第101話 服屋



 予期せぬことがありながらも、テオ達はルナの両親のお店に着いた。


 他の服屋などと比べると小さな店だが、中に入るととても細部までこだわっている服屋であった。


 テオ達が先程行った高級な店などは、壁や床も綺麗な白だったり、非日常のような緊張感を味わって、それもそれで楽しいが。

 ルナの両親の服屋は、緑などが飾られており、どこか落ち着くような装飾であった。


「なんだか、いい雰囲気ですね……」

「ふむ、私もこの雰囲気は好ましい」

「ありがとうございます。いくらでも見ていってください」

「古着屋みたい、ってよく言われるんですが、新品しか置いてないので安心してくださいね」


 確かに古着が置いてあるような店構えをしているが、服を見ると新品のものばかりだ。

 古臭いという訳ではなく、それだけ落ち着いた雰囲気ということだろう。


「テオお兄ちゃん! 一緒に服見よう!」

「あっ、うん、そうだね」


 ここに来るまでずっとテオの手を握っていたルナ。


 手を握ったまま、テオと二人で店の奥の方に一緒に入っていった。


「すいませんね、ヘルヴィさん。あの子、テオさんに懐いちゃって」

「……ふむ、まあ構わない。正妻の余裕というやつだ」

「ふふっ、そうですか」


 どこか的外れなことを言うヘルヴィに、ルナの両親もなんだか微笑ましくなる。


「兄妹がいないので、テオさんをお兄ちゃんだと思って慕っているようですね」

「そうか。テオも兄妹はいないから、ルナに慕われて喜んでいると思うぞ」

「そうですか、それなら嬉しいですね」


 確かにテオは少し戸惑っているが、ルナに慕われて嬉しいという気持ちの方が大きい。


 それはヘルヴィが心の中を覗いて確認しているので、間違いない。


 テオが迷惑に思っていたのなら、ヘルヴィが無理やりでもルナと引き離している。


「ルナはヘルヴィさんのことも慕ってるようですよ」

「……そうか」

「はい、他人にあまりわがままを言わないあの子が、ヘルヴィさんとテオさんにはわがままを言っているので」


 それもヘルヴィは、すでにルナの心を覗いているから知っている。

 テオのことを兄のように、ヘルヴィのことを姉のようにルナは慕っていた。


 不覚にも、「可愛いものだ」とヘルヴィは思ってしまった。


 だが……。


「テオを奪おうとするのなら、絶対に許さんぞ」

「ふふふ……ルナは本気かもしれませんね」

「ふん、私から奪えるものなら、奪ってみるがいい」

「あはは、ルナも手強い人に喧嘩を売ったなぁ」


 もし本当にルナが大人になったとき、テオのことを狙っていたのなら、受けて立つつもりだ。


 そのときは、ヘルヴィは手加減も一切なく本気で相手になる。

 どういう戦いになるかは……ここでは語らない方がいいだろう。



「ヘルヴィさんも、服をご覧になりますか? 何か探しているものはあるのでしょうか?」

「ふむ、そうだな。一応探しているものはあるが、ここにはあるかどうか」

「何をお探しでしょうか? ヘルヴィさんとテオさんになら、無料で仕立てさせていただきますよ」

「そうか、それはありがたい。私が欲しいのは……」


 ヘルヴィはどういう服が欲しいのかを、ルナの母親に伝えた。


 やはりその服はこの服屋にはなかったが、生地などを調達すればすぐに作られるとのことだ。


「あとはどういう装飾にするかなどは、ここにある服などをご覧になって、どういうのが好みかを私にお伝えください。それにあわせて生地など、装飾などを仕立てさせていただきます」

「そうか、それはありがたい」

「あとは、そうですね。ヘルヴィさんの寸法を確認したいので、こちらまで」

「ああ、そうか。わかった」


 ヘルヴィはいつも魔法で服を着ているので、身体の寸法などは測ったことがない。

 いわゆるバスト、ウエスト、ヒップのサイズというものだろう。


 奥の方に入って、ルナの母親に測ってもらうことに。


 その際、服は邪魔なので下着姿になる。


「やっぱりヘルヴィさん、スタイルがとても良いですね……同じ女性として、羨ましいです」

「ふむ、そうか? まあそうかもな」


 今までほとんど気にしたことがなかったが、テオと一緒になって自分の容姿を再認識した。

 道行く女性たちが羨むような、妬むような目線をしてくるのが嫌でもわかった。


「いいですねー。こんな身体の女性を一人占めできる、テオさんが羨ましいです」

「……なんか生々しいぞ」

「ふふっ、そうですか?」


 今の言葉の言い回しは、どう聞いても確信犯だろう。


「お二人とも若そうなので、毎晩ですよね?」

「……まあ、そうだが」

「ふふっ、やっぱり!」


 確かにテオは若いが、ヘルヴィは若くはない。

 年齢で言えば、一万は軽く超えているのだから。


 だがそれを説明するつもりはない。


「お誘いは、いつもテオさんの方からですか? それとも……」

「……私だが」

「ああ、やっぱり。テオさんは消極的な気がしました」

「わかるのか?」

「ええ、私もそうでしたから」

「そ、そうか……」


 あまり他人と話したことがない話題なので少し戸惑うが、ヘルヴィはそれでも興味はあるので耳を傾ける。


「ヘルヴィさんは、誘われるように工夫はしていますか?」

「く、工夫? どういう工夫をすればいいのだ?」

「ふふふ、じゃあ先程言われた服以外に、とっておきのものをお渡ししますね


 ルナの母親はそう言って、妖しく微笑んだ。



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