第102話 テオの服
ヘルヴィのスリーサイズが測り終わり、特注で作ってくれる服もすぐに作ってくれるとのことだ。
「礼を言うぞ。今日も何軒か服屋を回ったが、あまり良いのがなかったのでな」
「気に入ったようで良かったです。あの服も、帰りにお渡ししますね」
「……ふむ、頼んだ」
ヘルヴィは頬を少し赤らめながらそう言った。
態度は毅然としているが、顔は赤くなっているので恥ずかしくなっているのがバレバレである。
微笑ましく思いながら、言わないでおいたルナの母親だった。
「テオはどうした? まだルナと服を見ているのか?」
そんなに広くない店内だ。
少し歩けば店内を全て見れるのだが、テオの姿が見えない。
ヘルヴィが軽く魔法を発動して、テオの位置を確認すると……。
試着室の中にいた。
それも、ルナと二人きりで。
「っ! 何をやってる!?」
ヘルヴィは急いで試着室の方へ行き、仕切っているカーテンを開ける。
先程まで、ルナの母親とそういう生々しい会話をしていたので、試着室でテオとルナが二人きりになっているのを見て焦ってしまったのだ。
冷静に考えれば、ヘルヴィが心配するようなこと起こるはずもないのに。
しかしヘルヴィは慌ててカーテンを開けてしまい、その中の光景を見た。
「あっ、ヘルヴィお姉ちゃん?」
「えっ!? あっ、その、ヘルヴィさん、違うんです、これは……!!」
テオが放った言葉だけを聞くと、まさにそういう不誠実な行為を見られたときの言い訳のように聞こえる。
しかしヘルヴィの想像していたことは、中では全くされていなかった。
テオとルナはもちろん、試着室の正しい使い方をしていた。
中で服を着替えるという、普通のことである。
だが違うのは……着る服なのか、着る人の性別なのか。
ヘルヴィが見た光景は、テオがスカートを履いている姿だった。
上は大きめの白のTシャツで、男っぽい角張った体格を隠している。
もともと男性にしては細身なテオだったが、それを着ることで男っぽさがより一層隠れていた。
そして問題の、スカート。
赤が基調で黒色の控えめなチェック柄が入っていて、何よりも丈が短い。
テオの膝から太ももが、結構見えている。
もう少し丈が短かったら、テオの履いているパンツが見えてしまいそうだ。
「ねえねえヘルヴィお姉ちゃん、テオお兄ちゃん可愛いでしょ!」
「ちょ、まっ、待ってください! ヘルヴィさん、僕が着たかったわけじゃないんです……! ルナちゃんが、どうしてもって言うから……!」
テオは顔をこれでもかと言うほど真っ赤に染めて、両手でスカートを押さえてなんとか隠そうとする。
しかしもちろんそれだけじゃスカートは隠れず、むしろその仕草がより一層女の子っぽさを引き出す。
もともと中性的な顔立ちで身長も低かったからか、そのような格好をすると女の子にしか見えなかった。
テオは本当なら女性用の服なんて着たくなかったが、ルナに言われて仕方なく着ただけ。
ヘルヴィに見られるつもりは全くなく、試着室でルナに付き合っているだけだった。
(き、嫌われる……! こ、こんな、女性の服着て……!)
テオとしては、ヘルヴィに嫌われることが一番恐れることであった。
もともと男性的な魅力をあまり見せられてないのに、こんな女の子っぽいところを見られたら嫌われる……!
そう思っていた、のだが。
「……ルナ」
「なに? お姉ちゃん」
「お前は、天才だ」
「ありがとう!」
「うぇっ!?」
ヘルヴィとルナが何か通じ合ったのか、お互いに親指を立てて喜び合っていた。
「ルナ、お前は服のセンスが抜群のようだな」
「ありがとう! お母さんにいつも鍛えられてるから!」
「そうか。ではお前に、テオの服を見繕ってもらいたい」
「わかった! 男性用? 女性用?」
「どちらもだ。女性用の方が数は多くて構わない」
「わかった! 下着は?」
「……っ! どちらもだ!」
「わかった!」
目の前でとてもテンポが良い会話が繰り広げられるが、テオはついていけない。
とりあえずテオが喜ばしいのは、ヘルヴィに嫌われてはいないということだ。
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