第115話 ナンパ?



「良い男いないっすねー……」

「そうですね、つまらない男しかいないです」


 キーラとクレスは喫茶店の外の席に座り、街中を歩く男を物色していた。


 久しぶりの休みに良い男を見つけて、適当に遊びたかったのだが……。


「ここら辺って傭兵も貴族も通る道で、良い男を探すにはうってつけのところだと思ったんすけどね」

「確かに冒険者も貴族も通ってますが……運が悪いのか、目当ての男はいないですね」


 男をよく捕まえて遊ぶ二人だが、やはり遊ぶなら良い男としたい。


 二人の言う良い男というのは、見た目が良いことだ。

 性格も重要だが、一晩遊ぶだけだとしたらやはり見た目が一番だろう。


 二人の男の好みは似ている。


「華奢で可愛い感じの男の子がいいっすけど、やっぱりいないっすよねー」

「そうですね。最近はゴツい傭兵の男としか遊んでいないから、久しぶりに好みの男と遊びたいです」


 二人は傭兵なので、やはり傭兵の男を捕まえるのが一番簡単だ。

 だが、傭兵の男達は二人の好みに合っているものはほとんどいない。


 おどおどしていて華奢な男の子で、成人していないような子がめちゃくちゃ好みなのだ。

 二人がパーティを組んだ理由が、好きな男のタイプが似ているから、というのがある。


 傭兵にはそんな華奢な男の子はいないが、貴族の子供は二人の好みに合う子が時々いる。


 二人がダリオという馬鹿貴族にずっとついていたのは、金払いがいいのと、良い感じの貴族の子に会える可能性が高かったからだ。


 だが最終的に一度も会うことなく、ダリオはとんでもない地雷を踏んで死んでいった。


「というか、この国の貴族の男の子って、太ってる子が多いすんよねー」

「文化の違いでしょう。太っているということは裕福の証、という意味があり、太っている人が多いのです。私達にとっては価値のない文化です」

「あー、だからダリオとかも太ってたんすね」

「いえ、あれはただのデブです」

「あははっ! そうっすね!」


 二人はそんなことを話しながら、街行く人を眺めていた。


 ゴツい傭兵が通る。

 二人は目線を合わすことなく、「なし」と判断。


 小さい貴族の子供が通る。

 年頃は好みだが、太っている体型が「なし」である。


 しばらくそうして街中を見ていたが……ついに、見つける。


「っ! クレス、あの子……!」

「ええ、とても食べ頃です」


 身長も二人より十センチは低い、華奢で大人になりきれていない年齢。

 顔は横しか見えていないが、可愛い顔立ちをしていた。


 格好を見ると、貴族ではないようだ。

 だがなかなか良い服を着ているので、どこかの商人の息子かもしれない。


「良いっすねー。久しぶりにドンピな子を見つけたっす」

「はい、最高です。あれは絶対に食べます」


 そして二人は立ち上がり、その男の子に近づいて行った。



  ◇ ◇ ◇



 テオは、王都で買った服を着て外に出ていた。


 ヘルヴィとは別行動で、久しぶりに一人の時間だ。

 ずっと宿屋の部屋にいるのも考えたが、せっかく王都に来ているのだから外に出た。


 昨日もヘルヴィと一緒に見て回ったが、王都は広い。

 まだまだ見てないところ、寄ってないところはたくさんあった。


「ここら辺は、武器屋とかが多いなぁ……やっぱり、王都の傭兵ギルドが近いからかな?」


 喫茶店などもあるが、武器屋や防具屋などが多い道であった。

 テオも傭兵で最近は短剣を扱っているから、少しだけ店頭に並んでいる武器を見ていく。


「あっ、これカッコいい……」


 短剣を扱っているが、やはりテオは男なので長身の刀などが魅力的に見えてしまう。

 値段を見て目を丸くする。


「えっ、意外と安い! 僕の手持ちでも、ギリギリ買える……」


 自分の財布事情を思い出し、少し店頭で悩んでしまうテオ。


 すると……。


「なんか悩んでるんっすかー?」

「えっ?」

「私達が力になりましょうか? ええ、力になりましょう」


 テオの隣に、二人の女性が突然現れた。

 右に青髪でポニーテールの女性、左に黒の長髪の女性。


 気配もなく現れたので、テオは内心かなり驚いた。


「そ、その、どなたでしょうか?」

「うちはキーラっす」

「私はクレスです。あなたのお名前は?」

「あっ、テ、テオです」

「テオ君っすねー。いや、可愛い名前っす」

「ええ、とてもそそられる名前です」

「あ、ありがとうございます……?」


 褒められているのかよくわからないが、なぜかお礼を言ってしまうテオ。


 両隣を位置取られているので、身動きがほとんど取れない。

 身体もなぜかすごく近い。


「その、何か僕に用でしょうか?」

「武器を熱心に見てたから、お金でもなくて困ってるかなー、と思って話しかけたっす」

「私達が買ってあげましょうか? ええ、買ってあげましょう」

「そうっすねー、これも何かの縁ということで」

「え、えぇ!?」


 何の縁なのか全くわからないテオは、二人が店頭に置いてある長身の刀を持って店の中に入っていくのを止められなかった。


 そして数秒後には、テオの手元にはその刀があった。



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