第103話 デート終わり



 その後、テオとヘルヴィはいろんな服を……本当に、いろんな服を買って、服屋を出ることにした。


「テオお兄ちゃん……また会えるよね?」


 店を出る際、ルナが寂しそうな顔でテオの服の裾を掴みながら言った。


 テオはしゃがんでルナと目線を合わせ、頭を撫でる。


「うん、また一緒に遊ぼうね」

「……うんっ!」


 テオの言葉にルナは笑顔で頷き、ヘルヴィの顔を見上げながらまた言う。


「ヘルヴィお姉ちゃんも、また遊んでくれる?」


 潤んだ瞳でそう言われたヘルヴィは、テオを相手しているかのような心臓の高鳴りを覚える。


 そのことを表に出さないようにしながら、笑みを浮かべて答える。


「……ああ、もちろん。またな、ルナ」

「うんっ! 約束だよ!」


 満開の笑顔を咲かせて、ルナはヘルヴィに右手の小指を差し出す。

 ヘルヴィもその意図に気づいて、同じように小指を出して絡ませる。


「ゆびきりげんまん、嘘ついたら針千本のーます! 指切った!」

「ふむ、いいだろう。約束だ」

「うんっ!」


 指を離し、ヘルヴィは照れ臭そうにルナの頭を軽く撫でた。



 そしてルナと両親に見送られながら、二人は店を後にした。

 ルナは二人の姿が見えなくなるまで、ずっと手を振り続けていた。


「ふふっ、可愛かったですね、ルナちゃん」

「そうだな」

「また王都にいる間に、一緒に遊びたいですね」

「約束したからな。破ってしまったら指を切られて、拳で一万発殴られ、針を千本飲まされてしまうからな」

「えっ!? あ、ああ……最後の約束のやつですか」


 改めてそう聞くと、約束を破ったら結構酷い目に合うようだ。


「というか、本当にいっぱい買いましたね……」

「……ああ」


 二人は手を繋いで歩いているが、繋いでない方の手にはそれぞれ一つずつの袋。

 テオが縮こまれば入れそうな袋を、二つである。


 ほとんどがテオの分の服である。


 ヘルヴィは魔法で服を作れるし、見れば再現できるので買う必要はない。

 ……しかし、ルナの母親の押し売りで何着か買ったが、それはまだテオには見せていない。


「すいません、僕の分をこんないっぱい」

「いや、私が買いたくて買ったのだから、謝ることはない」


 確かに買ったのはほとんどテオの分だが、全部ヘルヴィが買うと決めたものだ。


 普段着や外着、冒険の時に着れるような服……その他諸々。

 その他諸々の中には、ルナとヘルヴィが一緒になって買った色んな服が入っている。


「むしろ、テオの趣味ではないものを買ってしまったのではないか?」

「い、いえ! た、確かにちょっと、僕が着るもなのかよくわからないのを買ってた気がしますけど……」

「……そうだな」


 少し反省しているのか、気まずそうに遠くを見つめるヘルヴィ。


「だけど、すごい嬉しかったです! 僕、すごい安くなってる古着しか買ったことなかったんで……」


 テオは捨て子で、老夫婦に拾って育てられた。

 その老父婦もテオが十二歳の頃に亡くなり、それからヘルヴィと出会うまでずっと一人で暮らしてきた。


 老夫婦がいた頃も裕福ではなかったが、テオが一人になって稼げる額はその日の生活費と少しくらい。

 決して余裕がある暮らしが出来ていたわけじゃない。


 だからテオは何年も同じ服を使っていたり、買うとしても安い服ばかり。


 今日みたいに服屋に行って、買いたいものを全部買うなど生まれて初めての経験だ。


「まだ買ったやつ、全部着てないですよね? 早く帰って、全部着てみたいです!」

「……もちろんだ。せっかく買ったんだから、全部着ないとな」

「はいっ! 楽しみです!」


 テオはとても嬉しそうに頷いた。


「金ならまだまだある。テオ、これからは我慢せずになんでも好きなものを買うといい」

「えっ!? いいんですか!? だけど今持ってるお金って、全部ヘルヴィさんが稼いだお金で……」


 国からキマイラを倒した報酬を貰ったので、そのお金は倒したヘルヴィのものであるのは確かだ。


「私たちは家族なのだから、私の金はテオのものだ。自分のお金なのだから、遠慮なく使え」

「でも……」

「いいんだ、その方が私も嬉しいからな」

「……わかりました! ヘルヴィさん、ありがとうございます!」


 その後、二人はイデアが用意してくれた宿屋に戻る。

 夕飯はその宿屋が用意してくれる、最高級のものを食べる予定である。


「ヘルヴィさんが買った服も、見てみたいです!」

「っ! あ、ああ、そうだな……今日の夜、見せようとは思うぞ……」

「? はい、お願いします!」


 恥ずかしそうにそう言うヘルヴィに、首を傾げるテオであった。



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