渇望

翌日、学校に来ていたのは少なくとも俺のクラスでは俺と澤部ぐらいだった。

教員達も、パニックのあまり昨日、翌日のことについての連絡をよこさなかったが普通に考えて「通学路に手をかざした者の命を奪うオブジェクトがありますが気をつけて登校しましょう」などとは流石にならない。休校が妥当だろう。

「村山ー遅刻するぞ!早くしろー」

という思考ができない人間もいるらしい。

まだ現状を飲み込み切れていないのか と思ったが

「今、両親両方出張中でさ……」

「怖いし一緒に学校行ってくれない?」

別に学校に行く必要はないのではと思ったが俺の家は全く整理されておらず家にあげるわけにもいかないし他に行くあてもないので結局登校することにした。

学校に来る途中、災難にもトーテムポールの餌食になってしまった人間を何人か見た。俺も恐怖を感じなかったと言うと嘘になるが涙目で見つからまいと悲鳴を押し殺していた澤部に比べればほぼ平然としていたに等しい。


「お前がいなければ俺が一番なんだ!」


「やめてくれ!……分かった。こうしよう。もし俺をここで殺さなければお前が一番になれるようにお前を指導してやろう。もちろん俺は出場しない。だから…お願いだからその手をどかしてくれ!」


「うるせえ!そんな口約束信用できるか!」


光の粒子が空に消えていく様子は幻想的で、もしこのような状況でなければつい見入ってしまいそうだ。この時はまだ、澤部も目の前で人間が僅か10秒間の間に光の粒子となって空に消えていく様子に唖然としていたが、3回目にもなると

「質量保存の法則!」などと突っ込んでいる有様で澤部の適応能力には驚かされる。


その後も、多くの光の粒子が空に消えていったが警察が何故かこのことを事件として扱わないということが広まると爆発的に空に舞う光の粒子の数は増えた。

「すげーまるで別世界にいるみたいだ」

「これ全部死体みたいなもんだからな?」

確かに幻想的で綺麗だが、光の粒子一粒一粒に人間という生き物はルールと罰というものがないとまともに生活することすらできないんだねと嘲笑されている気分だ。

「で、澤部。これからどうする?」

「どうした?口調が随分と荒々しいな。何か嫌なことでもあったか?」

「あった。いや、現在進行形である」

「そうだったか。俺でよければ相談乗るぞ。話してみろ」


軽く澤部の頭を小突く。こいつ、本当に澤部か?さっきまで半泣き状態だったはずだが……


「村山ー 先生いないし他のクラス行こうぜ。授業中なのに他のクラスに行くなんて俺たち悪だな〜」


ここに来るまでに他の生徒に一人も会っていない。今日はどう考えても休校だ。休校の日に勝手に学校に来て勝手に授業中ということにして勝手に他のクラスに行って「悪だな」とはいかがなものか。むしろどちらかというと休校の日に学校に来る方が悪なのではないかとも思った。


しばらく校内を歩き回りやっぱりこの状況で登校する奴なんていないかと思ったその時、

「やめてよ!里奈のこと信じてたのに!」

「勝手に信じる奴が悪いんだよ!二度と減らず口を叩けないようにしてやる!」

「私が何したっていうのよ!私が里奈にしたことなんて里奈の彼氏奪ったことと日直の仕事押し付けたこととトランプで賭けしてた時イカサマしたことと……あと里奈の上履き隠したことぐらいじゃない!」

多い!多い!

最初は殺されかけていた里奈とかいう奴に多少は同情していたがこの会話を聞いてしまった以上同情する気にはなれない。

「やめろ!」

そんな俺とは裏腹に、気がついたら澤部は止めにかかっていた。

「とにかく殺人はよくない!」

「あんた何なの?これは私達の問題よ。部外者は引っ込んでなさい!」

「そうよ!そうよ!」

何故か里奈という奴の知り合いらしき人物も抗議を始める。

こいつは自分の立場が分かっているのだろうか。里奈とかいう奴に殺されかけてるんだぞ。

「お前はもうちょい自分の命の心配をしろよ!」

流石に鈍感な澤部でもここは突っ込んだようだ。


「里奈ちゃんにあげちゃえば?」

「お前は……」

昨日の動画の奴。中嶋だ。

「里奈ちゃんのご長寿に貢献してあげればいいじゃん。君の人生観てるとつまんなそうだしさー」

こいつは命を何だと思っているのだろうか。

「これ使えば『痛みなく眠るように死ねる』し」

何気ない中嶋の一言だった。

しかし、その瞬間澤部は不気味な血の色をしたトーテムポールに血眼になりながら飛びついた。











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