローしていた。


 周りは魔物だらけで目の前には、俺じゃ手に終えない魔物がいた。サイクロプスの亜種だ。全身が赤く、通常のサイクロプスの30倍の魔力を持ち、1.5倍の膂力りょりょくに、速さが3倍だ。そして厄介なのはことだ。








ーサイクロプスー

 3メートル前後の巨体で魔法で身体強化し、肉弾戦をしてくる魔物である。

身体強化以外の魔法は得意ではないため、他の魔法はしてこない。


 そして魔力が少ないため、戦闘になれば3分で魔力切れを起こし、魔力枯渇の反動で木偶でくぼうと化す。そのため、サイクロプス戦は3分間、防御や回避に専念し、身体強化が切れたところをたたく、というのがサイクロプス戦のセオリーになる。


 ちなみにサイクロプスの身体強化は体が鋼のように堅くなり、動きにキレがあり、隙がない。そのため、強化中にまともに戦うのはあまり得策でない。


 サイクロプス亜種については上記の説明に捕捉を入れるとまず、魔力が30倍のため、身体強化が30分できる。そして魔力が多いため身体強化以外の魔法も使ってくる。そのため遠距離からちまちま攻撃を与えながら回避に専念するということができなくなる。


 それだけでもしんどいというのに固体ごとに能力が違う固有能力を持っているものが多い。


 S級冒険者パーティの1人が固有能力持ちのサイクロプス亜種に殺された。その固有能力は遠近感がわからなくなるというものだけだった。ただ使うタイミングが絶妙だった。


 20分程の激戦のすえ、もうそろそろサイクロプス亜種の身体強化も切れる頃、いまだに固有能力を使ってこないため、この固体は能力無しとS級冒険者パーティは判断した。そう思って油断していた。


 同じように右ストレートがくる。20分間戦っていたからタイミングはわかる。同じように回避しようとして…。


頭が吹き飛んでいた。


 S級冒険者パーティはすぐさま行動した。仲間が一人死んだ。だが、S級パーティともなれば動揺するより行動する。それができるのがS級。


 S級冒険者パーティは考えを変えた。S級の一人が固有能力を使用した。この固有能力はリスクが高いため、使わなかった。使いたくなかった。そんなこと言っている場合ではなかった。


 結果、その一人の犠牲でサイクロプス亜種を討伐することができた。


 サイクロプス亜種と戦う時は時間を掛けずに倒せ。冒険者ギルドではそんな教訓を冒険者に伝えられる。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 逃げようにもどうにも逃げ切れそうにない…。






「ここは任せて先に行け」


 そんなことを言ってきた。なにバカなこと言ってんだ。という抗議をさえぎるように続けてバカなことを言ってきやがった。


「なぁに。心配する必要はねぇ。もうすぐB級になれるんだ。こんなやつらよゆーだよゆー」


 いつものように笑って自慢のロングソードをかかげる。親友は固有能力を使用して、サイクロプス亜種の胸に風穴をけた。


「いいから!俺に任せて先に行け!」


 怒鳴り付けるように再び俺にバカなことを言ってきた。親友は固有能力持ちだ。いずれS級になれる素質がある。だが、単体相手に強力だが、複数相手にはあまり使えない能力だった。それを知っていたがそれでも俺は足手まといだ。固有能力抜きにしても俺は親友の足元にも及ばない。だから俺はーーー。


俺は親友に背を向け駆け出した。


俺は歯ぎしりをした。



「それでいい…。お前にはーーー。」


 死に物狂いで逃げ走っている俺の耳にそんな声が聞こえた気がした。


その後の記憶は曖昧だ。







 気づいたら救護用のテント内にいた。いつの間にか怪我をしていたのだろか、腕や足に包帯を巻かれていた。


 辺りを見渡していると親友がかつがれて運ばれてきた。酷い出血だった。








ーーー救護班も手を尽くしたが手遅れだったようだ。俺も親友を見た瞬間に手遅れだと理解していた。担がれた時から目を覚まさず、そのまま息を引き取った。


 親友の…。親友のいつも自慢してくるロングソードを手に取る。


 悔しかった。自分の弱さが。自分が親友を置いて逃げることしかできなかった自分の弱さが…。口に出していた。


「もっと俺に力があれば…。」


(力が欲しいか?)


 どこからともなく声が聞こえた。周囲を見る。俺に話しかけているような人はいない。


(力が欲しいかと聞いている。お前にはその素質がある。)


「な、誰だ。」


(前のあるじ程ではないがお前には力が眠っている。


 その力、われの能力でお前に力を授けよう。)


「あるじ?ちから?のうりょく!?」


 はっとした俺は親友の自慢のロングソードを見る。


「まさか!」


(そうだ。そのお前が手にしたロングソードだ。)


「ま、魔剣…」










ー魔剣ー

 魔剣…普通の剣ではない魔力を帯びた特殊な力がある剣である。


 剣に魔力を流し、エンチャントされた剣は魔力剣と呼ばれるが魔剣は剣自身に魔力が宿っており、魔物を斬ることで魔力を溜めることができる。他、大気中の魔力を自動で剣に溜めたり、直接、持ち主が魔力を剣に流し込めたりすることができる。


 剣に溜めた魔力を使用し、特殊な魔法を使用することができる。


 そしてそれらの魔剣は稀に自我を持ち、剣、自ら選んだ持ち主以外には魔法を使用することができない。そのため、自我を持つ魔剣使用者は少ない。自我を持つ魔剣は強力な魔法が使える場合が多い。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



(ふん、我のことより、お前、力が欲しいくないか?)


 俺の親友が使っていたロングソードはただの市販のロングソードだとばかり思っていた。たしか、俺の剣(ブロードソード)が刃こぼれして、研ぎ直してもらい、親友は戦いで剣が折れたため、鍛冶屋に行った時、親友が「お、このロンソ持ちやすくていいなぁ」とかそんな軽いノリで買ってたっけ。


 そんなことを思い出したため、いぶかしげに眉を潜めながら


「ちから?」


(そうだ、力だ。新たに力を手にし、お前の親友のかたきをとりたくないか?)


 親友が亡くなって辛い気持ちとその親友のかたきをとる力がないやるせない気持ちが入り乱れている時にこんな胡散臭い押し売りセールスのようなことを言われたら腹が立つ。ぶっきらぼうに答える。


「そりゃ、とれるもんならとりたいよ。けどな…、」


俺の話はぶった切られた。


(ならば契約はった。力を授けよう。)


「な、」


 契約ってなんだよ。力ってなんだよ。お前ただのロングソードじゃないのかよ。といろいろ言いたかったが、俺は意識を失った。







ーーー気づいたら、シーツを掛けられて親友の横で寝ていた。まぁ、ここ、救護用テント内だし、そのまま誰かが俺にシーツを掛けてくれたんだろか。そして意識を失う前の記憶を思い出だす。


「っ!そうだ!ロングソード!」


俺の手にロングソードが握られていた。



「ま、まさか夢?」


 どうやら親友を失ったショックで変な夢を見ていたようだ。どっと疲れた気がする。


(たわけ!あるじよ、夢ではない。)


どうやら夢ではないらしい。


(主よ、我が力で主の固有能力を引き出した。主は今、固有能力を使えるはずだ。)


 どうやら俺は固有能力を使えるようになったらしい。ん?俺が固有能力を使えるようになった?何をバカなことを…そう簡単に能力が発現するなら苦労しないって。


(…どうやらまだ信じていないような顔をしておるな。どれ、主の能力回路を刺激しやるから感じてみよ。)


 ロングソードがカタカタと震える。瞬間、俺の脳の何かがカチリとハマった感覚がしょうじる。感じる。これが俺の固有能力だと理解した。手で頭を押さえる。そしてハっとする。


「な、固有能力が使える!?」


(ようやく理解したか。…その力で再び戦場に戻れるのではないか?親友のかたきをとれるのではないか?)





息が詰まった。


俺はすぐに答えは出せなかった。


かたきはそりゃとりたい。


でもよ…。


俺は死にたくない。


俺は死ぬわけにはいかない。


待っている人がいるから。




でも、ここで行かなきゃ後悔するような気がした。


親友に助けられ、生き延びた。


親友を助けらずに、生き延びた。


ちからが無かったから助けられた。


ちからが無かったから助けられなかった。



でも、今は違う。


固有能力がある。


親友の魔剣がある。


死ぬ確率がぐっと下がる。


今の俺なら…


(今のあるじはよっぽどのことがない限り死なぬよ)



そう…、


 死なないならかたきをとって、待ってる人のところに行くことだってできるよな。


(覚悟は決まったか?あるじよ)


「ああ。…ところでさ、お前、なんて名前?俺はレイン。これから一緒に戦うんだ。名前くらい知っとかないとな。」


(我が名はガルファ。)


「ガルファ、お前には色々と言いたいことも聞きたいこともあるけど…。とりあえず、よろしくな。ガルファ。」


(ああ。レインが死ぬときまで力を貸そうぞ。)




覚悟を決めた。生きて帰ると。


 そして、親友に向かって今まで恥ずかしくて言えなかったことを告白した。






















「俺、この戦いが終わったら結婚するんだ。」

























ーーー俺は戦場へ駆け出した。


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