想い

唐突な澤部の行動に場は騒然となった。

俺も一瞬状況が飲み込めなかったがすぐに澤部の行動の意味を悟り澤部を止めにかかった。

「村山、離せよ!」

「お前今自分がしようとしてることの意味が分かってるのか?」

「当たり前だ。大体、スイスまで行って安楽死しようとしたら100万円かかるんだ。つまり今これに触れば100万だぞ100万。つまりこれに触ることと100万手に入れることは同義だ」

いつも通り支離滅裂な澤部の言動だがいつもと一つだけ違う部分がある。

いつになく澤部の表情が真剣だ。

「離せよ!おいっ!村山!」

こう見えて力には自信がある俺は澤部を強引にトーテムから引き剥がした。

「おい!てめえ……」

騒ぐ澤部をまたも強引に引っ張っていく。

「この階には確か近くに空き教室があったよな?何があったか話してくれ。」

里奈達は唖然としていたがこんな状況でも容易に気づくぐらいにわかりやすく何かを考えているようだった。






「話せ!澤部、どうしてあそこであんな行動を取ったんだ?」

「分かんねーよ……ただ無意識に気がついたらあんな行動に出てたんだ」

嘘はついていない様子だ。

「今まで何となく過ごしてきたけど、あのトーテムが出現してから俺死なないために生きてるに過ぎないんだなって思い知らされたような気がしてさ」

「お前らしくないな」

俺は戸惑いを隠せない。怒りとか悲しみといった感情を認識するのに数秒かかった。一旦状況や感情を整理するために日本に来る前から持っていたメモ帳を開く。

「……今のは忘れてくれ」

「とにかく今はトーテムによる殺人はあまり起きていないみたいだが、もし俺がいなかったらまたトーテムに触りに行くか?」

「…………行くだろうな。別に死んだとしても生まれる前の状態に戻るだけだ。別に怖くもなんともねえ」

少し強がっているようにも見えたがやはり澤部の表情は真剣そのものだ。

「そうか」


残念だがよく考えてみれば澤部の人生は澤部の人生であり俺のものではない。

澤部の意思を尊重するべきかもしれないなとも思った。でも友人が死んでいい気分などするはずもない。

十秒ほど沈黙が続いた。

「……とりあえず、今まで16年か17年か分からないがよく頑張ったな。お前の人生だから止めはしないが俺としてはもうちょい考えて欲しい。死ぬのはいつでもできるが死んだあと『やっぱ生きます』なんてのは通用しないからな」


「”死ぬのはいつでもできる“……」

澤部はこの言葉を何度も反芻しているようだった。

「そうだ。でも、生きることができるのは今だけだ」

「少しの間一人にしてほしい。あの時は一時の感情であんな血迷った行動を起こしてしまったが自分が本当はどうしたいのか、『死にたくない』以外に生きる理由が俺にはあるのかじっくり考えたい」

そう言って澤部は教室の出口に走っていった。

「澤部。またな」

澤部は、一瞬立ち止まったが何も言わずすぐに走り去っていった。











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