第116話 ナンパ成功?



 テオは刀を両手で持って、呆然としていた。

 そしてハッとして、知り合った直後の二人の女性に話しかける。


「え、ほ、本当に買ったんですか!?」

「そうっすよー。全然高くなかったっすから」

「い、頂けませんよ! いきなり知り合った女性から、こんなものを……!」

「良い子ですね。とても良い子です。あら、失礼、少しよだれが……」


 クレスが口元に手を当てて、なぜか垂れてしまったよだれを拭っている。


 しかしいくら長身の刀にしては安いとしても、他の刀と比べるとという話だ。

 普通に値段を見ると、一人暮らしの人が余裕を持って一ヶ月は暮らせるぐらいの値段である。


 それを知り合ってすぐ、というかまだ名前しか知らないような間柄なのに、貰うわけにはいかない。


「いいっすよー。うち達がテオ君と仲良くなりたいから買っただけっすから。受け取ってくださいっす」

「で、でも……!」

「いいのです。私達もあなたと知り合えたということで、報酬はもらっているのですから」

「ど、どういうことですか?」

「むっふー。じゃあテオ君、これは貸し一つということでいいっすかね?」

「へ? 貸し、ですか?」

「そうですね。ええ、貸し一つです。そうしましょう」

「わ、わかりました……」


 テオが返事をすると同時に、女性二人の目が妖しく光った。


 テオに気づかれないように、二人は目線を合わせて会話をしていた。


(キタコレ、もう食えるの確定っすわー)

(よくやりました。ヤリました。ヤリましょう)

(このまますぐに連れ込み宿に行きたいっす)

(そうですね、そうしましょう)


 二人はテオにバレないように、また垂れてきたよだれを拭く。


 このまますぐにテオを二人がかりで連れていき、そのまましっぽりと楽しみたい。

 まだ昼ぐらいだが、このまま明日の朝まで二人はテオを離さないかもしれない。


 それだけ二人は現在欲求不満で、テオが二人のドストライクだった。


(もう連れて行くっすか?)

(ええ、そうしましょう)


 二人は最後に確認するように目線で合図し、テオの両腕を二人で確保して強制的に連れて行く――。


「じゃあお二人とも、ご一緒に食事でもしませんか!?」

「へ……?」

「えっ……?」


 テオに触れる前に、突如そんなことを言われて、二人の動きは止まった。


「しょ、食事っすか?」

「はい! 一応僕、お弁当作ってきたんですよ! だけどその……いつもの癖で、二人分作ってしまって」


 テオが持っていた鞄から、大きめの弁当箱を二つ取り出した。


 恥ずかしそうに照れ笑いをするテオ。

 その笑顔に「キュン」を通り越して、「ギュンッ!」と心臓が痛いくらいに高鳴った二人。


「そ、そうなのですか……」

「はい、お二人にお弁当を食べもらいたいと思いまして! あっ、だけどこれだけで刀の代金というか、貸しを返せるだなんて、全く思ってませんよ! 本当に、ちょっとした僕の気持ちというか……」


 喜怒哀楽を身体で表現するような、可愛らしい仕草で弁当箱を見せてくれた。


「テ、テオ君の、手料理ってことっすか?」

「はい! そうです!」

「な、なるほど、そうですか」

「ちゃんと味見もしてますし、いつも通り作ったので、味は保証しますよ!」


 すぐさま連れ込み宿に連行し、一発、いや、何発もヤろうとしてのだが、二人は固まってしまった。

 好みの男の子の手料理など、二人は人生で一度も食べたことがない。


 朝からあのデブ貴族のせいで、何も食べていなかった。

 時間も昼頃で、二人のお腹はちょうど空いている。


 ヤルか、食うか。


 どちらかを迷っていると、テオが声をかけてくる。


「えっと……いらない、ですか?」

「いるっす!」

「もちろんいただきます」

「っ! 良かったです!」


 好みの男の子が悲しそうな顔で弁当を持つ手を下げるのを、見過ごすわけにいかなかった。


「どこか落ち着いて食べられる場所があればいいんですけど……」

「っ!」


 ここだ、とキーラは判断した。


(ここで「宿で食べるっす」と言えば、連れ込み宿に一緒に行けてご飯も食べて一石二鳥……!)


「ではこの近くに高台があるので、そちらで食べますか?」

「あっ、そうですね! 案内お願いできますか?」

「はい、こちらです」

「あれー!?」


 キーラの思惑とは全く違う行動を、クレスがすでに取ってしまっていた。

 しかも普通に自分を置いて、テオの隣を陣取って歩いている。


 キーラはすぐさま追いついて、テオの逆隣に立って歩き始めた。

 そしてクレスと目線を合わせて話す。


(ちょっとクレス! なんで連れ込み宿に行こうって提案をしないんすか!?)

(はっ? テオちゃんのお弁当を、お外で食べたいからです)

(ピクニック気分か! 連れ込み宿に行った方が一石二鳥だったじゃないっすか!)

(あなたはわかっていませんね。馬鹿です、大馬鹿です)

(なんだとー!?)

(この天気の良い日に、こんな可愛い可愛いテオちゃんのお弁当を、お外で食べない理由がどこにあるんですか?)

(さてはクレス……あんた、ガチ惚れっすね?)

(……それが何か?)


 テオを挟んで目線を合わせ、会話をし続ける二人だった。

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