五分の一^五

「よ、村山!界外旅行どうだった?」

「仕事だ、大体お前実験中何してたんだよ」

「イリオモテヤマネコが生態系ピラミッドの頂点に立つ世界の調整と……悪い、それ以外ずっとゲームしてたわ」

「もうそれやらなくていいって言わなかったか?」

「いや、結構あれ気に入ってて……」

「これは、仕事なんだから私情を持ち込むな。あと、今回の実験提案したのお前なんだからずっと見てろとは言わないけど数時間おきに確認ぐらいしろよな」

確かに今回の偵察者は俺だったが、実験の提案者なのに殆ど実験の途中経過を見ていないのはおかしいのではないだろうか。

「悪かったよ。それより凄かったな今回。まさか、寿命目的じゃなくて殺人自体を目的にする奴がこんなにいるなんてな」

あの後それなりに時間はあったはずなのに確認すらしてなかったとは呆れるほかない。

「あれは大半が自殺によるものだ」

「え、マジで?……」

呆気にとられたような表情で中嶋は慌ててトーテムに関するデータを見に行った。

つい先ほど『私情を持ち込むな』などと言ってしまったがつい先ほど澤部がトーテムに手をかざしていたのを見てしまった。そのことがまだわだかまりとして残っている。せめて供養ぐらいはしたい。別にそれによって何かしらの影響が生じることはないはずだから問題ないだろう。俺はこっそりともう一度日本に向かった。


澤部が自殺したトーテムがあった場所の近くで花を供え手を合わせた。そして、幸せとは一体何なのだろうか、何故一番豊かに暮らせているであろう人間がこんなにも沢山自殺してしまったのかということを無意識のうちに考えていた。


「村山、勝手に人を殺さないでくれよ」

聞き覚えのある声が俺の耳に届いた。目から得体の知れない液体が出てきて、てっきりこちらの世界に干渉しすぎて中嶋等から罰を受けたのかと勘違いしたがすぐに涙だと分かった。

「お前……どうして生きているんだ?」

俺は、確かに実験室で澤部がトーテムに触っていたのを確認したはずだ。

「それよりお前、何で俺がトーテムに触ったこと知ってるんだ?」

「電柱の陰から覗いてた」

「ああ、なるほどな」

因みに澤部が触っていたトーテムがあった場所は竹林の中で近くに電柱などない。

澤部が馬鹿で助かった。

「俺が何故生きてるかだったな?」

「簡単だ。トーテムには二色あったじゃねーか」

「なるほど」

そう答えたものの、別にどちらか選べというわけではないのだから緑のトーテムにわざわざ触る必要はないのではないだろうか。

「俺はな、『死にたくない』以外で生きる理由が中々見つけられなかったんだ。でもな、動画見ることでも、だらだらすることでも、昼休みにフライドポテト食うためでもどんなに些細なことでもそれが、生きる理由でいいと思うんだよ。その些細なことがあるのとないのとでは大違いだと思う。それに痛みを伴うなら死にたくないって思えれば充分だ。『少子高齢化で大変だろうし仕方ねーからもうちょい生きといてやるよ』ぐらいの心意気で生きとけばいいんだよ。それに、やりたいことがないって言ってる奴はもう数年ぐらい我慢して生きていれば趣味の一つや二つぐらいきっと見つかる。仮に一年で趣味が見つかる確率が20%だとしても五年生きれば大体97%の確率で趣味が見つかる。あの有名なイチロー選手だって野球に出会えなければただの一般人だったかも知れないし今巨万の富を築いている人達だってどっかで違う選択をしてたら普通にサラリーマンやっててもおかしくない。そんなもんなんだよ。それに、お前の言葉をパクってるみたい……というかパクったんだが、死ぬ分にはいつでもできるんだからもうちょっと頑張ってみてどうしてもダメなら自殺でも何でもすればいいだろ?今ちょっと辛いからって言って自殺をすぐに決行するよりはよっぽどいいと俺は思う」


「随分、上から目線だな」

正直、ちょっと前まで自殺しようとしていた奴に言われても全くもって説得力がないが、確かにそうかもなとも思った。

「そんぐらいの気持ちで生きた方が得だっていう話だ。それに今、俺寿命千年分ぐらいあるから生きてるだけで注目の的だ。俺の生きる理由は、千年後に『生きる化石!』みたいな感じでテレビに取り上げられることかな。これ思いついた時はマジで『俺天才!』って思ったわ」

そういうことだったか。

「おお、それは良かったな」

コイツ、もうちょい頭良ければ死んでたかもな……






例の女性のことは黙っておいた。

というかそれ以前に同じこと考えてる奴沢山いるから多分テレビに映ることはないぞ。













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